AIで他社比“3倍”の成果を出す「フロンティア企業」の共通点 MicrosoftとIDCの調査で明らかに:AIニュースピックアップ
MicrosoftとIDCが実施した調査で、企業の68%がAIを導入済みであり、中には導入が遅れている企業と比較して3倍の投資効果を上げている企業があることが分かった。AIで成果を出す“フロンティア企業”は何が違うのか。
Microsoftは2025年11月11日(現地時間)、調査会社のIDCと共同で実施した、AI導入に関する調査の結果を発表した。この調査は世界の企業においてAIに関する意思決定を担うリーダー4000人超を対象に実施された。
その結果によると、企業の68%が既にAIを導入していることが分かった。ただし、その活用度合いと成果には大きな差があり、AI活用の先進企業「フロンティア企業」(Frontier firms)は、導入が遅れている企業に比べて3倍の投資効果を上げているという。
「フロンティア企業」になるための“5つの条件”
フロンティア企業は、単なる業務効率化だけでなく、事業成長や産業構造の変革を主導する存在となっている。MicrosoftとIDCは、こうした企業の共通点として以下の5点を挙げた。
- AIを事業全体に浸透させている点
- 産業固有の価値を引き出している点
- 自社専用のAIソリューションを構築している点
- 自律的に判断・行動できるエージェント型AIを導入している点
- AI関連予算と人材体制の拡充を進めている点
同調査によると、フロンティア企業は平均して7つの業務領域でAIを活用している。顧客対応やマーケティング、IT、製品開発、サイバーセキュリティなどの分野ではリアルタイムの異常検知や自動化、コンテンツ生成によって成果を上げている。ブランド価値向上やコスト削減、売り上げ拡大、顧客体験の改善においても「成果を上げている」と回答したフロンティア企業の割合は、導入が遅い企業と比較して最大4倍だったという。
具体的な事例として、資産運用会社BlackRockは、自社の「Aladdin」プラットフォームにMicrosoftのAIを統合している。AIツールが顧客への分析や提案資料の自動生成を支援し、ポートフォリオマネジャーがリアルタイム分析を参照できるようになったことで、顧客対応の質とスピードを高めている。
産業別の活用では金融サービス、医療、製造の各分野が先頭に立っている。自動車産業ではその一例として、Mercedes-BenzがAIを全社的に展開している。同社は「Microsoft Azure」(以下、Azure)で稼働するデータ基盤「MO360」を利用し、世界30拠点以上の工場をつなぐことで生産の最適化を進めている。塗装工場ではAIシミュレーションを用いてエネルギー消費を約20%削減している。
カスタムAIソリューションの導入も拡大している。調査において、フロンティア企業の58%が自社データや業界知識を反映させた独自AIを利用しており、今後24カ月以内に77%が導入を予定している。Ralph LaurenはMicrosoftと共同で開発した「Ask Ralph」を通じ、顧客が自然言語で質問することでスタイリング提案を得られる仕組みを実現している。この仕組みは「Azure OpenAI Service」を基盤とし、ユーザーの文脈や意図を理解して回答を最適化する。
「エージェント型AI」(Agentic AI)の採用も急増している。これは人の指示を受けつつ自律的に推論・計画・実行するシステムだ。IDCは今後2年間で導入企業数が3倍に増加すると見込んでいる。化学大手DowはAIエージェントを利用して年間10万件以上の輸送請求書を自動分析し、誤請求を検出する仕組みを構築。これにより処理時間を数週間から数分に短縮し、初年度で数百万ドル規模のコスト削減を見込んでいる。
AIへの投資意欲も高まっており、回答者の71%が予算を増額する計画を示した。投資資金はIT部門に限らず、人事や経営、マーケティングなど多方面から拠出されている。IDCのデビッド・シュブメール副社長は「AIの経済的影響は2030年までに22.3兆ドル(世界GDPの3.7%)に達する見込み」と述べ、投資効果を高めるには明確な指標と持続可能なビジネスモデルが不可欠だとした。
Microsoftは同調査の報告書の中で、AIを「実験段階の技術」ではなく「成長のための戦略的な最重要課題」と位置付け、企業が今すぐ行動を起こす必要性を強調している。AIの導入には堅牢(けんろう)な基盤、統制の行き届いた運用体制、組織的な準備が求められるとしており、同社はAzureや「Copilot Studio」などを通じて、各企業がフロンティア企業へと進化するための支援を続けていく方針を示している。
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