NEC、DXから「AX」へ戦略転換 データ基盤とAIエージェント活用で挑む全社変革:SNOWFLAKE WORLD TOUR TOKYO 2025
NECが「DX」から「AX」へと大きく舵を切った。自社を実験台に、社長の思考を再現するAIや自然言語でのデータ分析基盤を次々と実装している。全社を挙げた変革の最前線に迫る。
日本電気(NEC)が全社を挙げて推進するAI活用が新たな段階に移った。同社はDX(デジタルトランスフォーメーション)からAX(AI Transformation)へと軸足を移しつつあり、AIエージェントによる抜本的な業務改革を進めている。その中核を担うのがデータプラットフォームとAIの融合だ。
NECの秋田和之氏(コーポレートIT戦略部門 グローバルKFP戦略統括部 データドリブン基盤グループ ディレクター)が、同社のAI戦略とSnowflakeを活用した自然言語によるデータアクセスの取り組みについて語った。
本稿は、Snowflakeが開催した「SNOWFLAKE WORLD TOUR TOKYO 2025」におけるセッション「NECのAI戦略を加速するSnowflake活用術と今後の展望」の内容を再構成したものです。
3つのDXで進めるNECの変革戦略
NECのDX戦略は、コーポレート・トランスフォーメーション(社内のDX)、コアDX(お客様のDX)、フラッグシッププロジェクト(社会のDX)の3つの柱で構成されている。特に注目すべきは、同社が「クライアントゼロ」という考え方を採用している点だ。
「お客さまにDXを提案する前に、まずわれわれ自身がDXの恩恵を受けているかを問い直しました。自分たちを実験台にしてノウハウを蓄積し、それをリファレンス化してお客さまに提供する。これがクライアントゼロの考え方です」と秋田氏は説明する。
この考えの下、NECは中期経営計画で「EBITDA成長率 年平均9%」と「従業員エンゲージメントスコア 50%」という具体的な目標を掲げ、全社的な変革を推進している。
データとAIを融合させる「One NEC Data プラットフォーム」
NECのデータ活用基盤の中核を担うのが、2022年4月から稼働している「One NEC Data プラットフォーム」だ。同社には1000以上の社内システムが存在し、クラウド化も進んだことでデータが物理的に分散している。
「物理的にデータを集約するには10年以上かかってしまう。われわれは『Snowflake』によって、物理的な集約とデータ仮想化技術による仮想的な集約を組み合わせたハイブリッドアプローチを採用しました」
このプラットフォームを基盤として、NECは90個以上のダッシュボードを全社に公開し、データドリブン経営を実践している。CxOごとのKPIを可視化したダッシュボードを、コーポレート部門のオフィスに設置した大型ディスプレイに表示するなど、データ活用の文化醸成にも力を入れている。
7つの変革領域で進むAIエージェントの実装
NECは社長直轄プロジェクトとして、7つの領域でAIエージェントの導入を進めている。AI経営マネジメント変革とAI営業変革、AI BPO変革、AIリスク変革、AI SI変革、AI IT運用変革、AIセキュリティ変革の各領域で、既にAIエージェントが稼働を始めている。AI経営マネジメント変革の取り組みとして秋田氏が紹介したのは「CEO AI」だ。同社の森田隆之氏(取締役 代表執行役社長 兼 CEO)が過去1年間に社内外で発言した内容を参照してCEOの観点から提言するAIだ。
秋田氏は「企画を立案する従業員がこのCEO AIと壁打ちすることで、社長の貴重な時間を使うことなく、経営視点でのレビューを得られるようになりました。これにより企画の質が向上し、意思決定のスピードも大幅に改善されています」と太鼓判を押す。
さらに、アカウントプランニングAIやリスクアセスメントAI、投資審査AI、エンゲージメント向上施策AIなど、各業務領域に特化したAIエージェントが、具体的なアクションを支援しているという。
Snowflakeで実現する自然言語データアクセス
現在NECが注目しているのが、Snowflakeの「Cortex Analyst」を活用した自然言語によるデータアクセスだ。これはSnowflakeのAI機能群「Snowflake Cortex AI」の中の一機能で、自然言語をSQL文に変換するものだ。
「自然言語でデータベースに問い合わせる手法は以前から存在していましたが、なかなか実用レベルに達していませんでした。(その壁を超えるための)鍵となるのがセマンティックレイヤーです」
セマンティックレイヤーとはデータの意味的な情報を補足する層のことで、AIがデータを正しく理解するために不可欠な要素だ。Snowflakeでは「セマンティックモデル」を作成することでこれを実現する。Snowflakeの「セマンティックモデルジェネレーター」を使えば、利用するテーブルやカラムを指定することでセマンティックモデルを自動生成できる。生成したモデル(YAMLファイル)を手動で修正することも可能だ。
ただし、「ユーザーごと」という表現の「ごと」をAIが正しく認識できないなど、日本語の曖昧(あいまい)さが問題となることもある。NECではプロンプトチューニングによって前提条件を明確に記載することで、この課題を克服しているという。
AIネイティブ時代に向けた継続的改善の仕組み
NECが目指すのはAIネイティブな組織への変革だ。AIをパートナーとして捉え、人間の業務を代替させることで、より価値の高い業務に人材をシフトさせる構想を描いている。
「既にAIが0.5人分くらいの労働力にはなっていると感じています。さらに(複数のAIエージェントが連携する)Agent2Agent(A2A)の世界も現実になりつつあり、この流れに先んじることが重要です」
そのために不可欠なのが、フィードバックループによる継続的改善だ。最新のナレッジを継続的にアップデートし、AIが参照するお手本となるデータを拡充。さらにAIサービスの活用ログの管理とリスクチェックを徹底し、ユーザーからのフィードバックを常に収集する仕組みを構築している。
「良かったこと、悪かったことをしっかりとフィードバックしないと改善は進みません。この仕組みを作ることが、AI活用を実用レベルに引き上げる鍵となります」
また、AIカルチャーの醸成にも注力している。ナレッジ共有サイト「AX Acceleration Hub」を立ち上げ、従業員がAI活用のアイデアや成果を投稿し、相互にレーティングする仕組みを構築。優れた取り組みはCxOが表彰するコンテストも実施している。こうした活動を通じて、AI活用が特別なものではなく、日常業務の一部として定着することを目指している。
NECは自社のAI活用で得られた知見を「BluStellar」というブランドで顧客に提供している。データ基盤の整備からAIエージェントの実装、組織文化の変革まで戦略的に展開するNECの取り組みは、日本企業のAI活用推進において一つの指針となるだろう。
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