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「情シスはまだ実力の1割しか発揮していない」 AIリストラ時代のキャリアを考える「AIリストラ」の足音とどう向き合う? IT部門の生存戦略

「クビにはならないが、専門性に合う仕事が消滅する」――。過去の技術転換期に起きたことは、AI時代にも起こり得る。ガートナーの亦賀忠明氏にAI時代にIT部門が果たすべき役割と、個人としてのキャリア構築の在り方を聞いた。

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この特集について

エージェンティックAIの台頭に伴い、これまでのIT部門における業務の在り方やキャリアの常識は、大きな転換期を迎えている。この荒波を生き抜く鍵は、旧来の役割から脱却し、AIには代替できない領域へと自らの役割をスライドさせることにある。IT部門が自らの価値を再定義し、主体的にキャリアを選ぶための道しるべを示す。

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ガートナーの亦賀忠明氏(ガートナー提供)
ガートナーの亦賀忠明氏(ガートナー提供)

 「決して沈まない船に乗っているつもりで働いていれば、自分の本来の能力の1割しか発揮できずに終わってしまいます」

 こう語るのは、ガートナージャパン(以下、ガートナー)の亦賀忠明氏(ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)だ。亦賀氏は、先の見えないAI時代にキャリアを再考する際、会社の中に閉じて考えるのではなく、「自分の生き方は自分で決める」ことが出発点になると強調する。

 本特集では、日本のIT部門に忍び寄る「ソフトなリストラ」の実態と、「属人化は悪」だとするスタートアップの価値観による業務変革の在り方を追ってきた。最終回となる本稿では亦賀氏にAIがIT部門に与えるインパクトと個人のキャリアについて聞いた。

プロフィール:亦賀 忠明(またが ただあき)氏(ガートナージャパン ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト)

 ベンダーでのシステム開発や米国でのソフトウェア開発など10年以上のエンジニア経験を経て、1997年にガートナージャパンに入社。ITインフラやクラウド、先進テクノロジーの調査分析を専門とする。近年はAIや産業革命、マインドセットの領域に注力する。ユーザー企業の経営層やベンダーのエグゼクティブに対する戦略アドバイスを手掛ける。

 米国のビッグテックで相次ぐレイオフ(一時解雇)。この目的は単なる人件費の削減ではない、と亦賀氏は指摘する。AIに置き換え可能な領域、あるいは不採算部門から人と資金を引き揚げ、AI開発やデータ基盤といった先端領域に集中させる資源の再配置が主な狙いだ。

 一方、新技術の登場によって仕事がなくなるのは歴史の必然でもある。

 水道の整備によって天秤棒を担いで水を売る仕事がなくなり、自動交換機の登場で電話交換手の仕事がなくなった。亦賀氏自身もかつてはメインフレームエンジニアだったが、途中からオープン系のエンジニアに転身している。新しいテクノロジーによって仕事がなくなるという、これまで繰り返し起こってきた現象を日本だけが免れることはない、と亦賀氏は分析する。

 一方で、日本企業のAI活用に関しては前段に、そもそもAIを生かせる体制になっているかどうかが懸念される。AIを前提としたITシステム、さらにAIを前提とした組織への変革が求められる中で、システムの標準化にどれだけ踏み込めるかが競争力の差として現れるというのが亦賀氏の主張だ。

 こうした中で、「業務にシステムを合わせる」という多くの日本企業がひきずってきた構造が、AIエージェントの実装によってむしろ強化される可能性がある。

日本企業の足を引っ張る「江戸エージェント」とは

 構造強化の背景にあるのが、日本独自のユーザー企業とSIerとの関係だ。

 ユーザー企業の中には、システムの要件定義の段階で、業務部門が挙げた要望がそのまま仕様になるケースが存在する。現場からは既存の業務プロセスを前提とした要望が上がりやすく、その分カスタマイズが増える。SIerから見ると、カスタマイズは利益につながる上に、顧客の要望に沿うという観点からも断りにくい。こうして日本企業のシステムは業務に合わせたものになってきた。

 日本のSIerの多くは顧客が所属する業界に関する知識や業務プロセスへの理解、顧客の要望に寄り添う姿勢を強みとして打ち出している。しかし、こうした強みが、既存の業務プロセスをそのまま自動化するAIエージェントの誕生につながる可能性がある。

 「RPA(Robotic Process Automation)ブームの時も業務にシステムを合わせる企業が多くありましたが、AIエージェントも同じようになりかねません」(亦賀氏)。既存の業務プロセスには置き換え可能な要素や、今では不要になっている作業も含まれている。刷新すべきなのにそのままになっている作業を「江戸」と表現しつつ、亦賀氏は「大金をかけて『江戸エージェント』を作るケースもある。これでは一体どこに向かっているんだ、という話ですよ」と指摘する。

 AIを使っているのに業務が変わらない状態では「人力車に補助モーター(AI)を付けたようなもの」になる。既存業務をAIに置き換えることをAIエージェント構築の目的にしてはいけない――。亦賀氏はこうくぎを刺す。

 一方、AIエージェントの実装で先行している米国をはじめとするグローバル企業では、業務をシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard」が進んできた。「ボトムアップで標準化は進まない。経営陣がトップダウンで意思決定することが欠かせません」

IT部門はビジネスのオーナーシップを握れるか?

 では、現在のIT部門を巡る構造を変えるには何が必要か。亦賀氏が提言するのは、以下の3点だ。

  1. AIの位置付けの見直し
  2. IT部門の役割の見直し
  3. 経営者への働きかけ

 亦賀氏はAIを既存業務を便利にする「文房具」ではなく、国や産業の競争関係を組み替える「産業革命」を起こす存在だと位置付ける。

 日本のIT部門の役割にも見直しが必要だ。既存の業務システムを「子守り」することから出発したため、今も運用保守を主に担当する「御用聞きIT部門」として位置付けられている組織が多い。

 「明文化されてはいませんが、社内の下請け組織としての構造が出来上がってしまっています。従来の名称である『情報システム部門』という呼び方から変えるべきだと思いますね」

 一方で、自社業務に詳しくなる必要はないとする。業務のことは事業部門がよく知っているに決まっている。IT部門に求められているのは業務知識で事業部門と張り合うことではなく、テクノロジー側から価値を出すことだ。「共通インフラとしての“水道”がどういうものかを理解しているIT部門が、“井戸”を使い続けている業務部門に説明する。それがIT部門の役割です」

 加えて、テクノロジーの視点から経営者に働きかけることも重要だ。「先ほどもお話ししたように事業部門からは従来の業務を変えたくないという要望が上がりがちです。事業を営む上での大前提として経営者がAIやIT、業務の在り方を再定義し、IT部門の立ち位置を見直す必要がある。これは経営者にしかできないことで、IT部門が経営者に働きかけるべきです」

 海外ではCIO(最高情報責任者)がテクノロジーによる事業変革のオーナーになる。AIを前提とした組織に生まれ変わろうとする中で、「AIのオーナーシップを取るということは、ビジネスのオーナーシップを取るということ」(亦賀氏)につながる。

不沈船に乗ったままでキャリアは設計できない

 亦賀氏自身、IT業界の中で仕事の消滅を目の当たりにしてきた。冒頭で亦賀氏自身の経験を紹介したが、メインフレームからオープン系システムへの移行が進んだ1990年代、それまでの仕事を失ったエンジニアが多く発生した。新しい技術への転換が間に合わず、それまでと異なる部署に配置換えになるケースも目の当たりにしたという。亦賀氏は、現在のIT部門に向けて「これを他人事だと思わないでほしい」と話す。

 本特集の第1回では、エンジニアリングマネジメントを手掛ける久松剛氏が「個人のキャリアの寿命が、所属企業の寿命を上回る時代」だと指摘していた。亦賀氏も、会社の中の役割に閉じてキャリアを考えるべきではないと語る。会社も決して“沈まない船”ではない。時代の変化に気付かなければ、その会社自体が終わりを迎える。「会社と従業員はあくまで雇用契約に基づく関係で、会社は従業員の面倒を最後までみるための組織ではありません」

 ではこれからのキャリアをどのように描くべきか。亦賀氏は、AIに代替可能な業務が消滅に向かう一方で、AIに仕事を依頼して動かせる人はますます必要とされるとみる。これまでIT部門で多くの時間を割いてきた事務作業やベンダーとの調整作業から抜け出し、AIに指示してアイデアを実現する「クリエイター」になるのも一つの形だ。

 分かれ目になるのが、本人の「WILL(意志)」で、何をやりたいかがはっきりしているかどうかだという。それに加えて亦賀氏が強調するのが、CQ(Curiosity Quotient:好奇心指数)の重要性だ。テクノロジーの進化が速く、一度身に付けたスキルもすぐに古くなる今、未知の技術に対する好奇心と主体的な学習能力を持ち続けることの意味が増している。

 亦賀氏は、AIが前提になる時代を「ニューワールド」と呼び、「野心があってやりたいことがある人にとっては、とてもハッピーな世界」と前向きに語る。

脳を「全開モード」にするために何をやめるべき?

 亦賀氏は刷新されないまま続いている作業として、過剰なミーティングや大量の電子メール、上司への説明に費やす時間などを挙げる。AIをはじめとする代替手段がある今、「『本当にやるべき仕事なのかどうか』を自分自身で考えた方がいいと思います」とアドバイスする。

 空いた時間は、新しいスキルの習得に充てる。具体的には1日のうちの約2割をこうした時間に充てるのが理想だという。「新しいスキルを学ばなければ、5〜10年後は食べていけなくなる」と、同氏は危機感を込める。

 もっとも、日本のビジネスパーソンにとって新しく学ぶことのハードルは高いようだ。パーソル総合研究所の「グローバル就業実態・成長意識調査」(2022年)によると、勤務先以外で学習や自己啓発を「特に何も行っていない」と回答した日本の就業者は52.6%と、調査対象の18カ国・地域で最も多くを占めている。

 しかし、新しい技術を習得する環境は既に整っている。クラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」や「Microsoft Azure」の基本的な認定資格であれば、「1カ月もあれば取得できるでしょう」(亦賀氏)。OpenAIの「ChatGPT」やAnthropicの「Claude」といった生成AIも、無料で使い始められる。

 亦賀氏はなかなか重い腰を上げられない人に向け、エンジニア、あるいは技術関連の仕事に就こうと思った理由を思い出してみようと語る。「『新しい技術を触るのが楽しい』『世の中を技術で良くしたい』――私もそうでしたが、初めはそんな思いがあったはずです。AIに作業を任せて、自分の脳を解放して全開モードにすれば、3年後の人生は全く変わっていますよ」

 AIが前提となる世界の到来は企業だけでなく個人にとっても転換期であり、チャンスにもリスクにもなり得る。日本人は「検討する」と言って決断を引き延ばす傾向があるが、その余裕はもうない。自分自身が「主人公として生き方を決める」ことが重要だというのが、亦賀氏のメッセージだ。

 「“江戸時代”は終わるんだと見極めて、ニューワールドへ行くかどうかを決めることです」


 未知の世界、未知のスピードで進化する技術は誰にとっても不安や、場合によっては恐怖の源にもなり得るものだ。しかし、今回の連載を通じて見えてきたのは、これまでのポジションや業務プロセスをどう守るかではなく、変化に応じて新しい技術を柔軟に学ぶ姿勢の大事さだった。その根本にあるのは、新技術に対するワクワクとした気持ちや社会人としてこの世界とどう関わるかといったスタート地点に立ち返る重要性だったように思う。

 亦賀氏は、メインフレームのエンジニアとしての仕事がなくなり、オープン系の技術を学ぶことになった時期を振り返って、「オープン系を覚えないとご飯を食べられませんからね」と冗談めかして言った後に、「新しい技術が大好きだから、納得していました」と付け加えた。

 「ITmedia エンタープライズ」の読者の多くは大企業のIT部門メンバーとして、優秀さを武器にこれまで積み上げてきた経験や知見で会社に貢献してきた人が多いだろう。ますます先が見えなくなる時代の中で、今後のキャリアを考える上で、この連載が何かのヒントになれば幸いだ。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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