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AIで基幹業務はどう変わる? NetSuiteが創業以来「最大規模」のアップデートSuiteWorld 2025

OracleはクラウドERP「Oracle NetSuite」の年次イベントで「NetSuite NEXT」の近日公開を発表した。創業以来、最大規模とされるアップデートの内容とは。

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 Oracleは2025年10月6〜9日、米国ラスベガスで同社のクラウドERP「Oracle NetSuite」(以下・NetSuite)の年次イベント「SuiteWorld 2025」を開催した。

 イベントのハイライトは、NetSuite創業者兼エグゼクティブ・バイスプレジデントのエバン・ゴールドバーグ氏が予告した「NetSuite NEXT」の近日公開だ。これは、創業以来最大規模のアップデートとされ、その核心にAI機能の全面的な統合がある。

 本稿は、SuiteWorld 2025の基調講演に基づき、NetSuite NEXTが実現する次世代の基幹業務、そしてAIが企業のビジネスパートナーとなる可能性について解説する。

基幹業務にAIをどう実装するか


エバン・ゴールドバーグ氏(出典:筆者撮影)

 イベント2日目の基調講演に登壇したゴールドバーグ氏は、プレゼンの冒頭で「NetSuite NEXT」の近日公開を宣言した。

 NetSuite NEXTはその名の通り、次世代NetSuiteの機能とそれを実現するアーキテクチャなどを示す総称だ。そしてその原動力はAIだ。1998年の創業以来、最大規模のアップデートとされるNetSuite NEXTの登場で、全ての規模の企業が、最先端のAI機能を業務で活用できるようになると説明する。

 NetSuite NEXTの構成要素は現在開発中であり、数カ月後に既存ユーザー向けプレビューが公開される。その後、2026年から米国を皮切りに順次、NetSuiteの追加機能として実装される予定だ。

 ITベンダー各社の業務アプリケーションがAIを搭載して機能強化を図る中、NetSuiteが提供するAIの優位性はどこにあるか。ゴールドバーグ氏は次のように語る。「創業以来、NetSuiteは業務をシンプルにすることを目指してきた。AI時代でもそれは変わらない。NetSuite NEXTは、日常的な業務の中で使える、実用的なAI機能を組み込む予定だ」

 NetSuite NEXTは、NetSuiteの特徴である単一データベースによって基幹業務を統合する価値を、生成AIによってさらに引き出すことを目指している。

ビジネスの「文脈」を理解して最適な回答を用意する

 NetSuite NEXTの機能の入り口は、「Ask Oracle」と呼ぶチャットウィンドウだ。これは、単なるQ&Aの窓口ではない。ユーザーは、Webブラウザ画面の右下に現れるフォームに自然言語で問いかけることで、NetSuiteに蓄積されたデータに対する分析や予測を得られる。Ask Oracleから自然言語で指示した一定の業務プロセスをAIエージェントが自動的に進め、その結果を受け取ることも可能だ。


画面右下が「Ask Oracle」の入力窓。ここに質問や指示を入力すると、内容に応じてグラフや文章で結果を表示する(出典:ゴールドバーグ氏の講演資料)

 AIを業務レベルで使う場合の問題は、データの信頼性、透明性だ。Webデータを学習した汎用AIモデルの場合、データの出どころをたどれず、ビジネスでの用途はアイデア出しや「壁打ち」相手など、基本的にはたたき台としての情報を提供するものが多かった。

 だが基幹業務でAIを使うとなると、質問はより具体的になり、高い精度の回答を一発で得たい。そうでなければ、業務に使えるAIとは呼べないからだ。

 ゴールドバーグ氏は、NetSuite NEXTのAIが、業務に耐えるAIの要件を満たすことに自信を持っており、基調講演でこう語っている。

 「基幹業務のデータを一つにまとめたNetSuiteのデータベースの特徴は、トランザクションのデータであることだ。トランザクションには、ビジネスの完全なストーリー(文脈)が詰まっている。NetSuite NEXTのAIによって、パワフルで深い洞察を得られる」

 ビジネスの文脈とは、業務の役割やタイミングに応じて異なる要求に対して、適切な回答を得られることを意味する。

 例えば、小売業が在庫の状況を確認する際、月初と月末では判断の閾値(いきち)に違いがあるのが自然だ。また、同じ「進捗(しんちょく)」という言葉で質問しても、現場担当者とマネジャー、事業責任者のそれぞれの役割で、引き出すデータの範囲や回答の中身は異なるはずだ。それらの背景を踏まえた上で、NetSuite NEXTは最適な粒度をそろえた回答をする。

 NetSuiteのAIでは、もともと社内データを学習するために、間違ったデータによる問題を起こす可能性は低いはずだ。しかし、ユーザーはAIがどういうデータを基に判断しているかを知っておく必要がある。そこでNetSuite NEXTでは、AIの回答から得られる全ての数値は、その根拠を示すことができるなど、透明性を持たせる機能を最初から実装する。

 「例えば、Ask Oracleに粗利予測を質問したときの回答をクリックすれば、その数字の根拠となる売り上げや経費を表示できる。予測が自社の基幹システムのデータに基づくものであることが、その場で分かるため、即座に意志決定の材料として使える」(ゴールドバーグ氏)

 NetSuite NEXTのもう一つの特徴が豊富な出力形式だ。Ask Oracleにテキストで聞いてテキストの回答を得るだけでなく、AIが質問内容を判断して、グラフや一覧表などのインフォグラフィックスを示すこともできる。また、それらのデータについてAIが傾向や関係性を説明するナラティブレポート機能も組み合わされており、データを加工する手間なく直感的にビジネスの変化をつかめる。

AIエージェント、外部AIとの連携も強化

 AIエージェントの機能も強化し、基幹データを使った業務のAIによる自動処理を実現する。例えば、決算処理において必要な一連の業務プロセスをAIエージェントが自動化する「Autonomous Accounting」の機能を搭載する予定だ。これによって「ゼロデイクローズ」、つまりユーザー企業は継続的に決算処理をしている状態になり、財務状況のリアルタイムな把握と決算報告の迅速化につながる。「CFOは、自社の財務状況のどこに注目すればいいかを常に把握できるようになる」(ゴールドバーグ氏)

 基調講演では、Ask Oracleのウィンドウに自然言語で指示を出し、AIエージェントが実行した途中経過を確認し、AIへの指示を繰り返すデモが実演された。

 AIの強化はNetSuite本体にとどまらない。外部のAIモデルとの接続など、エコシステムの拡充についても発表があった。

 大きなニュースが、Bill(ビル)との戦略的提携だ。同社は米国の中堅・中小企業向けに買掛金の支払いサービスであるBill.comを提供している。利用社数は50万社以上、取引のネットワークは800万社以上の規模を持つ請求プラットフォームだ。本提携によって、NetSuiteユーザーはBill.comを介した請求書の支払いを自動化できるようになる。

 ビル創業者CEOのルネ・ラカーテ氏は、今回の提携をこう語る。「当社とNetSuiteは長年の関係があり、両社共通のユーザーが多い。そのユーザーは、NetSuiteの中で繰り返される支払いは、スピーディーでリアルタイムに進めたいと考えている。今回の提携強化はそのニーズに応えるものだ」


ビル創業者CEOのルネ・ラカーテ氏(出典:筆者撮影)

 また、オープンソースである「Model Context Protocol」(MCP)のサポートも発表された。一例としてOpenAIが発表したエージェント機能の「Buy in ChatGPT」とNetSuiteを直結する機能も近日搭載予定だ。さらに、NetSuiteはOracleのAIエンジンだけでなく、Anthropic、Googleなどの外部企業が開発する大規模言語モデル(LLM)と接続し、独自のエージェントを開発することも可能になるという。

 ちなみに今回のSuiteWorldのサブタイトルは「NO LIMITS」と掲げられていた。これまでビジネスでAIを使う際には、データの信ぴょう性、プライバシーなど規制が課題となっていた。NetSuiteのAIは、業務で使える実用性、信頼性と拡張性を担保することで、従来の枠を突き破ることができるというアピールだ。

 またゴールドバーグ氏は、NetSuiteのAI組み込みは、テクノロジー主導の進化ではなく、あくまで顧客のニーズを解決することを開発の出発点にしていると語った。「NetSuite NEXTは、単なるビジネスシステムを超えて、ビジネスパートナーになることを目指している。つまり、お客さまの使い方でどこまでも進化する」

 NetSuiteが提供する「実用的なAI」は、地味な基幹業務をワクワクする仕事に変えることができるか。

(取材協力:日本オラクル)

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