最後の難関、経営会議に挑む目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(25)(1/4 ページ)

» 2009年07月13日 12時00分 公開
[三木裕美子(シスアド達人倶楽部),@IT]

第24回までのあらすじ

 順調に完成度を高めていた需要予測システム。しかし、「稼働直前ユーザーテスト」を実施したところ不具合が発生し、関係者は追い詰められる。しかし、一致団結してテストを行った結果、どうにかテストを終了し、いよいよ本番環境移行へあと一歩となった。



コンチプランの重要性

坂口 「ホットコーヒー、トールサイズ持ち帰りで」

 疑似本番環境でのテストが完了した朝。坂口は帰宅せず、そのままオフィスに残った。

 労務管理上の問題として、後から人事にあれこれいわれるのは分かっていたが、それよりも自宅までの往復時間が惜しかった。夜通しの作業で疲れた体を少しでもスッキリさせようと、開店直後のコーヒーショップでテイクアウトしたコーヒーを一口飲む。カフェインがボーっとした頭を少しスッキリさせてくれる。

 疑似本番環境への再テストは何とか完了した。後は本番環境の再テストリリースとテスト、そして、リリースに向けた準備体制だ。

 午後に行われる経営会議で、今回のプロジェクトの概要とリリースに関する説明をすることになっていた。坂口は誰もいない早朝のオフィスで、会議資料の最終チェックに取り掛かった。

 今回の報告資料は次のような構成をとっている。坂口が構成を考え、各パートは担当する部署のメンバーに記述してもらった。

  1. プロジェクトスコープ
  2. 投資額およびROI見込み
  3. テスト品質結果報告
  4. 本番稼働体制
  5. コンティンジェンシープラン

 すでに何回か目を通していたが、疑似環境のバタバタで、ゆっくりとチェックする時間が取れず今日になってしまった。1?4までは主にIT企画推進室と情報システム企画部が中心となって作成したため、ほとんどチェックは完了していたが、最後のコンティンジェンシープランについては、ユーザー部門が一部を記載をしていたこともあり、チェックが遅れていたのだ。

 プロジェクトにおけるコンティンジェンシープラン、通称コンチプランの発動は、その規模に応じて部長、役員を含めた経営陣が発動するのが一般的だ。近年、企業におけるシステム障害は、そのまま企業の株価や消費者行動に影響を与えるなどのレピューショナルリスクにつながる傾向にある。よって、コンティンジェンシープランの策定は、プロジェクトマネジメントのリリース段階における最も重要なポイントの1つなのだ。

坂口 「本番当日は7時半にシステムがオープン。9時には通常営業時間が始まるから1時間半のバッファを見込むことになるな」

 情報システム企画部の記載によれば、システム稼働後、何らかの障害が発生した場合は、旧システムに切り替えることとなっている。大規模なプロジェクトでは、システムコンチの手段として旧システムへの戻しはよく取られる方法であり、そのため新システムが稼働してもすぐに旧システムは閉塞せずにいることが多い。

 一方、ユーザー部門の記述には、『旧システムに切り替える場合には、業務を元の方法に戻して対応する』とある。前のページにある移行体制図には関係部署が記載してあるが、ユーザー部門にはいずれも部署名が記載してあるだけで、指揮命令系統の記載がない。

坂口 「これはまずい……。資料に記載を忘れただけであればいいが、ユーザー部門の責任者にコンチの説明が不十分だとしたら、大変なことになるぞ!」

 今回のシステムは全社挙げての大規模なものでもあり、対外的な影響も大きい。そのため、コンチプランの発動については担当役員の判断が妥当である、と坂口は考えていた。

伊東 「お、おはようございます。ふわぁ〜」

坂口 「おはよう。シャワーくらいは浴びられたか?」

 テストの後いったん帰宅していた伊東が、大あくびをしながらオフィスに現れた。

伊東 「はい……、何とか。いやぁ、部屋でベッドが『おいでおいで』って呼んでいたんですけど。悪魔の誘惑を断ち切ってきました」

坂口 「ははは。断ち切った割にその大あくびか」

伊東 「へへへ。あ、坂口さん、朝飯まだですよね? 僕、サンドウィッチ買ってきたんですよ。一緒に食べませんか?」

坂口 「ありがとう。ありがたくいただくよ」

 2人で朝食をとりつつ、坂口はさっきチェックした会議資料の内容について、伊東に説明した。資料の取りまとめ窓口を伊東に任せていたため、コンチプランの検討部署である生産本部とSCM本部の状況について、話を聞きたかったのだ。

伊東 「すみません。僕は送られてきた資料の誤字脱字チェックまではしたんですが……。内容の精査はほとんどしていなくて」

坂口 「終わったことは仕方がない。俺から確認しておくよ。こちらの方は後は俺がやる。伊東には本番環境のテストリリースの確認の方を任せるからよろしくな!」

 担当レベルにコンタクトすることも考えたが、時間がない。

 坂口は各本部を統括する部の部長に直接確認することにした。

 生産本部製造部長の中尾、SCM本部物流部長の水谷、そして営業本部営業企画部長の天海。なんとか3者が同時に集まる時間を確保し、ミーティングのアポイントを取り付けた。

 ミーティングは11時。取締役会は15時からだ。

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