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» 2007年09月04日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(10):情報漏えい発覚と、未熟さに気付き身を引く女 (1/4)

[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

第9回までのあらすじ

前回、辛うじて上級シスアド試験に合格し豊若に報告した坂口だが、上級シスアドに必要な「バランス感覚」や「先を見通す力」が不足していて、上級シスアドにふさわしくないと指摘されてしまう。また、佐藤専務は名間瀬室長と面談し、特定のプロジェクト管理ソフトを導入するようにけしかけるきな臭い展開に……。



グータラ社員、八島が本気になるとき

 月曜日の朝、いつもと違う重い雰囲気がIT企画推進室を覆っていた。いつもなら坂口と伊東の、ボケツッコミが演じられているのだが、今日は坂口がいすに座ったまま、何やら考え事をしている。伊東も坂口の異様な雰囲気に気付き、自分が「何かしでかしたんではないか?」と一生懸命考えつつ、怒られないようにじっとしている。

坂口 「う〜ん、分からない……」

伊東 「坂口さん、どうしたんですか?」

 伊東は恐る恐る聞いた。坂口は伊東の方に振り向きもせずに答えた。

坂口 「あぁ、豊若さんからの宿題だ。どうしても答えが見えてこないんだ」

伊東 「えぇー!? 坂口さんでも分からない問題なんて、どんな難題なんですか?」

坂口 「全体像を経験なしで描き出す方法だ。『やることとやらないことを分けるのがポイントだ』といわれたんだが、やらないことなんて、そもそもプロジェクトの中にはないはずだし、それが全体像とつながることも分からないんだ」

伊東 「禅問答みたいですね。初級すら遠い僕には無理な壁ですよ。トホホホホ」

坂口 「何をいってるんだ! 半年後に必ずリベンジしろよ! 上司としての立場もある。みっちりしごいてやるからな!」

伊東 「あぅぅ……。仕事だけでなく試験までこの調子でいくんですか?」

坂口 「相変わらずの減らず口だな。ったく……。ともかく、この資料をまとめておいてくれ。俺はいまから八島さんのところに行ってくるから」

伊東 「ひぇーっ、こんな量をですか。はっ、はい、分かりました。すぐやります!」

 伊東に膨大な資料(今回のシステムにかかわる業務手順書)の関連付けを任せると、坂口は情報システム部へと向かった。

 豊若の問いに答えを出せないでいた坂口だが、全体像を描くヒントはつかんでいた。それは、「八島に現状システムの概要を一から聞き出すこと」だ。前回の会議でいつもと違うリアクションを見せた八島に、ヒントをもらおうと思ってやって来たのだ。

坂口 「(今日は適当にあしらわれないようにするぞ!)」

 八島はいままで、会議だとか緊急のヘルプだとかいって、坂口の訪問をはぐらかしていた。しかし、今日はヒントをつかむまで、何をいわれても引き下がらない覚悟で乗り込むつもりだった。しかし、大きく深呼吸して情報システム部の扉を開くと、意外な光景が待っていた。

八島 「おっー! 坂口ぃ、なかなかいいタイミングじゃん。待ってたぞ?!」

坂口 「えっ、お約束はしていないはずですが?」

 いつもと違う八島の反応に驚く坂口。それもそのはずである。いつもなら逃げの態勢で、フラフラとあっちこっちを歩き回っている八島が、今日は打ち合わせコーナーのいすにしっかり座っているのである。それも資料を横に用意してである。

坂口 「それは、もしかして現行システムの設計書ですか?」

八島 「ピンポ〜ン! 正解。ついでにいうと、今回システムのコンセプト資料もここにある」

坂口 「えぇー! そこまでですか!! でも、全体像がまだなんですよ。要求定義もまとまってないうちに、どうやってコンセプトが出せるんですか?」

八島 「相変わらず教科書どおりだな?、坂口?。今回のプロジェクトはシステムを新しくするかもしれないが、業務を変えるってわけではないだろ?」

坂口 「はぁ、確かに。新しい管理方法は導入するかもしれませんが、あくまで局所的です。業務そのものは変わりません。僕もそう思って、対象業務の手順の洗い出しを始めたところです」

八島 「おっー! 良い傾向だね。それで現行システムの中身も知りたくなったということだ」

坂口 「はい、ある人に全体像をつかまないとプロジェクトの先は見通せないぞといわれまして……」

八島 「良いこというね。その人。そのとおりだよ。そしてその資料はヒヤリングしなくても目の前にある」

坂口 「はい、でもこれだけの資料を用意していただくのは大変だったのでは」

八島 「僕の能力を持ってすれば、大したことはないさ。ふふん!」

 八島はそうはいったが、実際にはここ何日か泊り込み、休日返上で資料集めをしていたのだ。現在のシステムは個別の要求に応じて作られた「部分最適のシステム」であり、それをつなぐ基幹システムも継ぎはぎだらけで、適切な資料がないものも少なくなかった。その不足分や各システムの関係を、洗い出したのだ。結局八島も、空回りしながらも前に進もうとする坂口の熱意にほだされたのだ。

坂口 「これはすごい!! 基幹システムとほかのシステムとの関係が一目瞭然だ! それに各システムでの変換用語リストもある!」

八島 「そう、それが一番めんどくさかったんだよなぁ。同じ意味なのに商品とか取扱品とか名称が違ったり、受注日なのか出荷日なのかがよく分からない日にち設定がしてあったりと、よくもまぁいままで無事に会社が動いてきたもんだと感心するよ」

坂口 「そうですね。ヒヤリングの際に、担当者が適宜読み替えて対応していると聞きました」

八島 「このあたりの根っこの部分は前から問題になっていたんだが、西田副社長の鶴の一声で最優先課題になってね。これまでなぁなぁだったんで、佐藤専務もずいぶんいわれたらしくて」

坂口 「なるほど」

八島 「佐藤専務は見てのとおり、プライドが高いからな。この件で相当恨んでるぞ」

坂口 「まさか! 仕事として適切ならいいじゃないですか!?」

八島 「だから、お前はまだまだ青いんだよ。問題を見つけ出して解決するのが美徳ではなくて、問題を見えなくしてしまうことが大事だと思っているやからも多いってことだ」

坂口 「はぁ?、そういうもんですか。僕には理解できません……」

八島 「そりゃ、そうだろう。そこを副社長に期待されているんだから。ハッハッハ!」

 坂口は褒められているのかバカにされているのか分からないまま、八島から現行システムの概要説明を受けた。そしてある程度説明が終わった後で、八島は今回システムのコンセプトを話し始めた。

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