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「現場が変化を嫌うのは当然」 みずほFGは“経営層と現場の認識ギャップ”、どう克服した?

ロジック(論理)で説明しても、現場は動かない。DX推進で最も難しい課題は「人を変えること」と語るみずほFGの上ノ山CDTOは、これをどう克服したのか。経営層と現場の認識ギャップの存在と、その解消方法に迫る。

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 経営層と現場の従業員は、立ち位置や役割の違いから認識にギャップが生じやすい。

みずほFGの上ノ山信宏氏(筆者撮影)
みずほFGの上ノ山信宏氏(筆者撮影)

 生成AIの発展で多くの企業が業務変革を迫られる中、中長期的な目標を見据える経営層と、目の前の業務に追われながらAI導入にも対応しなければならない現場では、DX(デジタルトランスフォーメーション)に対する意欲や達成実感に開きが生じるのも無理はない。

 みずほフィナンシャルグループ(FG)の上ノ山信宏氏(執行役常務 グループCDTO《最高デジタルトランスフォーメーション責任者》)は、「DXの本質は技術導入ではなく、人と組織を変えることにある」と語る。同氏はCHRO(人事最高責任者)からCDO(デジタル最高責任者)に転じた経歴を持つ。

 上ノ山氏は経営陣の一人として、現場との認識のギャップをどのように見ているのだろうか。また、みずほFGの生成AI活用をどのように進めているのだろうか。

本稿は、メンバーズが主催したイベント「DXリーダーズ・カンファレンス2026」(開催日:2026年6月12日)でみずほフィナンシャルグループの上ノ山信宏氏(執行役常務 グループCDTO《最高デジタルトランスフォーメーション責任者》)が「みずほFG人事出身CDTOが語る『DXの主導権奪還』のためのチェンジマネジメント」というテーマで講演した内容を編集部で再構成したものだ。聞き手はメンバーズの髙野明彦氏(代表取締役社長)が務めた(本文敬称略)。

現場で変革が後回しになるのは「自然なこと」

――DX推進では、経営層と現場の認識の違いが課題になると言われます。

上ノ山: 実感としてもその通りです。

 経営層に近くなればなるほど、日々の実務から離れ、仕事の時間軸も長くなります。経営層は3〜5年先、社長は50〜100年先を見据えています。

 一方で現場は、日々の業務や予算達成に責任を負っています。DXは「追加的な仕事」と捉えられやすく、優先順位が上がりにくい。実務担当者に近くなればなるほど、目の前の仕事をこなさなければなりません。変革への取り組みが後回しになるのは自然なことだと思います。

DXに関する各種達成度の認識について、経営層と現場でギャップが見られることがメンバーズの調査で指摘されている。「明確なビジョン・目標と共通認識」の達成度は経営層・部長層で約73%に対し、課長・主任層は50.9%と20ポイント以上の開きがみられた(出典:メンバーズが大手企業の経営・管理職301人を対象に実施した「攻めのDX実態調査2025」)
DXに関する各種達成度の認識について、経営層と現場でギャップが見られることがメンバーズの調査で指摘されている。「明確なビジョン・目標と共通認識」の達成度は経営層・部長層で約73%に対し、課長・主任層は50.9%と20ポイント以上の開きがみられた(出典:メンバーズが大手企業の経営・管理職301人を対象に実施した「攻めのDX実態調査2025」)

――上ノ山さんはCDO(最高デジタル責任者)からCDTO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)に役職名を変更されましたね。

上ノ山: 私がCDOに就いた2024年頃は、生成AIを業務にどう適用するかが議論の中心でした。しかし、この2年でこの問いが変わり、今は「AIでビジネスそのものをどう変えるか」を考える段階に入っています。

 技術そのものよりも、会社をどう変革するかに軸足を変えていく。その入り口に立ち合っているという思いから「Transformation」の「T」を加えました。変革を成し遂げたという意味ではなく、「これから本格的に取り組んでいく」という意志表示です。

「AIツール1つでは何も変わらない」 みずほFGが「点から線」に急ぐ理由

――みずほFGの生成AI活用は現在どの段階にあるのでしょうか。

上ノ山: われわれの現在地は「点から線に移行する段階」にあります。文章からスライドを自動生成するツールや、アイデア創出、調査などを実行する壁打ちエージェントなど、さまざまなAIツールを内製しています。まだPoC(実証実験)段階のものも多いですが、既に数千人規模で利用されているものもあります。

 一つ一つを見ると、まだ個別のツールにとどまっています。これらを積み重ね、つなぎ合わせることで、より大きな変革につなげようとしています。目指しているのは、点を線にし、面に広げることです。

 エージェントも1つあれば全て解決するわけではありません。複数のエージェントやツールを組み合わせ、それらを適切に連携させることで、より大きな業務プロセスを変えられるようになります。会社全体のオペレーショナルモデルを変えるためには、その段階まで到達する必要があると考えています。

小さな積み重ねを重視する

――大規模なプロジェクトではなく、一つ一つ積み上げるアプローチを重視しているのはなぜですか。

上ノ山: AIの進化は早く、今後も指数関数的に進む可能性があります。そのため、今日の時点でできることを前提に業務改革を考えると、視野が狭くなってしまう。

 われわれはまず5年後の世界を考えます。5年であることに深い意味はありませんが、5年先は簡単に予測できません。AIがさらに進化したとき、どんな業務やビジネスモデルが実現するのか。その大きな「絵」を描くのです。

 ただし、足元では技術も組織もそこまで到達していません。だからこそ、将来の大きな構想を持ちながら、今のレベルでできることを小さく実践する。力を蓄えながら前に進むことが重要だと考えています。

――近年のみずほFGはAI活用のスピードが上がった印象があります。

上ノ山: 一番大きいのは経営の意識の変化です。2024年頃は、OpenAIの「ChatGPT」が登場して「すごい技術だ」という期待はありましたが、業務でどのように活用できるのかは手探りの状態でした。

 しかし2025年頃からAIの能力が急速に向上し、「もっと広い範囲で使えるのではないか」という認識が広がりました。経営としても「AIがある前提でオペレーショナルモデルそのものを変えられるのではないか」と考えるようになったのです。

 2026年に入り、その流れはさらに進んでいます。体制変更も進めていますが、経営トップの意識変化が大きかったと思います。

――みずほFGは内製を重視しています。

上ノ山: 短期的に成果を出すことだけを考えれば、外部委託の方が早いケースもあります。ただ、AIを今後の経営基盤として考えるのであれば、「手の内」にしなければなりません。

 外部委託に依存しすぎると、変化への対応力やアジリティ(機敏性)が失われてしまいます。

 便利なツールを導入するだけであれば、外部委託でも可能です。しかし、それだけでは部分的な改善でしかなく、業務プロセスそのものの根本的な解決には至りません。われわれはスタートが遅くなったとしても、歯を食いしばって自分たち自身でやることを重視しています。

 ただし、全てを自前でやるべきだとは考えていません。自社データや独自ノウハウを活用する領域は内製化する。一方で、世の中にある汎用(はんよう)ツールの方が優れているところでは外部の知見を導入することもあると思います。将来的には、そのベストミックスを追求することになると見ています。

DXで最も難しいことは「人の意識」を変えること

――DX推進で最も難しいことは何でしょうか。

上ノ山: 人の意識を変えることです。現場の従業員は、自分の仕事に責任感を持っています。その仕事を「根本から見直そう」と言うと、自分自身を否定されたように感じる人もいます。また、人間は本能的に安定を求める生き物です。変化はその本能に逆らう行為でもあります。

 だから単にロジックで説明するだけでは不十分です。小さな成功体験を積み重ねながら、「この方向でいいんだ」と確信を持ってもらうことが大切になります。それがチェンジマネジメントの本質だと考えています。

――人事最高責任者からデジタル最高責任者へと転じるのは異色です。

上ノ山: 2024年にCHROとCDOを兼任した時は、正直なところ自分でも理由がよく分かりませんでした。しかし、1年ほど取り組む中でその意味が見えてきました。

 AI活用を進める中で、「ツールをどう使うか」という問いから、「会社をどう変えるか」という問いに変わったからです。会社を変えるためには、人のマインドセットや組織文化まで考えなければなりません。

 人事領域のカンファレンスでもデジタル領域のカンファレンスでも、今は「AI時代に人や組織はどうあるべきか」という議論が活発です。AI導入は単なる業務改善ではなく、企業の在り方そのものを問い直すテーマになりつつあるのだと思います。

――最終的にどのようなゴールを目指していますか。

上ノ山: 現時点では定量的なゴールを描き切れていません。ただ、日本企業全体の生産性向上は避けて通れない課題だと考えています。

 人口減少が進む中、少ない人数でより大きな価値を生み出さなければなりません。企業として生き残るためだけではなく、一人一人が生み出す付加価値を高める必要があります。

 そのためには戦略だけでは不十分です。組織や人材、業務プロセスを一体で変えなければなりません。AI活用が進むほど、問われるのは技術そのものではなく、人や組織の在り方になります。

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