検索
コラム

採用難続くIT部門  欠員補充に"おじさん人材"が選ばれる「背景」編集部コラム

国内企業におけるIT予算の増加傾向が続く一方で、IT部門の採用難が続いている。ITRによると、IT部門の欠員補充に中高年のベテラン人材が選ばれる傾向が強まっている。その背景で何が起こっているのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 企業のIT予算が拡大する一方で、IT部門の採用難が続き、IT投資に対する最終決定権を持つ予算が減少傾向にある。

 ITコンサルティングと調査を手掛けるアイ・ティ・アール(以下、ITR)によると、IT予算を増やす企業が増える一方で、AI導入やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といった「攻めのIT施策」に関して、IT部門が投資に対する最終決定権を持つ予算は減少傾向にある。

 IT部門にとってもう一つインパクトがあるのが人員構造の変化だ。「IT投資動向調査2026」によると、全従業員数に占めるIT人員比率は2025年度に6.1%で、前年度の6.7%から低下した。IT部門の正社員比率は前年度の2.9%から2025年度は2.7%と、0.2%減少している。

図1 総従業員数に占めるIT人員比率の経年変化(出典:『IT投資動向調査2026』)
図1 総従業員数に占めるIT人員比率の経年変化(出典:『IT投資動向調査2026』)

 多くの企業にとってAI導入やDX推進が経営課題となる中で、これまでそれら「攻めのIT」施策の主な推進役を担ってきたIT部門の役割は変わっていくのだろうか。

本稿は、ITRが「IT投資動向調査2026」(注1)として発表したレポートと、同社アナリストが2025年11月に座談会で語った発言を基に、編集部が考察した内容をまとめたものだ

欠員補充で「おじさん人材」伸長の背景

 「IT投資動向調査2026」によると、2025年度にIT予算を増額した企業の割合は47%に達し、IT投資インデックス(IT予算の増減幅を数値化したITRの独自指標)は4.10と同社の調査史上、過去最高を更新した。企業の売り上げに対するIT予算比率も3.2%と、10年以上続いた2%台から初めて抜け出したという。

図2 IT予算額の増減予想(2024〜2026年度予想)(出典:『IT投資動向調査2026』)
図2 IT予算額の増減予想(2024〜2026年度予想)(出典:『IT投資動向調査2026』)

 だが、IT予算増加の要因が「IT施策の充実」だけにあると考えるのは危険そうだ。

 同レポートの発表後に同社が開催した座談会でITRの水野慎也氏(シニア・アナリスト)は、「IT施策を積極的に実施している影響で予算が増えたのか、それとも円安やベンダー側の値上げによって増やさざるを得なかったのかを考える必要がある。クラウドサービスの価格改定やIT人材の人件費上昇を受けてIT予算が押し上げられている面がある」と指摘する。

 IT予算で見逃せないのが、DXやAI関連といった「攻めのIT」予算がIT部門の「外」で増大している点だ。同レポートによると、IT予算とは別に「DX関連予算」として事業部門などが計上しているという企業が27%に上り、これは対前年比で2ポイント増加している。AI関連予算も同様で、IT予算とは別に計上している企業が24%を占める。

 IT部門の予算額は平均42〜43%で横ばいだが、事業部門が独自に予算を持ち、IT部門の関与なくシステムを導入する動きは確実に広がっている。

 ITRの三浦竜樹氏(プリンシパル・アナリスト)は、「AIやDX推進は、IT部門やDX専任部門主導から、業務部門との協働体制にシフトしている。予算も分散傾向にある」と指摘する。

なぜ欠員補充で“おじさん人材”が選好されるのか

 さらに注目したいのが、補充される人員だ。同レポートでは、デジタル戦略遂行のための人材配備策を調査しており、最も多く選ばれたのは中途・キャリア採用で57%だった。新卒採用(54%)や自社内、あるいはグループ企業間の人事異動(36%)に比べると割合は下がるが、伸長率が高いのが定年後や再雇用者などのシニア人材の活用(15%)だ。前年の11%から4ポイント増加している。

図3 デジタル戦略遂行のための人材配備策(出典:『IT投資動向調査2026』)
図3 デジタル戦略遂行のための人材配備策(出典:『IT投資動向調査2026』)

 この背景について、水野氏は「IT部門の採用難」を指摘する。多くのIT部門が採用を計画しているが、計画通りに進まない現状があるという。

 ITRの村井真人氏(アナリスト)が指摘するのは、IT人材を正社員として雇用する方針を見直す動きだ。新卒採用の『来期重視したい』が『今期実施』から12ポイント減少していることから、こうした動きが大企業を中心に出始めているとみられる。「22〜23歳を新入社員として採用して、IT部門でそのまま30年間抱え続けるという『常識』を疑い始めている」(村井氏)

 この背景にあるのが、「AI活用を前提としたITシステムや組織の再構築」だ。ITシステムではAIの可能性を最大限に生かすための基盤整備が進む。組織としては内製化を進めつつ、IT部門では人材を抱えず、外部人材をより柔軟に登用する方向が見えつつある。「大企業を中心に、内製化とAI活用を組み合わせて、外部人材をより柔軟に活用する方向への転換が、現実味を帯び始めている」(村井氏)

 内製化が進む中でIT部門の役割はどう変わるのか。三浦氏は「DXやAIへの投資を含め、これからのIT部門はIT投資におけるビジネスへの貢献度を経営層に示すことが求められる。内製化においても事業部門と協力し、『守りのIT』とビジネス貢献度などの『攻めのIT』との両輪で開発することが重要だ」と指摘する。

筆者のまとめ:IT部門の将来は?

 IT予算が過去最高を更新する一方で、IT部門が「攻めのIT」投資に対する最終決定権を持つ予算は減少し、採用難が続く――。今後、AIに適応するITシステム、組織が求められる中でIT部門が果たす役割はどのようなものになるだろうか。

 これまで全社で進むDX施策やAI導入はIT部門が主体となって企画、推進する企業が多かったが、AIツールが目覚ましく進化する中で、事業部門自身が業務アプリケーションを作成する内製化はますます拡大しそうだ。

 ビジネスニーズに迅速に適応するために実装スピードを重視する事業部門に対して、IT部門がデータガバナンスやセキュリティの観点から組織全体を守る仕組みを設計できるかどうか。事業部門との協力の形がどのようなものになるか、今後も注目したい。

 また、IT人材の採用競争が激しさを増す中、スキルがあり将来的な人件費を抑制できる可能性を考えれば、中高年のベテラン人材の採用は決してIT部門にとって悲観的な材料ではないだろう。しかし、もしIT人材にとってIT部門が「積極的には選ばない選択肢」となっているのであれば、今回触れたIT部門の役割も含めて「IT部門でキャリアを積む魅力」がどこにあるか、見直すべき要素もあるのかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る