プロジェクト作業の静かな幕開け……
休憩後、プロジェクトメンバーは、豊若を入れてミーティングを開始した。最初に全員に対してプロジェクト企画書が配られた。豊若には、事前にプロジェクト企画書が渡されていた。
坂口 「いま配布したプロジェクト企画書は、先日の社長や関連部門長への説明会で承認されたものです。今後これをベースに、来年度の新営業支援システムリリースに向け、プロジェクトの具体化をしていく必要があります。今後は、豊若さんの指導を仰ぎながらやっていきたいと思います」
豊若 「私は先日、この企画書を西田社長からもらい、一通り目を通しました。なかなかよくできており、これなら少し手を加えれば成功するだろうと思いこのプロジェクトを引き受けることにしたのです。主として付け加える項目は、マスタースケジュール、概算見積もり、リスク分析、ビジネス要求項目の4項目だと思われます」
坂口 「なるほど、その辺は必要だと思いつつも、うまく書けなかったところですが、これからは、豊若さんの指導を受けられるので、みんなでうまく分担してやっていけば大丈夫だと思います。ところで、メンバーおよびオブザーバーからの指摘はありますか?」
氷室 「急にプロジェクトメンバーになるようにいわれて、ここに出席していますが、まだ、さっぱり様子が分かりません。私のような営業2課の者は、先日インタビューを受けるまで、こういう企画が進められているという話もほとんど知りませんでした。また、そもそもシステムが営業を支援できるとは思っていません。私は『ツールはツールであって、営業部員は営業のスキルが一番』と考えています。企画書をざっと見てみましたが、どういうメリットがあり、どう使えるのかもよく分かりません」
坂口 「そうですね。氷室主任には、詳しい説明が必要ですね。深田さんが作ってくれたPDAの営業支援への活用方法の説明やメリットの説明資料を基に、後で深田さんに説明してもらうことにします」
谷田 「私は、初めてのプロジェクト会議なんですが、今後はどんなスケジュールでプロジェクト会議を開催するのでしょうか?」
坂口 「豊若さんが、原則火曜日と金曜日に来てくれることになっているので、その日の9時から11時までを定例会議とすることを予定しています。後は、このプロジェクトルームがあるから、必要があればここで適宜相談すればよいでしょう。岸谷さんと藤木さんには、毎回来てもらうのはちょっと大変でしょうから、週1回か、2週間に1回くらいは来てもらいたいと考えていますが、いかがでしょうか?」
岸谷 「そうですね。毎回はさすがに難しいですが、少なくとも2週間に1回くらいは参加できると思います」
藤木 「できるだけ、参加したいのですが、やはり、2週間に1回くらいの参加になると思います」
豊若 「ところで坂口君、このプロジェクトの略称は決めたのかね?」
坂口 「いえ、まだ決めていません」
豊若 「プロジェクト名は早く決めた方がいいね。SDSプロジェクトというのはどうかね」
坂口 「何の略ですか?」
豊若 「サンドラフトサポートのSDSでもあるし、SFAの頭文字のSでもあるし……」
松下 「何か、安易すぎるような気もしますが、覚えやすくていいですね」
谷田 「坂口さんのSでもあるし、いいんじゃないですか?」
深田 「坂口さんのSか、私も頑張ります!」
坂口 「私のSはともかくとして、略称はSDSプロジェクトとしましょう。皆さん、いいですか?」
全員が賛成した。
水元 「ところで、プロジェクト立ち上げのお祝い会はしないんですか?」
坂口 「それはいいね。水元さん、幹事をしてくれる?」
水元 「はい、喜んで! それじゃ、皆さん、別途案内しますからよろしくお願いします」
豊若は、坂口、椎名、福山に適切な指示を出して情報を集め、企画書の追加項目のマスタースケジュールを文書化していった。概算見積もりは福山に指示し、作成を開始させた。また、リスク分析に関しては椎名に指示し、分析資料の作成を開始させた。残ったビジネス要求仕様に対しては、坂口が実際の業務で実現したいことをビジネスの言葉で定義していくことを説明し、作成を開始した。松下と谷田、水元の3人は、PDAの先行配布に関する手順書作りを始めた。
このようにして、プロジェクトの構築フェイズが本格的にスタートし始めたかのように見えたのだが……。
◆次回予告◆
紆余曲折を経て、坂口の「新営業支援システム開発プロジェクト」は社長承認を得て、正式プロジェクトとして発足した。正式プロジェクトには、本社の岸谷や藤木も参加。さらには豊若も社長の依頼を受けて加わることとなった。静かにスタートしたプロジェクトだが、早くも不安要素を抱えて……。
次回は、さまざまな問題を乗り越えて営業支援システムの開発を終了し、本番稼働させたものの、問題が発生してしまいます。また、坂口は谷田とアキバデートに繰り出し……。お楽しみに。
東京本社・営業1課 メンバー構成
課長 浜崎 雅則(はまざき まさのり) 43歳
課長代理 江口 章輔(えぐち しょうすけ) 38歳
主任 椎名 純平(しいな じゅんぺい) 33歳
主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 30歳
チーフアシスタント 松下 真樹(まつした まき) 35歳
アシスタント 谷田 亜紀子(たにだ あきこ) 26歳
アシスタント 水元 優香(みずもと ゆうか) 24歳
営業部 部長 田所 譲司(たどころ じょうじ) 50歳
上級シスアド 豊若 越司(とよわか えつし) 38歳
今回登場メンバー
社長 西田 義行(にしだ よしゆき)58歳
配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう)41歳
製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや)33歳
情報システム部主任 福山 雅人(ふくやま まさと)36歳
総務部新人 深田 祐子(ふかだ ゆうこ)23歳
営業2課主任 氷室 信次(ひむろ しんじ)32歳
profile
シスアド達人倶楽部
「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者5名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。
執筆メンバー5名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。
那須 結城
上級システムアドミニストレータ連絡会正会員、製造業勤務
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