AI時代のSIerの「勝ち筋」とは? 富士ソフトが新体制を始動
「人月商売」からの脱却を図るSIerが増えている。富士ソフトもまた、2026年度から新体制を始動した。生成AI時代に問われるSIerの「勝ち筋」が問われる中、同社が新体制で挑戦する、新たなビジネスモデルとは。
富士ソフトは2026年4月27日、新体制「富士ソフト Gen.2」を始動したと発表した。9つの事業本部を3つのBU(ビジネスユニット)に集約し、CxO制を導入する。同社の室岡光浩氏(代表取締役 社長執行役員 兼 CEO)が記者会見で語った、生成AI時代に問われるSIerの「勝ち筋」と、人月モデルから脱却して目指す新しいビジネスモデルとは。
「縦で稼ぎ、横で鍛え、中央で回す」新体制
富士ソフトが2026年度から開始した新体制の根幹は次の2つだ。
- BU制の導入: 「組込/制御」「社会インフラ」「ソリューション」の3つのBUに再編し、それぞれに損益(P/L)責任を持たせる。3つのBUの売上高比率は、2025年12月期でほぼ1対1対1だ
- CxO制の導入: CEOの下に2名のCo-COO(共同最高執行責任者)を置き、CRO(最高レベニュー責任者)、CMO(最高マーケティング責任者)などがBUを横断して専門領域に責任を持つ。社内人材と外部から登用した人材を融合した「ハイブリッドマネジメント」体制を構築した形だ。
この組織体制について、室岡氏は「縦で稼いで横で鍛えて中央で回す」と表現する。BUが事業を推進し(縦)、CxOが横断機能でガバナンスと支援を担い(横)、CEOが全社最適を図る(中央)形だ。この新体制で同社は、2028年度に営業利益500億円(調整後)以上を目指す。2025年12月期における営業利益約240億円から2倍以上に押し上げる目標だ。
AI時代のSIerの「勝ち筋」とは?
富士ソフトの新体制発足の背景にあるのが、市場環境の構造的変化と、それに伴う変革の必要性だ。同社は、新体制発足を発表するプレスリリースで「生成AIの進展によって、単なる開発・運用の受託ではなく、経営変革や事業成長に伴走するパートナーとしての役割がSIerに求められている」と述べている。
こうした状況変化を踏まえて同社が打ち出すのが、従来の人月型・プロジェクト型中心のビジネスモデルから、オファリング(型化)を軸とした成長モデルへの転換だ。過去の案件で得た知識や経験をパッケージ化し、顧客の経営課題に対して提案、提供することで、再現性ある事業成長を狙う。
現在、オファリング中心のビジネスモデルへの転換を図るSIerは多い。富士ソフトはどのように強みを発揮しようとしているのか。
今回の会見で繰り返し語られたのが、「AIだけでは完結しない、止められない社会・産業システム」と表現される、自動車をはじめとする製造や公共・防衛、金融、流通の領域における同社の強みだ。富士ソフトは自動車領域で2500人を超えるエンジニアを抱える。消費者庁のガバメントクラウド移行プロジェクトでは、14システムを「Amazon Web Services」(AWS)ベースのガバメントクラウドに6カ月間で一括移行した実績を持つ。
「こうした幅広い領域でAIとIT、OT(Operational Technology)を統合し、エンド・ツー・エンドで実行できるSIerは限られている。ここに当社の“勝ち筋”がある」(室岡氏)。同社が「AI時代の差別化要因」とするのが、組み込み制御からスマート工場、フィジカルAIにおける実装力だ。
「800人採用」をなぜ半減したのか――AI時代の人材戦略
新体制とともに語られたもう一つの転換が、人材戦略だ。これまで約8年間にわたって毎年800人を採用してきた同社は、2026年度の採用人数を約半分に絞り込んだ。
長年蓄積してきた教育フレームワークによって、これまで約2年かけて一人前のエンジニアに育ててきた同社がなぜ採用人数を半減するのか。その背景にある人材戦略の転換と、顧客企業のニーズの変化だ。
大迫館行氏(取締役 専務執行役員Co-COO Business Operationsソリューション ビジネスユニット長)は、「これまではIT人材の底上げも兼ねて毎年800人を採用してきた。今後はスタート段階からAIのスペシャリストといった人材を育てるべく、その割合について検討を進めている」と語る。
顧客ニーズの変化としては、特に大手企業から「より高いスキルを持った高度人材を出してほしい」といった要望が増えているという。「具体的には、AIを十分に活用できる人材や、尖った高度技術を持つ人材が求められている」(室岡氏)
こうした人材戦略を実現するため、全社横断で人材戦略を担うCHRO(最高人事責任者)と、技術と育成を担うCTO(最高技術責任者)が新たに設置された。人月型・受託開発からオファリングにビジネスの軸を移すに当たって、より質を重視した育成方針に転換するということでもあるだろう。
人月モデルの先で、SIerは何を売るのか
ここまで富士ソフトの新体制を紹介した。IT人材がSIerをはじめとするIT企業に偏る構造を背景に、これまでSIerは人月積み上げモデルで事業を成長させてきた。しかし、DX(デジタルトランスフォーメーション)需要の増加が拍車をかけるIT人材のひっ迫や、ビジネスニーズに迅速に適応可能なITシステムを求める動き、AI技術の進展による開発手法の変化が同時に進む中で、SIerの事業モデルは転換を迫られている。
富士ソフトの今回の会見には、「AI時代に求められるIT人材像は何か」「人月で稼ぐモデルの先で、SIerはどのような強みで勝負するのか」という問いへの答えが多く含まれていた。
今回の会見で室岡氏は、最終的に変革の実行力を決めるのは人であるとし、「技術者が誇りを持って成長できる環境を整え、次の時代に必要な人材を育てて惹きつけていく会社」を目指すとした。多くのSIerがオファリングモデルへの転換を図る中、同社の挑戦がどのような軌跡を描くのか、今後も注目したい。
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