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» 2008年09月01日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(19):頑固オヤジを口説くには美人広報を使え (1/4)

[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

第18回までのあらすじ

 前回、西田の説得により自分の役割と責任をあらためて認識し、“人を使う”ことの重要性を理解した坂口。そして、プロジェクトの再出発を誓うのだが……。



マスコミ報道の後始末

 加藤からもらった広報資料を坂口が調べて分かったことは、佐藤専務がマスコミにリークしたシステムの内容は、「当初、西田副社長が実現しようとしていた古い資料を基に作成したものだ」ということだった。

 名間瀬がリリース時期にこだわっていたために、リリース時期を優先して機能を絞り込んだことを佐藤専務は知らなかったのだ。マスコミにリークしたシステム内容は、西田の最終的な構想に近いものだったが、商品納期に関してはマスコミに話した内容と現実では、かなりずれていた。幸いにも掲載されるページ数の関係により、配送までの納期短縮以外は概略的な記述になっており、マスコミの注目や社内外からの問い合わせも、納期短縮に集中していた。

 坂口の報告を受けた西田は、社内外の混乱を抑えるために矢継ぎ早に複数の対策を打った。まず、リリース時期に関しては、完成度を高めるために確定情報ではないことをマスコミ各社に通知した。ただし、内容については変更せず、配送までの納期短縮については実現する方向で推進することとした。また、今後のマスコミ対応は佐藤専務を窓口としながらも、西田副社長の承認なしに勝手な取材は受けさせないように広報室へ命じた。

 続いて、リリース時期実現と機能を両立させるために、IT企画推進室の人事を強化した。

 坂口は室長代行から正式に室長とし、課長級に昇進させた。これは、古い体質のサンドラフトでは主任クラスの発言権が弱く、社内折衝に不利に働いているという西田の読みからだった。

 しかし、坂口の年齢での課長級への昇進は異例中の異例で、瞬く間に昇進の話は全社を駆け巡った。若手は昇進を歓迎していたが、年配者の中にはかなりの不満を抱く者もいた。しかし、名間瀬を室長補佐として降格人事で復帰させた点に関しては、情報漏えいのペナルティとして社内外でも了解を得られるものだった。

 実際には、“名間瀬の上司”という位置付けで、対外的にも坂口の発言権を増すようにし、坂口が名間瀬に遠慮しないようにする西田副社長の親心だった。

 また、マスコミ対応と社内調整の補佐として、加藤三咲を広報室兼任で推進室に配属し、情報漏えいの迅速な対応を今回の件に生かせると考え、松嶋にも正式なアドバイザー対応を依頼した。西田は坂口の「引き出す」という言葉を形にするために最適に布陣したのだ。

 坂口は辞令の出たその日に、谷田を食事に誘った。

谷田 「坂口さん、室長就任おめでとうございます!」

坂口 「谷田さん、何でそのことをもう知っているの?」

谷田 「伊東さんからのメールです。自分の上司が偉くなったのが、よっぽどうれしかったみたいで、『坂口さんに一生ついていきまっしゅ!』って書いてありましたよ!」

 坂口は苦笑いをしながらあのおしゃべりが困ったもんだと思いつつ、自分から切り出さなくて済んだことにほっとしていた。

坂口 「実はそのことでちょっと話をしたかったんだ。こんなことを話すのに食事に誘ったのは申し訳ないんだけど」

谷田 「私でよければ、まったく構いませんよ」

 谷田は坂口に頼られていることに、心が躍ったが平静を装っていた。

坂口 「本来なら豊若さんに相談すべきことかもしれないんだけど、いつまでも豊若さんに頼っていてはいけない気がするんだ。だから、自分なりの答えを出したいと思っている。でも、1人では考えがうまくまとまらなくて。ごめん、何をいっているか分からないだろ」

谷田 「いいえ、私も坂口さんに頼ってばかりで悩んでた時期があったから、その気持ちはよく分かります」

坂口 「ありがとう、頭の中ではこうしなきゃ、とかこういうふうにありたいと分かっているんだけど、心がそれについていってない気がするんだ。……でも、こうやって谷田さんと話すと心が少しずつ固まってくるんだ。何か谷田さんに決意表明をすると、背中を押してもらえるような気がして」

谷田 「そんな……。でも、うれしいです」

 赤くなった顔を隠そうとしてか、少しうつむいて髪をかきあげた谷田の指先を見て、坂口はおや? と思った。

坂口 「谷田さん、何だか爪が光ってない? いつもそんなふうにしてたんだっけ?」

谷田 「あっ、気が付きました? 昨日松下さんに誘われて、人気があるっていうネイルサロンに行ってきたんです。あまり派手だとキーボードを打てなくなっちゃうから、少しだけ……」

 きれいに整えられた爪には、小さなラインストーンが控えめに輝いている。

谷田 「(いままで、一生懸命おしゃれしても気が付いてくれたことなんてなかったのに……こんなの初めてかも)」

 「きれいだね」とか「似合うよ」などのせりふは、朴念仁の坂口からは期待できないが、自分の小さな変化に気付いてくれたことが、谷田にはうれしかった。坂口は、あらためて谷田の手を見つめていた。そういえば、一緒に仕事をしていたころ、彼女が軽やかに、でも丁寧にデスクワークをこなしていくのを、よく感心して眺めたものだった。

坂口 「(いろいろ助けてもらったよなぁ……。何で気付かなかったんだろう。ずっと谷田さんは、おれの支えになってくれてたんじゃないか)」

 思えばあのころから、谷田はがむしゃらに突き進む自分を上手にフォローしてくれていた。

坂口 「(この小さな手が、何度も背中を押してくれたんだ。……ちゃんと伝えなきゃ)」

 谷田は、坂口が何か考えているのを察して、次の言葉を待ってくれている。それが、いまの坂口にはよく分かる。坂口はテレながらも谷田を必要としていること、精神的な支えとしていることを話した。

 谷田も自分の言葉で、坂口を支えることを伝えた。2人は目に見えないきずなが深まるのを感じながらひとときを過ごした。

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