検索
特集

ネットワーク自動化はなぜ“PoC止まり”になりがちなのか? 課題と成功の条件

有効性の認識は広がっているものの、本格導入が進まない「ネットワーク自動化」。背景には何があるのか。課題を整理しながら、成否を分けるポイントと実践的な導入の進め方を解説する。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 AIがビジネスや社会を大きく変化させる中、AIを支えるITインフラも関心を集めるようになった。ただし関心の先は、GPU(グラフィックス処理プロセッサ)の処理性能の向上や電力の確保、冷却の工夫などに偏りがちだ。実際には、これらを根底で支えているのはネットワークであり、その重要性は見過ごせない。

 学習や推論といったAI関連処理では、データがクラウドサービスやエッジを含めたさまざまな拠点間でやりとりされる傾向があり、ネットワークの規模も役割も拡大しつつある。こうした変化は、ネットワークの運用管理の複雑さを招く。有効な対策となり得るのが、運用管理を標準化、効率化するネットワーク自動化だ。

写真
ネットワンシステムズの兼松智也氏(ビジネス開発本部 プロダクトマネジメント部 部長)(写真は全て、筆者が講演中に取得したスクリーンショット。所属・役職は全て取材時のもの)

 ネットワーク自動化を巡っては、これまでもさまざまな取り組みが進んできた。にもかかわらず「本格的な導入は進んでいない」と、ネットワークの構築や運用に豊富な経験を持つ、ネットワンシステムズの兼松智也氏は指摘する。

 企業の間では、ネットワーク自動化はPoC(概念実証)や限定的な導入にとどまっているのが実態だ。レガシーインフラとの整合性の難しさやスキル不足、ROI(投資対効果)の見えにくさといった課題が背景にあり、一定の導入障壁が存在するという。

 本稿は、ネットワンシステムズが2026年1月に開催したイベント「netoneDay2025」のセッション内容を基に、ネットワーク自動化の現状と課題を整理する。

なぜネットワーク自動化は広がらないのか

写真
レッドハットの中島倫明氏(技術営業本部 シニアスペシャリストソリューションアーキテクト)

 サーバの運用管理やアプリケーションのデプロイ(配備)に関する自動化は、比較的進んでいる。にもかかわらずネットワーク自動化の普及が遅れているのはなぜなのか。レッドハットで10年にわたって自動化に注力し、通信キャリアなど各社への導入支援に携わってきた中島倫明氏は、その理由として「検証の難しさ」を挙げる。

 仮想マシンやコンテナの普及によって、サーバやアプリケーションは容易に複製できるようになり、自動化の検証がしやすくなっている。ネットワークは本番環境と同等の構成を再現することが難しく、これが自動化の障壁になってきたという。

APIやAIで状況は改善へ

写真
日本ヒューレット・パッカードの有村淳矢氏(技術統括本部 エンタープライズ技術第二本部 兼 パートナー技術本部 部長)

 状況は変わりつつある。近年はネットワークOSを仮想環境で利用できるようになり、検証がしやすくなった。加えてAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)の普及によって、外部からネットワーク機器を制御しやすくなったことも、ネットワーク自動化の後押しになっていると日本ヒューレット・パッカードの有村淳矢氏は指摘する。

 AIもネットワーク自動化に変化をもたらす。AIの得意分野として有村氏が挙げるのが「見える化」だ。大量のデータを基にネットワークの状況を可視化し、その結果を踏まえて改善策を判断し、実行までつなげる――。AIの活用によって、ネットワーク自動化はこうした一連のプロセスを担う方向へと進化しているという。

 ITサービスマネジメント(ITSM)ベンダーのServiceNowは、社内の無線LANにおける電波の自動調整をAIに任せることで、従来は毎月約200件発生していたトラブルチケット(インシデントや問い合わせ対応を管理するチケット)の削減に取り組んだ。取り組みから8カ月後には月2〜4件程度まで抑制したといい、最終的にゼロを目標に掲げている。

 ネットワーク自動化の効果を示す事例として、有村氏は米国のある小売業の取り組みを挙げる。同社は無線LANアクセスポイント約40万台、スイッチ7万台以上という規模のネットワークを、計8人の担当者で運用している。運用管理のワークフローを見直し、APIを介して外部のネットワーク自動化ツールの機能を活用することで、トラブルチケットの対処といった運用作業のほとんどを自動化した。

Ansibleの進化から学ぶ「自動化」が二極化する理由

 中島氏は、ネットワーク自動化を含む自動化全般のニーズについて「効率化につながる取り組みであり、需要は一貫して高い」と指摘する。近年は人手不足やシステムの大規模化を背景に、その傾向はさらに強まっており、自動化に取り組む動きは広がっているという。

 自動化の成果については「『取り組めば必ず大きな成功につながる』というわけではない」と中島氏は話す。自動化は致命的な失敗に至ることは多くないものの、効果は二極化しているというのが同氏の見方だ。自動化によって大きな成果を上げる企業もあれば、一定の改善にとどまる企業もあるという。

 中島氏は、この差が生じる要因について、自社の自動化製品「Ansible」の進化の過程を踏まえて説明する。初期のAnsibleは、メインフレームやサーバ、ネットワークといった幅広い分野について、自動化できる範囲の拡大に注力してきた。その結果、180種類以上の製品を自動化の対象にできるまでに至った。

 近年のAnsibleは、周辺ツールとの連携が進んでいる。運用監視ツールや「ServiceNow」をはじめとするチケット管理ツール、ワークフローツールと連携し、これらをトリガーとして自動化を実行する仕組みが広がってきた。

 中島氏はこうした流れを踏まえて自動化の取り組みを、個別作業を対象とする「点の自動化」と、周辺システムを含めた「フローの自動化」に整理する。その上で、点の自動化にとどまらずにフロー全体の自動化まで踏み込めるかどうかが、成果が限定的にとどまるか、大きな効果を生むかの分かれ目になると指摘する。

 フローの自動化に取り組み、大きな効果を上げたユーザー企業は国内でも何社かあるという。その例として中島氏は、デンソー、キンドリルジャパン、オプテージ、大和総研、SOMPOシステムズ、エーピーコミュニケーションズなどを挙げる。

 「作業そのものだけに注目して自動化しても、得られる効果は限定的だ」と中島氏は指摘する。ITインフラ担当者は実際の作業よりも、それ以外の調整や確認といった業務に多くの時間を費やしているからだというのが、同氏の見方だ。自動化の効果を引き出すには、こうした“作業以外”のことをいかに自動化できるかが鍵になる。

ネットワーク自動化の導入を成功させるには

 ネットワーク自動化を導入する際、ユーザー企業は何に注意すべきなのか。有村氏はまず「現状の構成や運用をしっかりと整理し、将来どうあるべきかの姿(To Be)を描くことが重要だ」と指摘する。その上で、現状と理想のギャップを見極め、どこから着手するかを判断する必要があるという。

 ユーザー企業によってはレガシーシステムが残り、自動化などの新技術を導入しにくい場合がある。有村氏は「自動化には長期的な視点で取り組むべきだ」と語り、自動化が難しい部分はいったん切り離した上で、実現可能なところから段階的に適用範囲を広げるとよいとアドバイスする。

 中島氏は、フローの自動化の重要性をあらためて強調した上で「日常的な作業の構造を正しく把握することが重要だ」と指摘する。具体的には、各作業に要する時間や関与する人数、次のプロセスに進むまでのリードタイムなどを可視化することから始めるべきだという。

 「人は直近の出来事に強く影響されがちだ」と中島氏は語る。例えば直近に発生した障害対応に大変さを感じると、担当者は「その作業を自動化したい」と考えがちだ。だが発生頻度まで含めて長期的に見ると、実はその作業を自動化しても効果は軽微だったりする。こうした偏りを避けるためにも、作業を可視化し、データに基づいて効果の大きいポイントを見極めることが重要になる。

まずは「GitOps」から始めよう

 中島氏は、ネットワーク自動化導入の第一歩として「まず『GitOps』から始める」ことを推奨する。ここでのGitOpsは、具体的には次のようなものだ。まずバージョン管理ツール「Git」にネットワーク機器の設定情報を集約し、変更履歴を一元管理する。その上で、AnsibleがGit内の設定情報を読み取り、ネットワーク機器に自動的に反映させる。

 設定情報の管理は、従来はスプレッドシートを用いた手作業が一般的だった。この方法は人が参照するには問題ない一方、ソフトウェアから扱いにくく、自動化に活用するには適していなかった。Gitを活用すれば、設定情報をそのまま自動化ツールから読み込めることから、設定情報に基づいた作業を一貫して自動化できる。中島氏はこうした点をGitOpsのメリットとして挙げ、ネットワーク自動化導入における有効なアプローチだと紹介する。

 兼松氏は、ネットワーク自動化の導入を成功させる鍵として、テスト環境の整備やガバナンスの重要性を強調する。その上で、現状の可視化や課題の棚卸し、ゴール設定を着実に進めることが重要だという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る