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SAPが欧州ソブリンクラウドに230億ドル超を投資 なぜ今、ローカル展開を強化するのかCIO Dive

SAPが欧州でのソブリンクラウドサービスに巨額投資。データ主権とセキュリティへの要求が高まる中、基盤からアプリケーションまで統制を提供し他社との差別化を図る。

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CIO Dive

 SAPは2025年9月2日(現地時間、以下同)に(注1)、欧州においてソブリンクラウド(各国が指定するセキュリティ基準などを満たしたクラウド)のサービスを拡充するために、200億ユーロ(約233億ドル)以上を投資すると発表した。SAPのソブリンクラウドは、データの流れを特定の地域や法域内に制限する仕組みを持つクラウドサービスであり、既に複数のEU加盟国で提供されている。

 今回の拡張により、顧客は欧州各地のSAPのクラウド施設や、ドイツに設置された「Delos Cloud」のデータセンターで稼働するインフラサービスを通じて、SAPのソフトウェア群を利用できるようになる。また、オンプレミスやプライベートクラウドを通じた利用も可能になると発表されている。

AWS、Microsoft、Googleに続きSAPも

 SAPによると、「SAP Sovereign Cloud On-Site」は欧州以外の地域でも利用可能だが、米国は例外になるという。米国ではグループ企業であるSAP National Securityと連携し、プライベートクラウドサービスの展開を進めるようだ。

 SAPがデータセンターやオンプレミス基盤に投資しているのは、業界全体で進むソブリンクラウドの構築の流れに沿った動きだ。特に欧州において、その機運が強く、2026年にはEUのAI法が施行され、既存の一般データ保護規則(GDPR)の要件に加えて、新たなデータプライバシー順守の要件が多くの組織に課されることになる(注2)。

 SAPのクリスチャン・クライン氏(CEO)は、2025年7月に開催した2025年第2四半期の決算説明会で次のように語った(注3)。

 「デジタル主権を実現するための最適な方法に関する議論は、直近数週間で一層活発になっている。インフラからアプリケーションまで、技術スタック全体にわたって主権性を提供できるベンダーはSAPだけだ」

 2025年7月には、Amazonが2025年内に「AWS European Sovereign Cloud」を立ち上げる計画を発表した(注4)。同年6月には、Microsoftが欧州におけるソブリンクラウドのプログラムを拡充し、より強力なセキュリティやローカル設定の機能を追加している(注5)。またGoogle Cloudは、傘下のMandiantを活用して、標準的なパブリッククラウドサービスに代わるソブリンクラウド網を拡大し(注6)、サイバー防御を強化している。

 生成AIの導入が進む中で、企業は自社の機密データをクラウドの大規模言語モデル(LLM)にさらすリスクを負うことになり、セキュリティの重要性は一段と高まっている(注7)。こうした状況において、大手通信企業であるBroadcomは、2025年8月25日の週にラスベガスで開催されたイベント「VMware Explore」で、NVIDIAとの統合を取り入れた「VMware Private AI Foundations」におけるハードウェアの強化についてアピールした(注8)。これは、既存顧客を「VMware Cloud Foundation」のプライベートクラウドバンドルへ移行させるための継続的な取り組みの一環とされている(注9)。

 BroadcomのVCF部門に所属し、プロダクトを担当するポール・ターナー氏(バイスプレジデント)は、発表の中で次のように述べた。

 「私たちの顧客は、信頼性の高いエンタープライズ向けプラットフォームを引き続き活用しながら、AIを使って自由にイノベーションを促進したいと考えている」

 Oracleも収益の成長を促進するためにプライベートクラウドの導入に期待を寄せている(注10)。2024年9月に開催された決算説明会で(注11)、同社の会長兼CTO(最高技術責任者)のラリー・エリソン氏は「オンプレミス基盤の改良によって、データ主権を損なうことなく、企業がパブリッククラウドサービスにアクセスしやすくなった」と述べた。

 SAPのソブリンクラウドおよびプライベートクラウドのオプションには、同社が提供する財務やサプライチェーン、顧客管理、人事といった分野のモジュール型アプリケーション群に加え、「Business Data Platform」やAI機能へのアクセスも含まれている。

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