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激突する女と静かなプロジェクトの幕開け(第8話)目指せ!シスアドの達人(8)(3/4 ページ)

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PDAの先行配布とプロトタイプに入れる機能は?

 PDAの先行配布先とプロトタイピングに関しては、西田が特別予算を確保し、20台のPDAを確保できることになった。従って、プロジェクトメンバーも、実際に1台ずつ使うことができるようになった。

 前回の社長プレゼンの際に、「今後のインタビュー時に実際に画面を見せて話を聞くことも重要なので、このメンバーにも必要だ」と説明し、何とか20台分の予算を確保してもらったのだ。現在のプロジェクトメンバーが10人だから、残り数人分の先行配布先を決めることになる。そこで、営業1課と2課から併せて数名を募集することにした。

 PDAは最新機種である「Z-100」を選定した。PDAに搭載する機能には、標準機能で備わっている電子メール機能に加えて、プロトタイプの機能として、掲示板機能や情報ダウンロード機能、交通費といった経費精算などのPDA版申請書簡易作成ツール、営業担当者が日々作成している日報などの報告書を電子化し、モバイル端末で営業活動を支援するシステムとすることになった。開発期間は約1カ月間で、SFAの標準機能から、上記の機能を必要最小限のカスタマイズで対応させ、ほかのPDAの機能はあえて使えない設定とすることにした。

 交通費などの経費処理は、PDAで入力すると、経費精算書が作成できる簡易版とした。坂口や松下が作成した申請書簡易作成ツールのPDA版と呼べるもので、出力機能として、PCで作成したのと同様のものが作成できる。PDA版の特徴は、特に入力を簡単にする工夫がされている点だ。PDAはPCのキーボードと比較して入力がしにくい点をカバーするために、PDA版では多くの入力項目を選択式にした。

 当然、社員番号や氏名は自分のものが設定できるので、入力不要となっている。日付は、当日入力すれば初期設定された日付がそのまま使えるので、入力が簡単だ。従って、ちょっとした空き時間に入力できてしまう。この機能によって、営業部員たちは申請書類の作成の手間が掛からなくなって、経費精算をマメにやってくれるようになると思われる。営業部員が煩わしさから解放されることに重点を置いて作成したので、提出するペースも速くなることが期待できる。

 情報ダウンロード機能には、得意先別、製品別集計結果をダウンロードする機能を備えた。通常は事務所にいるときにダウンロードしておけば、それがPDAで表示・活用できる。これだと、顧客先で低速通信網を利用してダウンロードする際の、レスポンスの悪さを気にすることもない。現地でデータを急に欲しくなることはそれほど多くないが、従来だと万が一に備えて、紙に印刷して持ち歩くことなどが必要であったが、新システムでは、最新情報をダウンロードしておけば、PDA1つで十分用が足りるのだ。

 プロトタイピングの目的は、これらの最小限の機能を実際に、先行配布するメンバーに使ってもらい、まずは、営業部員が待てるレスポンス、画面周りの要望を調査することである。

 そして、忘れてはならないもう1つの目的は、「いかに営業部員にPDAを使う気にさせるか?」ということである。

  PDAの手配も済み、プロトタイプの開発も順調に進んでいることから、あと2週間くらいで先行配布ができる見込みが立った。そこで、グループウェアと口コミで希望者を数名募集した。結果、営業1課より2名、営業2課より4名の応募があった。これらの計6名は、営業部員の要望調査として実施したときに、関心を示していたメンバーであった。

 この中に、営業2課の氷室主任が含まれていた。氷室主任は営業一筋で、ITはツールにすぎないという強い信念の持ち主である。PDAは持っていないが、音楽好きで、ポータブルミュージックプレーヤは常に持ち歩いており、営業の移動中も支障のない限りは音楽を聴いていたりする。坂口らは、氷室主任が応募してくれたのはいいが、本当に使って意見をフィードバックしてくれるのか少し心配していた。

正式プロジェクト発足!

 11月25日(金)には、以下の辞令が発令された。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

 西田は田所にプロジェクトルームとしてあつらえた会議室に、プロジェクトメンバーを集めさせた。

西田 「本日より、社長直下の案件として新営業支援システム構築プロジェクトを発足させる。プロジェクトリーダーは、まだ若いが坂口君にやってもらう。私はもちろん、田所部長も全面的にサポートするので、君たちは、本プロジェクト業務を第1優先でやってもらいたい。しかし、現業との兼務なので、元の仕事も少しはやってもらわなければならないが、今期中のシステム完成に向け、本プロジェクトに注力してもらいたい。この部屋は、特別に田所部長に指示して会議室を転用し、プロジェクトルームとして使えるようにした。プロジェクトの仕事はこの部屋に集まってやってもらいたい。岸谷君と藤木君は別会社の社員であるためオブザーバーという形にした。しかし、今後のシステムの拡張のためにも、また、生産・物流にとって必要な情報共有機能を実現することも含めて、ぜひとも積極的に参画してほしい。先日、本社の配送センター長と製造部長にも話をしてオブザーバーならと、了解をもらったからよろしく」

 そういいながら西田は時計を見つつ、なぜかキョロキョロしていた。そこに、豊若が西田の秘書に案内されて現れた。

豊若 「西田社長、申し訳ありません。ちょっと事故で電車が遅れて遅くなりました」

西田 「待っていたよ、豊若君。それじゃ、皆さんに紹介しよう。君たちの中にも知っている人が多いと思うが、豊若悦司さんだ。豊若さんは、以前我が社で情報システムを担当していたが、現在は独立してコンサルタントとして活躍されている。多忙なので専任とはいかないが、このプロジェクトを成功に導いてくれるように支援をお願いした。無理を承知で、週2日くらいはこちらに来てもらうようにお願いしている。それでは、豊若さん、簡単に自己紹介を」

 社長に促されて豊若は、自己紹介をした。

西田 「それでは、皆さん、よろしく。私もできるだけ、この部屋に顔を出すようにするよ」

 社長はそういうと、プロジェクトルームを後にした。その後、全員が簡単に自己紹介をした。

坂口 「豊若さんは、今日1日大丈夫ですか?」

豊若 「今日はこのためにスケジュールを無理やり空けたから大丈夫だ」

坂口 「プロジェクトメンバーはOKだと思うけど、岸谷さんと藤木さんはどうですか?」

岸谷 「午前中はOKです」

藤木 「私も岸谷さんと同じです。午後は工場で会議があるので」

坂口 「それでは、この後、少し休憩を挟んでミーティングをしましょう」

 と坂口がいい、10分後に再度集まることにした。

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