情報漏えい発覚と、未熟さに気付き身を引く女目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(10)(3/4 ページ)

» 2007年09月04日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

相手を信じ切れてなかった未熟さを痛感。そして……

谷田 「また、話し中だ……」

谷田は深いため息をつくと携帯を折り畳んだ。

 あの衝撃の場面から少し時間がたったおかげで少し落ち着いた谷田は、坂口に真意を聞こうと電話をかけているのだが、なかなかつながらない。メールを送れば済むことだが、それだと返事もメールで届いてしまう。谷田は文字ではなく、坂口の生の言葉で真意を聞きたかったのだ。

 どうやったらいいか、と考えあぐねていると、携帯が鳴り始めた。伊東だ。あのとき、とんでもないことを口走ったらしいことを後で知った谷田だが、「酔っていたので覚えていません」と答え、伊東の思いをきちんと断ったつもりだった。

 しかし、それを聞いたときの伊東の死にそうな顔を見て、「友達ならといいですよ」といってしまったのだ。それから、ほぼ毎日電話かメールが送られてくるようになった。話はそれなりに楽しいし、坂口の近況が分かるのでむげにするわけにもいかなかった。

谷田 「はい、谷田です」

伊東 「い、伊東でしゅ! いま、お、お時間よろしいですか?」

谷田 「いいですよ」

伊東 「友達に良いお店を教えてもらったんです。夜お時間があれば、おっ、お食事でもいかがでしょうか?」

 伊東はいまだに谷田をエスコートしていないことを気にしていたのだ。谷田は断ることは簡単だが、坂口の様子を知る良い機会だと思った。

谷田 「いいですよ。どこですか?」

伊東 「はい、品川なんですがよろしいですか」

谷田 「分かりました。場所と時間はメールしてくださいね」

伊東 「はっ、はい。わっ、わ、分かりました!」

 伊東の声が上ずっているのが携帯からも分かる。少し罪の意識を感じながらもチャンスは逃してはならないと自分を納得させる谷田だった。

 一方、坂口は今日も営業企画部で天海部長と打ち合わせをしていた。通常の営業と違い、営業企画部が担当するのは、新製品の販売や販売促進のキャンペーンなど、在庫数量を変動させる大きな要因となっている部分である。ここをしっかりシステムに組み込まなければ受発注はうまくいかない、と判断した坂口が営業企画部の受発注形態について、いろいろ提案をしていたのだ。いつもなら、自分の仕事にケチをつけられると猛然と反発する天海だったが、相手が坂口だったのと天海自身も思うところがあって、積極的に意見を交わしていた。

 営業企画部から製造部や配送センターに発注する商品は、営業企画部自身による計画的な発注がほとんどだが、一部、営業部の依頼で得意先のキャンペーンのために発注するものもあった。

 しかし、営業部からの発注は場当たり的で、しかも準備期間が短いために、手配が間に合わないことが多かった。そのため、営業企画部の計画発注分を回して対応するなどの応急処置を行うこともあって、混乱を招いていたのだ。この部分がなくなり、自前の計画分だけに注力できるのであれば、営業企画部としてもメリットがある。そう判断した天海は、坂口に現状の問題点と解決するための具体的な納期や数量を説明していた。

坂口 「それにしても営業担当によってやり方がバラバラなんですね」

天海 「そうね。メールできちんと文書にしてくれるところなんてまれよ。ほとんどが、FAXや電話で一方的に納期や数量をまくし立てるだけ。キャンペーンの内容も断片的で、こちらの提案どころが見えてこないことが多いわ」

坂口 「なるほど、でも営業記録は、グループウェアで書式が決まっているはずですが……」

天海 「そうね。うちの営業担当がきちんとフォローしていればだけどね。坂口くんも営業にいたから分かっていると思うけど、得意先のキャンペーンにきちんとしたフォローができていないのが実情だわ。受発注の手配に多くの時間が割かれて、思ったように回れていないのよ」

 そういえば、ロートンのときも発注ミスで、あわやクビになりそうになったことを坂口は思い出していた。あのときも、問題が少なそうなところはあいさつもそこそこで、店内のフォローまでできていなかったのだ。

坂口 「なるほど……。そうすると定型的なものは、顧客に簡単な操作で発注できる仕組みもあるといいですね」

天海 「そう、今回のシステムには間に合わないかもしれないけど、その機能はぜひ実現してほしいわ」

 坂口と天海は、現状の問題点から将来のシステム像までいろいろなことを話していた。お互いに仕事人間を自称することだけあって、会社を良くすることには目がない。いつも、予定時間をオーバーしながら楽しそうに打ち合わせをしている姿を見て、2人の関係を怪しむ部員も出てきた。

 実際、天海はほかの社員と打ち合わせするときに、笑顔を見せることはまずない。むしろ、きつい言葉をいくつか浴びせて、相手がノックダウンするのを楽しんでいるくらいだ。それが坂口との打ち合わせは、時々小さな笑い声が聞こえてくるのだ。打ち合わせコーナーは仕切りを立てただけの簡易なものなので、小声でない限りそれなりに話は漏れてくる。どう聞いても仕事の話ばかりなのに、その会話を楽しんでいる天海部長を見て、部員たちはけげんに思っていた。

 その日の夕刻、品川駅の改札口前にはそわそわと落ち着かない伊東がいた。そして、改札口の方から小走りにくる谷田を見つけるとほっとした表情をした。

谷田 「ごめんなさい。帰り際にお客さまからの電話があったんで」

伊東 「だっ、大丈夫です! すっぽかされたなんて思っていませんから!」

谷田 「ふふっ、正直ね。大丈夫ですよ。誰かさんと違ってすっぽかしはしませんから」

伊東 「それって坂口さんのことですね? そうそう、最近、営業企画部で打ち合わせばっかりしてるんですよ」

谷田 「営業企画部?」

伊東 「そうです。営業企画部の天海部長って、美人だけどすごいおっかない人のところに打ち合わせに行っているんですけど、なんか楽しそうなんですよね」

谷田 「その部長、女性なんですか!?」

伊東 「そうなんですよ。あ〜そういえば、僕たちの発表の日も、打ち合わせで天海部長に夜まで付き合わされていたみたいですよ。坂口さんも何とか合流しようと新宿で飲んだみたいですけど、なんか部長が盛り上がったらしくて。あの天海部長はすっごく厳しい人で、僕なんかには、盛り上がることなんて、想像できませんけどね!」

 伊東の口から出る衝撃の言葉に谷田は混乱しそうになっていた。

谷田 「え!? あの2人は、あの夜に新宿にいたんですか?」

伊東 「そうみたいですよ。そういえば谷田さんに電話したら、仕事だからしょうがないっていわれたって坂口さんいってましたよ」

 谷田は頭が真っ白になっていた。自分が誤解していたことに気付いたからだ。

谷田 「(あのときの電話は、そのことを坂口がきちんと伝えてくれようとしたのに、私が感情に任せてきちんと聞かなかったんだ……。あのときちゃんと坂口さんの話を聞いてれば、こんなにつらい思いをしなくて済んだかもしれないのに……)」

 谷田はだんだん自分の愚かさと、坂口の誠実さを信じなかった自分に腹が立ってきた。そして一呼吸して、冷静さを保つふりをすると伊東にいった。

谷田 「伊東さん、今日は飲みましょう!」

伊東 「谷田さん、だ、大丈夫ですか? この前みたいなことを口走ったら、今度こそ本気にしますよ!」

谷田 「大丈夫、今日は安心して」

 女性に安心してといわれていいのかどうか分からないが、とにかく今日は谷田を見守ろうと決意した伊東だった。伊東と谷田の食事は相変わらずたわいもない冗談と、会社の愚痴で終わった。谷田はいつもより飲んではいたが、頭はすっきりしていた。そして、帰りの電車の中で谷田は決意していた。

谷田 「(私は坂口さんを信じ切れていなかった。いまのままでは私、坂口さんとはダメになってしまう。自分に自信を持つまでは、一歩引いて坂口さんを陰ながら応援することにしよう)」

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