検索
連載

モデルと現実の比較ソフトシステム方法論「SSM」とはなんだ(2)(2/2 ページ)

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

[3]システム開発プロセスへのSSMの適用

 SSMのシステム開発プロセスへの適用について紹介します。システム開発において、SSMの適用可能性が最も高い工程は、ビジネスモデリングや要求定義の前段階です。特に次のような状況ではSSMが効果を発揮します。

  1. システム開発後の姿について、システム開発依頼者が明確なイメージを持っていない場合
  2. システム開発の目的が、システム化担当窓口の勝手な思い込みではないか、と思われる場合や関係者の共通認識ではなさそうだ、と思われる場合

 システム開発の依頼を受けるとすでに納期が決まっていることがあります。早々に開発作業に入りたいものですが、後工程での手戻りを考えると、前工程に時間をかけるべきであるというセオリーは昔から変りません。SSMを適用してビジネスゴールやシステム化の目的を関係者間で納得・共有し、、改革案を作成してみましょう。時間はかかりますが、システム化プロジェクト以外の組織改革や業務プロセスの改革活動などと連携しやすくなります。

 次はモデルの側面から検討してみましょう。最近はモデルを用いたシステム開発の手法が使われています。最上流でSSMのモデルを作成し、後工程のモデルと連携させます。参考にSSMの適用工程とモデル間のつながりを図1に示します。

ALT
図1 SSMの適用 

 ここでは後工程に統一プロセス(The Unified Software Development Process)を適用し、UMLのダイアグラムを活用しながら、モデルを考えてみましょう。まず、システム化が何を目的とするかをRD(Root Definition:根底定義)モデルで表し、ビジネスゴールを明確にします。また、リッチピクチャーを用いて、何が「システムの関係者」か、何を「システムの内部で実施する」かを洗い出す原始資料とします。ビジネスモデリングでは、ビジネスゴールを把握したうえで、ビジネスユースケースとビジネスオブジェクトモデルを作成します。

 ビジネスユースケースモデルは、システムの機能の一覧をモデルで表記したものです。このモデルはビジネスアクターとビジネスユースケースから成ります。アクターはビジネスの行為者であり、ユースケースはビジネスの機能あるいはイベントです。SSMで導出されたシステムの関係者はビジネスアクターや内部の作業者候補になります。そして、CATWOEモデルに対応して、システム開発のビジネスユースケースモデルを書きます。CATWOEのAは、ビジネスアクターです。RDのYは、ビジネスユースケースです。

 ビジネスオブジェクトモデルは、ビジネスの実体の相互作用を表したものです。実体とはビジネスのプロセスに現れる行為者や(その行為者の)生産物のことです。行為者や生産物に何らかの関係がある場合(「作成する」「検索する」など)、実体同士に線を引きます。

 また、ビジネスオブジェクトモデルは、概念活動モデルを参照して作成することができます。ただし、SSMの活動モデルの方が粒度が大きく、単純には変換できません。概念活動モデルは、ビジネスオブジェクトモデル作成の原始資料として利用します。なお、ステージ5でシナリオのモデルを作成した場合には、ビジネスオブジェクトモデルの重要な資料になります。

 モデルの例を図2に示します。今回は「徳川幕府体制の安泰のために(Z)、倒幕派を一掃することによって(Y)、京都市中の治安を維持する(X)システム」を、このシステムの目的とします。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

ALT
図2 CATWOEモデルとビジネスモデル

 ここまででシステム開発とSSMの相性の良さを理解していただけたでしょうか。

[4] SSMを身に付けよう

 あなたがシステムエンジニアや営業職ならコンサルティングスキルとしてSSMを身に付けると良いでしょう。また、プロジェクトマネジャであれば、プロジェクト内の問題解決スキルとして身につけると良いでしょう。社会生活のさまざまな局面でSSMは有効です。

 SSMを習得するうえで重要なのは、実際に経験してみることです。他人が議論して導き出したモデルをみるだけでは、学習効果はほとんどありません。上級者がリードするスタディに参加する、セミナーを受講する、そして本を読むというように、総合的な学習を目指してください。

◇SSMとは◇

  • 価値観を1つに絞るわけではない
  • 立場の違いによる異なる価値観を認める
  • 異なるものを包含する上位の価値観はある
  • システムやデータを分析する手法ではない
  • 1か0を求める考えでは、利用が難しい
  • 検討には時間を要する
  • アナログ手法である
  • 価値観が共有できれば、後はHOW(最善の方法)を検討して、走るだけ


 最後に、SSMを適用したプロジェクトでは、参加者が「ごく当たり前の結論に達した」と感じることが多いと言われています。そのため参加者の多くは「SSMを導入して良かった」とあまり感じないようです。このことは考えてみれば当然のことだと思われます。「当たり前」を導き出すことがいかに難しいか、ということでもあるのですから。この記事を参考にして、多くのエンジニアの方々がSSMを身に付け、システム開発に適用し、円滑に後続の開発工程の実現へと導いてくださることを願ってやみません。

著者プロフィール

安田早苗

 中学生時代に汎用コンピュータに出会い、コンピュータを仕事としようと決心。大手精密製造業にてシステム企画、開発業務に携る。特に販売及び物流業務改革・再構築プロジェクトは事務局として予備調査段階から担当し、さまざまな関係者の錯綜する思いをシステムに反映する面白さを知る。1996年分散オブジェクト関連業務を担当し、オブジェクト指向に出会う。最近は、ITSSのITアーキテクト教材開発を中心に活動中。従来からのシステム企画、基本設計工程にどのようにオブジェクト指向的要素を加えるかに興味を持っている。



前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る