Gemini Enterpriseは「エージェンティックAIプラットフォーム」になり得るか? Googleの戦略から考察:Weekly Memo
エージェンティックAIプラットフォームの実現に向けて、Googleが「Gemini Enterprise」を発表した。これまでのGoogleの生成AIおよびAIエージェント戦略を踏まえて、その実現性を考察する。
生成AI、そしてAIエージェントの活用に向けて、この分野でツールを展開する有力な勢力の一つであるGoogleはどのような戦略を描いているのか。とあるイベントでGoogle Cloudの日本法人であるグーグル・クラウド・ジャパンの代表を2025年9月まで6年間務め、その後VP兼エグゼクティブアドバイザーに就任した平手智行氏の話を聞く機会があったので、AIエージェントの活用の行方について考察したい。
Googleの生成AIおよびAIエージェント戦略とは?
とあるイベントとは、クラウドシステムインテグレーターのテラスカイグループが2025年11月7日に都内ホテルで開催した年次イベント「TerraSkyDay 2025」だ。同グループと提携関係にあるグーグル・クラウド・ジャパンの平手氏がキーノートに登壇した。
平手氏はまず、AIエージェントについて、「目的の意味を理解し、自律的に推論、アクション、観察を繰り返し、判断し、実行する。今後は、目的に向けて複数の業務システム間で作業するために複数のエージェントが連携して動くマルチエージェントへと発展していくことが想定される」と説明した(図1)。
そうしたAIエージェントは、ビジネスにどのようなインパクトをもたらすのか。同氏は次の3つを挙げた。
- AIエージェントが分断された情報をつなぐ: 「社内に散らばる情報を1つにし、ツールの壁を越えて検索できるようになるとともに、AIが自ら情報を収集するようになる」(平手氏)
- AIエージェントによってエンドツーエンドで業務を代行できるようになる: 「あらゆるツールと自動で連携し、企画や実行まで一気通貫でサポートできるようになる」(同)
- AIエージェントがスキルや人材の不足を解消する: 「AIエージェントは計画から実行までを自律的に遂行するとともに、市場投入の迅速化と価値を創出できるようになる」(同)
その上で、同氏はAIエージェントが業種や企業規模にかかわらず、ビジネスにもたらす価値として、「業務効率化とコスト削減」「意思決定の迅速化」「顧客体験の向上」「競争力の強化」を挙げた。
こうしたAIエージェントのベースとなる生成AIとして、Googleは「Gemini」を開発し、展開している。平手氏はGeminiの特徴として次の4つを挙げた。
- リアルタイムの情報連携、履歴に基づく提案や、Google検索で回答を再確認できる。
- 動画や画像、音声、テキストなど、ユーザーにとって自然な形でそのまま理解し、処理できる。
- YouTube、Gmail、Google マップなど、Googleのサービスと連携できる。
- 業界最長のトークン数で、1回に処理できる情報量が圧倒的に長い。
こうした特徴を持つGeminiをベースとしたAIエージェントは今後、社会にどのような変化をもたらすのか。同氏は「AIはユーザーと世界との関わり方を変え、可能性を無限に広げている」と述べ、特に「対話型検索」「画像・動画作成」「文章の記述」「発見や調査」といった領域での変化を挙げた(図2)。
例えば、Google検索において、AIが組み込まれる前は「検索開始からサイトでの情報取得、そして取得した情報で行動する」といった流れだったが、AIが組み込まれてからは、「6泊7日の京都旅行のプランを立てて、お勧めのレストランをリストアップして」と要望を伝え、リストアップされた中から「××と△△のレストランを19時で予約しておいて」と指示を出せば、米国など一部の国や地域ではAIが予約を代行してくれるようになった(日本では未提供)。
こうした動きを踏まえ、同氏は「今後は企業における業務システムの設計を、自律的に作業をこなすAIエージェントを組み入れた形で変えていく必要がある」との見方を示した。
エージェンティックAI基盤の一大勢力になる可能性も
「とはいえ、マッキンゼーの調査によると、生成AIは既に約8割の企業が導入しているものの、そのうちの80%以上の企業が『現時点ではまだ収益に実質的に貢献していない』と回答している。このギャップを埋めるためにもAIエージェントの実装が急がれる」
こう述べた平手氏は、そうしたニーズに対応して2025年10月に発表した「Gemini Enterprise」を紹介した。Gemini Enterpriseは「企業のあらゆる業務フローにおいて全従業員がGoogleのAIの能力を活用できるようにすることを目的としたプラットフォーム」で、図3に示すように「頭脳」「ワークベンチ」「エージェント群」の3つの要素を備え、コンテキスト機能やガバナンス機能を装備していることを同氏は説明した。
このGemini Enterpriseについて、企業への導入を支援することを発表したAccentureは、「GoogleのAIを企業のあらゆる立場の従業員が業務プロセスで活用するためのエージェンティックAIプラットフォーム」と表現した。
エージェンティックAIについては本連載でもこれまで幾度も取り上げてきたが、筆者の解釈では「マルチベンダー・マルチタスクをオーケストレーションさせながら全体にマネジメントする技術であり、利用環境」のことだ。その意味からすると、GoogleのAIが前提のGemini Enterpriseはあくまで「GoogleのエージェンティックAIプラットフォーム」だが、Geminiがスタンダードな存在になっていけば、エージェンティックAIプラットフォームの一大勢力になるだろう。
Googleはそうした狙いに向けて、米国時間2025年11月18日にはGeminiの最新版「Gemini 3」とともに、Gemini 3を搭載したGemini Enterpriseを提供開始すると発表した。
さらに、同氏はエージェンティックAIの実現に向けて重要な接続技術となる「MCP」(Model Context Protocol)や「A2A」(Agent2Agent Protocol)の適用にも積極的に取り組んでいることを述べ、とりわけGoogle Cloudが開発しオープンソース化したA2Aについては「採用を表明したベンダーが150社を超えた」ことを明らかにした。その上で、「こうした接続技術の広がりは、マルチベンダー、マルチタスクのAIエージェントの活用を実現する重要なポイントになる」と語った(図4、図5)。
同氏は最後に、AIエージェント時代に向けたトレンドの変化として図6を示しながら、生成AIでは「シンプルなLLM(大規模言語モデル)」から「目や耳の獲得」がなされ、AIエージェントになって「自律的な思考の獲得」から「手足の獲得」も実現可能となったことを述べ、「こうした変革の時代にGoogle Cloudはお客さまの課題に寄り添った“伴走者”でありたい」と結んだ。
折しもGoogleがGemini 3を搭載したGemini Enterpriseを発表した同日、MicrosoftがエージェンティックAIプラットフォームを狙った「Microsoft Agent 365」を発表した。こちらの生成AIは「Copilot」だ。当面、エージェンティックAIプラットフォームの実現は、この2つの動きを中心にビジネスエコシステムの拡大へ向けた勢力争いが繰り広げられることになるのではないか。とりわけ、Googleにとってはこれまで苦労してきたエンタープライズ分野への本格参入からメインストリームにのし上がる絶好のチャンスとなるだろう。今後の動向に注目したい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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