富士通・NEC決算から探る2025年下期需要見通し 「AIは業績に貢献しているか?」:Weekly Memo
AIの活用が広がる中、2025年下期の国内IT需要の見通しはどうか。AIがベンダーの業績に貢献するまでには想定以上の時間がかかるのではないか。富士通とNECに聞いてみた。
生成AIの利用をはじめとしたDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが広がる中で、国内IT需要は今後も堅調が続くのか。一方で、AIが需要拡大に貢献するまでには「意外に時間がかかるのではないか」との声もある。
こうした点も踏まえて、国内ITサービス事業大手の富士通とNECが相次いで発表した2025年度(2026年3月期)第2四半期(2025年7〜9月)の決算から両者の受注状況に注目し、見通しを探った。
富士通:「AIでデリバリーのスマート化を推進」
富士通が2025年10月30日に発表したITサービス(同社は「サービスソリューション」と呼ぶ)における第2四半期を含めた上期(2025年4〜9月)の国内受注状況は、全体で前年同期比103%(大型商談を除くと106%)となった。
業種別では、エンタープライズビジネス(製造業などの産業、流通、小売)が前年同期比97%(大型商談を除くと104%)、ファイナンスビジネス(金融・保険)が同101%、パブリック&ヘルスケア(官公庁・自治体・医療)が同108%、ミッションクリティカル他が同108%だった(表1)。
この受注状況について、同社の磯部武司氏(代表取締役副社長 CFO《最高財務責任者》)は会見で次のように説明した。
「全体として前年同期比103%と伸長率が若干弱く見えるが、前年同期に獲得した大型商談を除くと106%となり、単年度ごとのデマンドの巡航速度だと捉えている」
業種別には、「エンタープライズビジネスは前年同期比97%だったが、大型商談を除くと104%の伸長だ。製造が好調に推移し、流通も底堅く推移した。DXやSX(サステナビリティトランスフォーメーション)、モダナイゼーションなどの引き合いが引き続き旺盛に推移している。ファイナンスビジネスは前年同期に金融機関向けの大型商談があったものの、今期も引き続き高水準を維持している。パブリック&ヘルスケアは公共向けで大型商談を獲得した。ミッションクリティカルでは公営競技向けのシステム更新案件を獲得した。また、ナショナルセキュリティも防衛省向けが高水準を維持している」と説明した。
今後の需要については、「国内ITサービス事業は、個々のお客さまを見ると、経済環境の変化によって多少のデコボコがあるが、商談パイプラインの総量は全方位で拡大傾向が続いている。下期も着実な商談獲得を図るとともに、さらなる拡大を図りたい」との見姿勢を示した。
磯部氏はさらに、AIの業績に与えるインパクトについて次のように述べた。
「社内の開発工程への生成AIの適用は急速に広がっており、すでに国内のSE(システムエンジニア)約3万人と協力会社に対して利用環境を整備した。その結果、現在動いている2万件を超えるプロジェクトのうち3分の1程度に適用し、生産性向上を図っている。とはいえ、実際の活用はまだ一部の工程にとどまっているので効果は限定的だ。適用拡大によって効果を上げたい。一方、デリバリーへの生成AIの活用にも注力している。デリバリーの標準化や自動化といったスマート化を進めることでサービスの品質とスピードのさらなる向上を図り、採算性の向上につなげたい」
NEC:「AIを活用した業務プロセス変革を支援」
NECが2025年10月29日に発表したITサービスにおける2025年度第2四半期の国内受注状況は、全体で前年同期比5%減となった。
業種別ではパブリックが前年同期比1%減、エンタープライズが同11%減、子会社他も同5%減と、いずれもマイナスだった(表2)。
この受注状況について、同社の藤川修氏(取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFO)は今後の需要の見込みも含めて、会見で次のように説明した。
左から、NECの山品正勝氏(執行役 Corporate SEVP 兼 Co-COO)、森田隆之氏(取締役 代表執行役社長 兼 CEO)、藤川修氏(取締役 代表執行役 Corporate EVP 兼 CFO)(筆者撮影)
「前年同期比マイナスの数字が並んでいるが、下期にリカバリーし、全体として年間で前年度を超える実績を見込んでいる。需要も堅調に推移すると見ている」
業種別には、「パブリックは自治体システムの標準化や消防防災案件の受注が一巡したものの、官公庁向けの大型案件を獲得し、前年同期並みに高水準を維持している。エンタープライズは前年同期比11%減となったが、引き続きDXの需要が堅調だ。今年度の受注は下期に偏重しており、下期にはプラスに転じる見込みだ。子会社他では事業移管の影響があったが、アビームコンサルティングが引き続き好調に推移している」
このように、両社とも現時点での受注状況の数字としては勢いがないように見えるが、両社のCFOは楽観視しており、今後の需要は堅調に推移すると見てよさそうだ。
AIが業績に貢献するまでには意外に時間がかかる?
グローバルではAI関連需要の急拡大を見込んで関連ベンダーの巨額投資が続いており、「AIバブルではないか」との声も聞かれる。AIバブルかどうかはもう少し様子を見るとして、筆者も取材で「期待が膨らむAIだが、実際にビジネスとして業績に目に見えて貢献するようになるのには、意外に時間がかかるのではないか」との声を聞く。その理由として、「ユーザー企業がAIによって投資対効果を上げるまでに想定より時間がかかるのではないか」との見方がある。ユーザー企業で成果が上がらなければ、ベンダーのビジネスは大きくならない。その悪循環に陥らないかとの懸念があるのだ。
この懸念についてはベンダーの決算にも影響する話なので、この機に両社はどのように見ているか、会見の質疑応答で聞いた。
富士通の磯部氏は、「AIだけを切り出して業績への貢献度合いを見るのは難しいかもしれないが、ITサービスでのAIはさまざまなソリューションに組み込まれているので、全体として業績が向上する形になる。とはいえ、AIは付加価値ではなく、ソリューションの品質やデリバリーのスピードを上げ、もっと根本のデータの利活用の高度化を図る技術として、むしろこれからは活用していかないとビジネスとして成り立たないものになるのは間違いない」と答えた。「AIは『どれだけ貢献するか』ではなく、マストの存在だ」と強調した。
NECの藤川氏も、「AIはITサービスの全てに入っていく。その意味では、これからのITサービス事業の成長は、AIをどれだけうまく活用できるかが大きなポイントになる」と、磯部氏と同じ見方を示した。
さらに、この質問にはNECの会見で藤川氏、そして海外での企業買収について説明した山品正勝氏(執行役 Corporate SEVP 兼 Co-COO《共同最高執行責任者》)とともに登壇した森田隆之氏(取締役 代表執行役社長 兼 CEO《最高経営責任者》)が、次のように答えた。
「懸念があり得るとしたら、AIを組み込むという付加価値型ではなく、AIネイティブな使い方を追求した取り組みだろう。AIネイティブな取り組みというのは、例えば、業務プロセスの変革があてはまる。業務プロセスの変革はすなわち経営改革であることからITだけの話ではないので、周到に準備して取り組む必要があるからだ。当社ではそうしたお客さまの取り組みをしっかりと支援し、成果が出るまでのタイムラグが発生しないように尽力したい」
筆者の上記の質問は言葉足らずだったが、聞きたかったのはまさしく森田氏の発言通りだ。言い方を変えると、AIを「追加」だけでなく「変革」に活用できれば、さらなる企業競争力の強化につながるが、変革の取り組みがうまくいかなければ、投資が大きいほど厳しい状況に陥りかねない。
ただし、だからといって、変革に活用しない手はない。「AIを生かすか生かさないか」、一方で「AIを生かせるか生かせないか」――企業はこの両方を真剣に考えるときに来ている。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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