デンソー、SCMの内製主義から脱却へ 「AIエージェント」で挑むサプライチェーン強靱化:「Oracle AI World Tour Tokyo」レポート
自動車産業の変化が進む中、デンソーは競争力の源泉だったSCMの内製方針を転換し、オラクルのクラウド基盤への移行を決断した。地政学的リスクや技術革新に即応するため、同社が「AIエージェント」による自律型システムに託した狙いは。
日本オラクルは2026年4月、年次カンファレンス「Oracle AI World Tour Tokyo」を開催した。「アプリケーション ジェネラルセッション」と題した講演では、米Oracleのアプリケーション開発担当エグゼクティブ・バイスプレジデント、ロンディ・エン(Rondy Ng)氏が最新の製品戦略を解説。併せて、導入企業であるデンソーがサプライチェーン領域におけるIT戦略を明かした。
オラクルの業務アプリにAIエージェントはどう組み込まれるか
まずエン氏は、業務アプリケーション「Oracle Fusion Agentic Applications」の最新情報を説明した。同社は従来のアプリケーションに生成AIを統合し、さまざまな業務プロセスを自動化するAIエージェントを開発した。開発開始から18カ月で、人事や財務、サプライチェーンなどの領域で1000を超えるエージェントが稼働しているという。
「生成AIを組み込んだOracle Fusion Agentic Applicationsは、ユーザーが自然言語で業務プロセスの目標を設定するだけで、AIが最適な戦略を提案し、実行までを担う」と同氏はデモ画面を交えて説明した。
ユーザー自身も「Agent Studio」を使って独自の業務プロセスを構築できる。外部プロセスとのAPI連携も可能で、セキュリティも確保されている。オラクルが目指したのは、成果重視の自律型システムだとエン氏は語る。
「従来のシステムは、目的に応じてユーザーがシステムに対してすべきことを考える必要があった。しかしOracle Fusion Agentic Applicationsは、ユーザーがKPIを指定すると、エージェントが自ら推論して、目標達成に向けた選択肢をユーザーに提案する。人間が全てのプロセスを管理する必要はなくなり、要所で確認し、判断を下すだけで業務プロセスが完結する」
デンソーがサプライチェーン管理にオラクルアプリケーションを導入する理由
続いて、デンソーの城所幹人氏(ITデジタル本部長、グローバルSC変革プロジェクト長、グローバルIT統括部長)が登壇し、同社のアプリケーション戦略と、オラクルとの関係について説明した。
大手自動車部品メーカーのデンソーは、環境負荷低減や交通事故死亡者ゼロの実現に向け、電動化などのモビリティ領域を中心とした事業を展開している。同社は世界に180以上の拠点を持つグローバル企業であり、地域の独自性を生かしつつ、ネットワークを活用したグローバルな協調体制を構築している。
「当社とオラクルにおけるアプリケーションの協力関係は、古くからの歴史があり、2000年代におけるオンプレミス型のパッケージシステム(JDエドワーズ、ピープルソフト)の導入にさかのぼる。主に会計領域の基幹システムとして長く利用してきた」と城所氏は話す。
その後、2010年代後半から自動車産業において「CASE」(Connected、Autonomous、Shared/Service、Electric)に象徴されるソフトウェア主導の急速な変化が起こった。同社はこれに追随できる仕組みを構築するため、システムのクラウド移行を決断。会計および調達領域から、クラウドERPである「Oracle Fusion Cloud Applications」の導入を進め、現在では世界42拠点での展開を完了。人事領域のクラウドアプリケーションも導入している。またインフラも、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)を活用している。
これにより、グローバル規模での業務の標準化と集約化が進み、集中購買の拡大が経営効率の向上に寄与した。「また、四半期ごとにリリースされるAIやエージェント機能を継続的に活用できるのが、クラウドのメリットであり、当社の競争力維持につながっている」と城所氏は話す。
これまで会計と人事、調達の3領域でオラクルのクラウドアプリケーションを利用してきた同社だが、今回、新たにサプライチェーン管理(SCM)の領域にもオラクル製品を導入することを発表した。その理由と背景を、城所氏はこう語る。
「サプライチェーンは当社の競争力の源泉であり、これまで内製にこだわってきた。しかし、昨今の事業環境の急激な変化や地政学的リスクの高まりに対して、変化に迅速に対応できるシステムが必要となった。加えて、エージェンティックAIなどの技術進化が著しい中、AIを徹底的に活用することで、経営判断の迅速化と高度化を目指したいと考えた」
城所氏は最後に、今後のオラクルとのパートナーシップへの期待として、「デンソーは日本の本社とグローバル拠点が、同一の目線とスピードで変革を推進していこうとしている。オラクルには、グローバルな知見を生かした支援を期待している。自動車産業の業務に対する深い理解に基づき、日々の業務にAIが自然に組み込まれるようなプロダクトとサービスを提供してほしい」と語った。
オラクルも、デンソーのサプライチェーンアプリケーション導入を米国本社の重要案件として位置付け、オラクル側の開発責任者をエン氏が務めるなどの態勢で臨むという。
「本プロジェクトは、オラクルによる日本の製造、自動車分野への投資における重要なマイルストーンだ。デンソーの業務ノウハウを吸収しながら、共同でAI機能の開発を進め、その成果をショーケース化していきたい」とエン氏は語った。
グローバル製造業にとってサプライチェーンの変化対応力強化および強靱化は、最重要課題の一つだ。内製化をやめてクラウドに移行するデンソーの判断は、そのための基盤強化といえる。
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