普通二輪ハーレー「X350」はアリかナシか? コアなファンよりもユーザー層の拡大を狙った世界戦略車だ【後編】(1/2 ページ)
ハーレーダビッドソンジャパンは10月20日、「X350」というニューモデルを発売しました。排気量400cc以下のバイクに乗れる普通二輪免許、いわゆる中免で乗れるハーレーが上陸したということで、SNSなどを中心に賛否両論が巻き起こりました。
ハーレーダビッドソンジャパンは10月20日、「X350」というニューモデルを発売しました。排気量400cc以下のバイクに乗れる普通二輪免許、いわゆる中免で乗れるハーレーが上陸したということで、SNSなどを中心に賛否両論が巻き起こりました。
なぜそこまで大きな話題となったのか、そもそもX350はどんなバイクなのか。時代背景を振り返った前編に続き、後編ではX350について詳しく紹介します。
大屋雄一
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
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ハーレーダビッドソン「X350」のスペック
- 価格:69万9800円(税込、以下同)
- エンジン形式:353cc水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒
- 最高出力・最大トルク:36.7ps・31Nm
- 車重:180kg
- シート高:777mm
ベネリ「302S」をベースに排気量をアップした水冷パラツイン
X350は、浙江QJモータースが生産するベネリの「302S」というスポーツネイキッドをベースに設計されています。こうしたOEMビジネスは近年増えていて、例えば国内ではヤマハの「ビーノ」をホンダが生産していますし、台湾にはつい最近まで自社ブランドを持たず、エンジンのOEMのみを請け負っていた企業もあります。つまり、X350だけが特別な例というわけではありません。
エンジンについては、302Sの300cc水冷並列2気筒をベースに、ボア径を5.5mm拡大して排気量を353ccに引き上げています。スペックを比較すると、最高出力は302Sの38.1ps/11000rpmに対し、X350は36.7ps/8500rpmへとわずかに低下しています。
一方、最大トルクは25.6Nm/9750rpmから31Nm/7000rpmと、約21%も増えています。
合わせて注目したいのは、最高出力、最大トルクとも発生回転数が302Sよりも低くなっていることです。このことから考えられるのは、ハーレーはより低い回転域で力強さを感じさせるエンジンを作りたかったということ。
302Sと同じ排気量のままならコストを抑えられたはずなのに、あえてボアアップという道を選んだのですから、開発陣の並々ならぬ意気込みが伝わってきます。
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スタイリングの元ネタは「XR750」 フラットトラッカーの傑作だ
特徴的なデザインのフレームをはじめ、直径41mmの倒立式フロントフォークやプリロード調整可能なリアショック、前後17インチのホイールなど、シャシーについては基本的にベネリ・302Sと共通です。
スタイリングはハーレー独自のもので、1970年からつい最近まで現役で活躍していたフラットトラック(ダートトラック)レーサーの「XR750」がモチーフとなっています。
XR750は、いわゆるクルーザー(アメリカン)とは全く異なる外観ですが、フラットトラックのアイコン的な存在であり、ハーレーのスポーツスターというモデルをベースに、XR750風にカスタマイズするのが定番の一つとなっているぐらいです。
ハーレーがX350を設計するにあたり、これを外装のモチーフに選んだことは大正解といえるでしょう。加えて、車名まで似せているところに販売戦略がうかがえます。
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アンダー70万円の戦略的な価格 ただし諸経費の高さはやはり外車
さて、注目すべきは価格でしょう。69万9800円と発表されたときには本当に驚きました。というのも、前編の最後に触れたBMWの小排気量モデル「G310R」が74万円〜だからです。ちなみにG310Rはインドで生産されており、エンジンは312ccの水冷単気筒ですから、まさか2気筒のX350がG310Rよりも安いとは……。
このクラスで売れに売れているホンダの「GB350」が56万1000円、上位モデルの「GB350S」が60万5000円ですので、これらと比べても十分に競争力があります。まさに戦略的な価格といってよいでしょう。
なお、あらかじめ注意が必要なのが、諸経費を含む総額です。ハーレーは海外ブランドですので、パーツ代などが国内メーカーよりもやや高めとなっています。
先日、知人がX350を購入するにあたってディーラーで見積書を作ってもらったところ、法定費用を含む諸経費、および3年間のメンテナンスパックとETC2.0車載器を追加した総額が105万円だったとのこと。購入を考えられている方は、このあたりも踏まえて検討することをおすすめします。
ハーレーは2015年に「ストリート750」というモデルを85万円で発売し、若年層やアーバンライダーの獲得を狙いました。しかし、エンジンはVツインながら売り上げはあまり振るわず、短命に終わったという負の歴史があります。
X350のターゲット層はこのストリート750と重複しており、中免で乗れるからといって楽観視はできません。しかし安価ではあるものの安っぽさはみじんもなく、そのため既存のハーレーオーナーがセカンドバイクとして入手する例も少なくないでしょう。気になる方は、ぜひディーラーで実車を間近に見てください。
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