「最高のAIは最高のデータが支える」 オラクルCEOが語ったAI時代の強み:「Oracle AI World Tour Tokyo」レポート
日本オラクルが「Oracle AI World Tour Tokyo」を開催。初来日のシシリアCEOはAIの信頼性とプロセスへの統合を強調した。国内では「Oracle Alloy」採用が5社に拡大し、データ主権を守る分散クラウド戦略とAIによる業務変革の最前線が示された。
日本オラクルは2026年4月、日本オラクルは2026年4月、「Oracle AI World Tour Tokyo」を開催し、AI戦略やクラウド技術の最新動向を紹介した。基調講演には、今回が初来日となる米オラクル最高経営責任者(CEO)のマイク・シシリア氏をはじめ、本社エグゼクティブが多数登壇。
データ主権を確保しつつ最新機能を活用できる「ソブリンクラウド」の進展や、主要サービスのマルチクラウド展開、そして業務アプリケーションへ直接AIを実装する「エージェンティックAI」の構想など、AI時代を見据えたオラクルの全貌が語られた。
「Oracle Alloy」採用が国内5ベンダーに拡大
Oracle AI Worldは同社エグゼクティブによる講演や事例紹介、技術者向けセッション、展示ブースでの新機能紹介などをするイベントで、日本を含む世界14都市で開催されている。
基調講演の冒頭、壇上に立った日本オラクル代表取締役社長の三澤智光氏は、日本企業のクラウドおよびAI導入を支援するオラクルの姿勢を示し、「クラウドの一極集中によるリスクを解消するため、日本において分散クラウド戦略を積極的に展開している」と語った。
この戦略を実現する中核が、「Oracle Alloy」や、主要サービスのマルチクラウドへの展開だ。三澤氏はデータ主権に対応したクラウドとして、Oracle Alloyが日本のパートナー企業に活用されている状況を示した。既にNRIや富士通、NTTデータが自社のクラウドサービスとして提供していることに加え、新たにソフトバンク、日鉄ソリューションズからの提供も決まった。
「ソフトバンクの東日本データセンターは既に稼働している。日鉄ソリューションズは、西日本のデータセンターを九州に設置し、初のハイパースケールクラウドを提供する予定だ」(三澤氏)
また、Oracle Alloyを採用するパートナーを支援するため、国内で24時間365日対応の「ジャパンオペレーションセンター」を開設し、充実したソブリン体制を敷いていると説明した。
ミッションクリティカルシステムを支える基盤として、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)の実績にも触れた。新たにみずほ銀行が、行内の共通データベース基盤として、OCIと「Oracle Autonomous AI Database」を採用。NTT東西のミッションクリティカルシステムは、NTTデータのOracle Alloyによってクラウドリフトされていく予定と説明した。
また、AI機能を組み込んだ業務アプリケーション群「Oracle Fusion Cloud Applications」の採用も拡大しており、デンソーが財務、人事に加え、新たにサプライチェーン領域で採用したと発表した。「日本を代表する製造業が、本格的にAIを実装していくことで、次世代の製造業の在り方を示していくプロジェクトになると確信している」と三澤氏は話した。
AIは全てを変えるが、信頼が大前提
続いて、本イベントに合わせて来日したオラクルコーポレーション最高経営責任者(CEO)のマイク・シシリア氏が登壇し、AIのもたらすインパクトと、それを支えるオラクルの考え方、技術の現在地について説明した。
シシリア氏は、AI活用で最も重要なのは信頼だとし、「予測精度や提供方法を論じる前に、まずAIが信頼できるものでなければならない」と話した。そして信頼できるようになれば、ビジネスにインテリジェンスを組み込める」とした。
その上で、AIの進化の速さについて言及し、「私たちの期待値が上がったのではなく、前提が完全に変わっている。数年前は手が届かない、数カ月前もできないと思っていたことが、今では当たり前にできるようになっている」と表現する。
そして、AIは実験段階を終え、現在はビジネスに恩恵をもたらしていると語る。日本国内では、野村総合研究所(NRI)による金融サービス業における機密データを保護するAIプラットフォームの構築や、ホンダが調達プロセスを統合して年間約40万時間の作業時間を削減した事例があるとシシリア氏は説明する。
「これらの成果は全て、オラクルのクラウドで稼働するソリューションによって実現されている。オラクルが目指すのは、未来を決定することではなく、顧客が未来を形作るためのツールを提供することだ」
続いて、「AI changes everything」というワードをスクリーンに掲げたシシリア氏は、「われわれは、皆さんのビジネスを圧迫しているものを取り除くためにここにいる。それを使って何をするのかは皆さんの想像力次第だ」と述べる。航空業界におけるプロペラ機からジェット機へのシフトを例に挙げ、「AIは専門領域を取って代わるのではなく、より高みに持ち上げる」と説明する。
AIが煩雑な作業を軽減することで、人間がより高度な戦略的判断に集中できるようになるとシシリア氏は語る。人間はシステムをつなぐことに労力を取られず、人間関係の強化や未来への洞察、最終的には戦略や意思決定のための時間を増やすことができるという。
ただし、AIは後付けではなく、全てのプロセスに組み込まれることが必要で、そうでなければ真価を発揮できないと主張する。
「AIによるビジネス変革には、膨大で信頼できるデータと演算力が不可欠だ。オラクルはこれまで50年間、世界の重要データを支えてきた。現在は世界最大規模のAIクラウドを構築している。AIが財務や人事、製造、小売りなど日常的に使用するアプリケーションに直接組み込まれることで、自動化による劇的な改善をもたらす環境を提供している」
日本の品質や精度の強みはAIでさらに際立つ
講演の後半では、OCIカスタマー・エンジニアリング担当シニア・バイスプレジデントのベン・スカボロー氏、Fusion Applications開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのロンディ・エン氏が加わり、シシリア氏と3人でクラウドやAIの技術、市場動向を展望した。
ここでシシリア氏は、日本市場の重要性に触れ、「日本は製品の精度や品質を重視し、長期的な視点でAI活用を進めている。AIの普及によって、そうした品質やプロセスへのこだわりはさらに際立つだろう。当社は日本オラクルを通じて41年間、日本のイノベーションを支援していることを誇りに思う」と語った。
シシリア氏は本イベントの前日、高市早苗総理大臣と会談し、同社が2024年に表明した日本への80億ドル超の投資などについて話し合ったとされるが、本講演でも、日本への期待を表明した形だ。
次のテーマとして、データ主権の課題が挙がった。シシリア氏は、特定の地域やプライベート環境にデータを保持するニーズに対し、オラクルはパートナーとの協業により、全てのOCIサービスやアプリケーションサービスを提供できる強みがあると述べた。「例えば、医療業界ではプロバイダーがコンピュータシステムに時間を費やし、患者に費やす時間が減っていたが、AIを導入することで大きな改善が見られている」とシシリア氏は話す。
インフラの観点からスカボロー氏は、「最大のAIスーパークラスタを大規模モデルの学習に導入している。顧客のワークロードに合わせて提供できる」と、OCIのパフォーマンスとスケーラビリティの優位性を説明した。
データが分散している現状に対しては、ベクトル検索などの技術を使って、外部のデータソースであっても統合的なデータアクセスを可能にしている点、データガバナンスをデータベースの基盤部分に組み込み、標準でセキュリティを提供できる点を、オラクルの強みとして挙げた。
またエン氏は、アプリケーションの観点から、AIデータプラットフォームの重要性を説明した。「複数の情報源からデータを集め、ガバナンスを効かせながら一貫した形で利用することがAI活用の鍵となる。AIデータプラットフォームはAIのファブリックとなり、その上にAIアプリケーションやワークフローを構築できる」とした。
エン氏はさらに、「単に“枠”を作るだけでなく、エージェントに対してビジネスの目的、つまりどのような目標を達成してほしいのか、どのような役割があるのかを伝えることで、プロセスが完結するシステムだ」とオラクルのエージェンティックアプリケーションの概念を語った。
既に、財務レポートの要約や候補者の絞り込みなど、何万ものエージェントがワークフロー内で稼働しており、AIが自らサプライヤーを見つけ、交渉し、最適化された提案をするような未来が現実になりつつあるという。そして、システムが行動、思考型へと移行する中で、「ユーザーはどのような問題を解決したいのかを考える必要がある」エン氏は語った。
3人の対話では、インフラからデータベース、アプリケーションまで統合された環境が、企業の意思決定と業務プロセスを改善していくという認識が示された。シシリア氏は最後に、「技術に注力するのではなく、ビジネス問題が今後どのような形で展開されるのかを見据え、解決していくことが重要だ」と語った。
ソフトバンクがOracle Alloyで目指す地域クラウド
基調講演の終盤は、三澤氏と国内ユーザー企業との対談がされた。1人目に登壇したソフトバンク常務執行役員の丹波廣寅氏は、同社が6月から開始するOracle Alloyを活用した国産AIサービスの提供について説明した。
「日本全国にデジタルサービスを届けるため、共通のデジタル公共インフラが必要だ。Oracle Alloyによるソブリン性が確保されたクラウド環境によって、企業は機密データを外に出さずに、安心してAIを用いたサービスを開発することができる」(丹波氏)
その上で、日本社会が海外に依存せず、自らが主体となって活動を進めることが重要だという。「ソブリンAIは、そのスタートになると期待している」と丹波氏は日本の競争力向上への支援を表明した。
コロナ禍の経営危機にCloud ERP導入を決断
2人目に、JTB取締役常務執行役員の沖本哲氏が、コロナ禍の経営危機から次なる成長へ向けた経営基盤整備として、オラクルのERPを導入した背景を語った。
沖本氏は事業が致命的なダメージを受けたコロナ禍当時を振り返り、「有事において、全体最適で意思決定をする財務ガバナンスが不可欠だと実感した。次の成長フェーズにおいて財務がリーダーシップを発揮するには、統合された経営基盤が必要だった」と語る。
コロナ禍に導入を決めた「Oracle Fusion Cloud ERP」は、2025年4月に稼働し、業務の95%を標準機能のまま利用している。
沖本氏はAI時代のシステムについて、「“SaaSの死”と言われているが、SaaSは終わるのではなく、AIを実装する『経営のOS』へと進化すると考えている。ERPは骨格であり、AIは神経と捉え、ERPで整備されたデータにAIを重ねて、経営の反射神経を鍛えたい」と説明した。
シシリア氏が「プロペラ機からジェット機に変わった」と話したように、人の移動が劇的に拡張し、社会や仕事も変わった。AIによるビジネスの変革も同じようなインパクトがある。オラクルは、AI時代にユーザーが最適な業務を進めることができるインフラとアプリケーションを提供することで、業務改革、社会変革を支援しようとしている。
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