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ハイ・パフォーマーの“知”は、移転・共有できるか?有能プロジェクトマネージャ育成術(1)(2/3 ページ)

世の中に多くの失敗・赤字プロジェクトが存在する一方、どんな難解なプロジェクトでも成功裏に終えるプロジェクトマネージャ(PM)がいる。こうした知恵や能力を移転・共有することはできないのだろうか?

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モデル企業の概要

 E社は独立系SI企業である。年商50億円、社員数500名の中堅で、東京に本社を置き地方展開はしていない。

 事業の内訳は、SI事業が約65%、アウトソーシング事業が約30%、残りはその他の事業である。

 SI事業の半分は、創業以来の大口顧客であるコンピュータ・メーカーの下請けである。過去は安定受注が可能であったが、近年元請けのグループ内製化の影響を受け、受注は不安定になりつつある。SI事業の残り半分は上記コンピュータ・メーカー以外の大手SIの下請けやユーザー企業からの直接受注である。基幹システム開発に絡むことはほとんどなく、部分的かつ短期間開発が多い。

 アウトソーシング事業の顧客の大半は、SIの大口顧客のコンピュータ・メーカーからの紹介である。これらはコンピュータ・メーカーが自らアウトソーシング事業を行わなかった時代に紹介を受けたものである。継続性、利益率ともに高い水準であるが、一方新規受注は困難な状況にある。

 E社の組織体制は、大口顧客のコンピュータ・メーカー市場を担当する第1 SI事業部、その他のSI事業を担当する第2 SI事業部、そしてアウトソーシングを行うアウトソーシング事業部となっている。各事業部に営業を担当する2〜3のライン部門(部)が設置されている。本社では、人事部が一般の教育を担当し、プロジェクト管理部が購買契約とプロジェクト管理の標準化を担当している。

支援の開始

 最初にE社の第1 SI事業部長から、PMノウハウの組織的共有方法について問い合わせを受けた。彼は、有能PMの持つ「個人の知恵」を、メソドロジのフレームワークを用いることで本人の無意識領域から浮かび上がらせ、体系化し共有可能にできる技術があることに強い興味を持っていたのである。

 そしてわれわれがその技術の紹介を行ったうえで、支援を行うこととなった。支援に先立って、E社経営トップ、プロジェクト管理部長、各事業部長へのインタビューを実施した。インタビューから把握できたE社の悩みは次のようなものであった。

■赤字プロジェクトの存在

 第1 SI事業部では赤字プロジェクトの発生件数は少ないものの、扱っているプロジェクトに大規模なものが多いため、赤字プロジェクトが発生した場合には大きな問題となる。第2 SI事業部では、比較的小さなプロジェクトでも赤字の発生が多い。常時複数のプロジェクトが赤字か赤字予備軍となっている。

■利益率の低下

 アウトソーシング事業部では赤字プロジェクトはない。しかし事業の拡大が困難な割に顧客からの価格低減要求にさらされ、利益率が低下している。


 インタビューでは、有能PMの存在の有無についても確認を行った。各事業部に何人かの有能PMがいるそうである。彼らは現在、重要プロジェクトのPMを担当しているという。

 全社で指折りの有能PMの実力はかなりのもので、どんな難解なプロジェクトでも黒字で終えているとのことであった。

 第1 SI事業部では、直接顧客のコンピュータ・メーカーとユーザー企業の対立構図になってしまった状況の中、有能PMが火消しに投入され、その活躍でプロジェクトの落とし所を再設定でき、さらに2次開発以降の継続受注までユーザー側から指名されるという事例があった。第2 SI事業部でも、必ず計画原価より実際原価を低減し、複数プロジェクトを並行して進めることのできる有能PMの事例があった。

 有能PMが在籍しながら問題プロジェクトが発生するE社の課題をまとめると、次のようになるだろう。

  • (慢性的)有能PMの不足による赤字プロジェクトの発生
  • 部下の育成ができない
  • 問題プロジェクトが発生しても、問題が大きくなるまで有能PMを重要プロジェクトから外して支援に向けられない

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