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AWSの「静かな」戦略シフト OpenAIとAnthropic“1日違い登壇”の意味を読み解くAWS Summit Japan 2026

生成AIで競合するOpenAIとAnthropicを1日違いで基調講演に招く――。「AWS Summit Japan 2026」で浮かび上がったのは、モデルの賢さではなく「別のあるもの」を握ることで、基盤の価値を保ち続けようとするAWSの戦略シフトだ。

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 アマゾン ウェブ サービス ジャパンの白幡 晶彦氏(代表執行役員社長)(筆者撮影)
アマゾン ウェブ サービス ジャパンの白幡 晶彦氏(代表執行役員社長)(筆者撮影)

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)が2026年6月25〜26日に幕張メッセで開催した「AWS Summit Japan 2026」。同イベントで象徴的だったのは、AIベンダーとして競い合うOpenAIとAnthropicが1日目と2日目の基調講演にそれぞれ登壇したことだ。ここから見える、AWSの戦略転換とは何か。

20年前、紙ナプキンに書かれた「ある概念」とは

 1日目、AWSジャパンの白幡晶彦氏(代表執行役員社長)が繰り返し言及したのは、Amazon.com創業者のジェフ・ベゾス氏が紙ナプキンに描いたとされる、「ある概念」だ。

 その概念とは「フライホイール」だ。ビルダーが顧客体験を高め、イノベーションを起こし、フィードバックでサービスが進化し続ける――。こうした循環が20年間AWSを駆動してきた。

 「変えるべきものを変える。そして、貫くべき変わらないものを持つ組織だけが、変化を前向きな動力に変えることができる」。白幡氏はこう述べ、今、フライホイールを回す最も強い駆動力としてAIエージェントを位置付けた。

 ジェフ・ベゾス氏がAmazonとは別に個人で創業した宇宙関連企業のブルーオリジンでは2700超のAIエージェントが本番稼働し、従業員の約70%が活用しているという。国内でも、ソニーグループが構築した生成AI基盤では6万5000人以上が利用し、1日15万件の推論が発生している事例が紹介された。

 白幡氏はAWSの提供価値を「ビルディングブロックの思想」と言い換えた。要件に応じて部品を組み替え、最適なアーキテクチャを構築する。「AWSの生成AIサービス基盤『Amazon Bedrock』はその考えをAIに適用したものだ」と語り、20年前から変わらない設計思想の延長線上に、エージェント時代の“道具立て”を置いてみせた。

AWSの現在のフライホイール(筆者撮影)
AWSの現在のフライホイール(筆者撮影)

 この日最も印象的だったのは、米Amazon Web Services社のデイブ・ブラウン(Dave Brown)氏(コンピューティング・AI・サービス基盤担当シニアバイスプレジデント)が示した「ハーネス」の比喩だ。

 同氏は「モデルが頭脳なら、ハーネスは身体。エージェントの成否を決めているのはハーネスだ」と説き、アイデアから稼働するエージェントを数分で構築できるAIエージェント構築・運用基盤「Amazon Bedrock AgentCore」の新機能「ハーネス」(AgentCore harness)を「必要なのは3つのAPIコールだけ」と紹介した。ハーネスとモデルが分離されているため、ロジックを変えずにモデルを差し替えられる点を強調した。

 もう一つの軸が「コンテキスト」だ。「どれほど優れたモデルでも、ビジネスを理解しているわけではない。答えが分からない時、エージェントは間違った答えを堂々と返す」。ブラウン氏はこう述べ、パブリックデータ、社内の非構造化データ、構造化データの3種を横断して文脈を与える仕組みを並べた。

 既存データから自動でナレッジグラフを構築するAWSの新サービス「AWS Context」は、メタデータをオープンソースのテーブル形式である「Apache Iceberg」で保持し、AWSのオブジェクトストレージ「Amazon S3」から既存ツールでそのまま活用できると説明した。

 モデルの賢さではなく、その外側にある「体」と「文脈」でエージェントの成果が決まる――。競争の軸は、モデル性能そのものから、多数のエージェントを安全かつ経済的に業務へ組み込む段階に入りつつあると言えそうだ。

OpenAIとAnthropicの登壇が意味するものは?

 OpenAI Japanの長﨑忠雄氏(代表執行役社長)(筆者撮影)
OpenAI Japanの長﨑忠雄氏(代表執行役社長)(筆者撮影)

 冒頭でも述べたように、同イベントではOpenAIとAnthropicが1日違いで基調講演に登場した。

 1日目は、OpenAI Japanの代表執行役社長で元AWSジャパン社長の長﨑忠雄氏が登壇し、「クラウドがITを民主化したように、OpenAIは知能を提供し、AIの民主化を目指す」と語った。

 2日目にはAnthropic Japan合同会社の菅野信氏(Applied AI本部長)が登壇し、「AmazonからAnthropicへの出資は最大で330億ドル」と切り出して、同社のAIモデル「Claude」の開発と運用にAWSのAI学習向けカスタムチップ「Trainium」を100万基超使っていることを明かした。菅野氏は「カスタマーファーストのAmazon、安全と信頼性のAnthropic」という言い回しで両社の補完関係を強調した。

 Anthropic Japanの菅野信氏(Applied AI本部長)(筆者撮影)
Anthropic Japanの菅野信氏(Applied AI本部長)(筆者撮影)

 2社をともに招いた姿勢からうかがえるAWSの戦略とは何か。複数のAI事業者と企業顧客を同じクラウド経済圏に引き込み、モデル競争の勝者が誰になっても推論や実行環境、Identity、セキュリティ、課金といった基盤層で価値を取り続けることだ。どのモデルが勝っても、その推論はAWSで走る――。両者の登壇は、こう読み解くこともできる。

 2日目の基調講演に登壇したアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の巨勢泰宏氏(常務執行役員 技術統括本部長)は、20周年を迎えた同社の歩みを半導体の話から始めた。同社独自開発のクラウド仮想化基盤「Nitroシステム」に続き、AWS独自のARMベースCPU「Graviton5」の一般提供開始を告げ、最大の特徴を「エージェンティックAIの強化」を挙げた。「エージェントのワークロードは、推論だけでなく、ツールの呼び出しやファイルの読み書きといったCPU処理を多く含む」。学習・推論向けチップのTrainiumについても、Anthropicとの協業で100万基超を相互接続した環境を共同開発したと紹介した。

 この半導体の話は、AIインフラを最下層として、Bedrockによるモデルの抽象化、AgentCoreによる実行・運用基盤、AWS Contextによる企業コンテキストの提供を順に積み上げる「4層構造」として捉えると、その位置付けの重みが増す。AWSが狙うのは最も優れた単一のエージェントを提供することではなく、あらゆるモデルとエージェントが安全に稼働する共通基盤を握ることなのではないか。

「変わらない蓄積」の上に技術を載せる 東京海上日動とファナック

 技術の連続性をユーザー企業の立場から話したのが、東京海上日動火災保険の歌門正師氏(常務執行役員CITO《最高技術イノベーション責任者》・CISO《最高情報セキュリティ責任者》)だ。歌門氏は同社が1961年に策定した「事務機械化9原則」を取り出し、その第7条を次のように読み上げた。

機械化の効果を高めるために、事務組織および手続きを根本的に改める

 「これは65年前の言葉だが、今この瞬間、我々が向き合っている問いそのものではないか」(歌門氏)

 東京海上日動火災保険の歌門正師氏(常務執行役員CITO・CISO)(筆者撮影)
東京海上日動火災保険の歌門正師氏(常務執行役員CITO・CISO)(筆者撮影)

 同社の転機となったのが、2025年6月末にAWSが提案した「AI駆動開発」だったという。提案からわずか2カ月後に実施した試験導入では、ある業務システムの開発速度が10倍になり、それまで外部委託で半年かかっていたプロトタイプ作成が1日で完了した。「『作ってから確認する』ではなく、『確認しながら作る』へ変わった」(歌門氏)。AI駆動開発を「内製化への道筋」と位置付け、人の成長を最優先に据えた点が印象に残った。

 オムロン サイニックエックスの牛久祥孝氏(Vice President for Research)。同氏はNexaScience 代表取締役、一般社団法人AIロボット協会 理事を兼任している(筆者撮影)
オムロン サイニックエックスの牛久祥孝氏(Vice President for Research)。同氏はNexaScience 代表取締役、一般社団法人AIロボット協会 理事を兼任している(筆者撮影)

 フィジカルAI領域を代表する日本企業からも、同様の視点が語られた。オムロン サイニックエックスの牛久祥孝氏(Vice President for Research)は、科学実験の高速化を題材に「仮説、計画、分析という論理的なプロセスは生成AIが得意とするが、AIだけでは早くできない実験のプロセスが残る」と整理した。

 エージェントを単体にするか複数にするかを比較したところ「マルチエージェントの構成では処理時間が延びる一方、期待するほど品質の差は見られなかったという。必ずしも複雑にすればいいわけではない」と戒めた。

ファナックの安部健一郎氏(常務執行役員 ロボット研究開発統括本部長)(筆者撮影)
ファナックの安部健一郎氏(常務執行役員 ロボット研究開発統括本部長)(筆者撮影)

 ファナックの安部健一郎氏(常務執行役員 ロボット研究開発統括本部長)は、世界で120万台超が稼働する現場の重みを背負って語った。故障予知サービス「Zero Downtime」が長年AWSで運用され、5000件以上の計画外停止を防いできたことを明かした。「1台が学んだことを、全世界のロボットに還元する世界」を描きつつ、「ファナックだけでは足りない。皆さんの技術と知恵が必要だ」と連携を呼びかけた。

「キャズム」を越え、AWSが描く戦略シフト

AWSジャパンの巨勢泰宏氏(常務執行役員 技術統括本部長)(筆者撮影)
AWSジャパンの巨勢泰宏氏(常務執行役員 技術統括本部長)(筆者撮影)

 「AWS Summit Japan 2026」の随所で繰り返されたのが、個人で使うAIと、組織の本番で動かすエージェントとの間に横たわるギャップだ。巨勢氏はこれを「キャズム」と呼び、「1000人が使っても動くか。権限は最小限に絞れているか。応答は組織を代表する声として適切か」という3つの問いを挙げた。この溝を埋めるものとして同イベントで示されたのが、本番運用基盤のAmazon Bedrock AgentCoreだ。

 2日間のイベントを振り返ると、AWSは、他社と競争する場所を「モデル本体」から「モデルの外側の管理レイヤー」へと静かに移しつつあることが見えてくる。同社が今後注力するのは、派手な新モデルではなくハーネス、コンテキスト、Identity、監視といった「モデルの外側」だ。賢さの絶対値ではなく、賢さを企業の業務で安全に、経済的に回し続ける仕組みである。

 この変化は「AWSは『モデルを選べるクラウド』から、『エージェントの制御面』に」と要約できるだろう。半導体を最下層に、Bedrockでモデルを抽象化し、AgentCoreで実行・統制を担い、AWS Contextで企業固有の意味を与える――。OpenAIとAnthropicの両者を同じ経済圏に収容する「選択的オープンネス」は、その制御面を握るための布石とも読める。

 それでも、東京海上日動が言及した65年前の同社の原則や、ファナックが70年の現場の重みを背負った語りからは、「変わらない蓄積の上に、変わっていく技術を載せる」物語がうかがえた。

 “賢いモデル”は数週ごとに入れ替わる。だが、組織が積み上げてきた文脈と規律は、そう簡単には移せない。AWSが握ろうとしているのは、そのモデルの外側の管理基盤だ。この戦略が正しいかどうかの答えは、企業の業務知識と統制がどのプラットフォームに静かに堆積していくかによって決まるのだろう。

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