最後の難関、経営会議に挑む目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(25)(3/4 ページ)

» 2009年07月13日 12時00分 公開
[三木裕美子(シスアド達人倶楽部),@IT]

緊張の経営会議に挑む

 絨毯が敷き詰められた廊下を、坂口はパソコンを持って踏みしめるように歩いていく。

 昼の部長ミーティングの後、修正された資料は無事に伊東の手元へ届き、何とか会議に間に合った。

 ここはサンドラフトの14階役員フロア。役員の執務室が並んでいる。経営会議が行われる第2会議室では、すでに室長補佐の名間瀬がプロジェクターのチェックをしていた。

坂口 「お疲れさまです」

名間瀬 「資料は間に合ったようですね」

坂口 「はい、おかげさまで」

 午前中の3部長ミーティングの後、昼休みが終わるか終わらないかのうちに物流部、製造部から資料が送られてきた。また、伊東からも、本番環境へのテストリリースの確認は順調に進んでいる、と電話連絡が入っていた。

 資料の最終的な校正も14時には終了し、なんとか会議を迎えることができた。

名間瀬 「今日の出席者を確認しましょう。社長、西田、山本両副社長と松本専務、うちの佐藤さんは説明側だからよいとして、後は南部常務、下村常務、山田常務ですね」

坂口 「ええ。さらに経営企画部長、経理部長、情報システム部長、営業企画部の天海さん、物流の水谷部長、製造の中尾部長、広報室長、そしてサンドラフトサポートの林社長も陪席します」

 経営会議は株主総会を除く、サンドラフトにおける最上位の意思決定機関である。

 通常、システム開発プロジェクトのリリースは、部長もしくは本部長クラスで協議されるのが通常である。しかし今回、経営会議で取り上げられたのには、全社を挙げての一大プロジェクトであり、プレスリリースも控えているからだ。そして何より、副社長西田の肝入り案件であることも大きかった。

 そして、そこに副社長の西田がやってきた。

西田 「よう。ついにここまできたな!」

坂口 「はい。副社長にはいろいろとご尽力いただき、感謝しています!」

西田 「なぁに。それより本番まで気を抜かずにしっかりやってくれよ。八島に続いてお前まで倒れられたのでは、こっちの寿命が縮んでしまう」

坂口 「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫です。八島さんも先日退院して当日は現場で迎えられそうです」

西田 「ん。そうか。じゃ、今日はしっかり頼むよ」

 西田に続いて、続々とメンバーが会議室に集まってきた。そして、定刻の15時。経営会議が始まった。

社長 「本日は新システムのリリースに関する報告について協議します。佐藤専務、概要を説明してください」

 CIOの佐藤が今回のプロジェクトの概要について前置き述べる。さすがの佐藤も経営会議では神妙な面持ちだ。そして坂口の出番がやってきた。

佐藤 「では詳細については、IT企画推進室の坂口室長より説明いたします。坂口君よろしく頼む」

 坂口は立ち上がり、プロジェクターに映し出される資料を展開しながら、今回のプロジェクトの概要から投資額、テスト品質、コンチプランについて説明を続けた。

 営業の現場にいながら業務改善に取り組んでいた坂口がいま、経営陣に向かって全社システムの報告をしている。坂口自身にとっても、それはある意味驚きの時間であった。

坂口 「私からの説明は以上です」

 説明は20分足らずで終了し、質疑応答に移った。

 沈黙が流れる。やはりシステムは経営に理解されにくいのか……。坂口に逆の不安が持ち上がってきた。そのとき、沈黙を破って社長が質問をした。

社長 「本番当日、何らかの障害が発生した際の対応に、問題はないんだね」

坂口 「はい。システム部門、ユーザー部門双方でコンティンジェンシープランを固め、連絡体制も万全にしております」

 すると生産本部長の南部がこう続けた。

南部 「生産本部としても、当日は万全の体制をしいています。すでにSCM本部の下村常務との確認も終えています」

 午前中の根回しが効いたようだ。坂口は内心ほくそえんだ。

社長 「では、顧客対応についてはどうかね」

 その質問に坂口は背筋が凍りついた。午前中のミーティングで、天海にその点の確認はしていなかったからだ。もちろん、プランに記載はあったが、松本本部長の耳にどのように入っているかは、確認できていない。

坂口 「(しまった……。営業出身の俺としたことが……)」

 顧客影響の大きいシステムのリリースでは、場合によっては取引量を事前に調整し、本番開始に際して、被害を最小限に抑える方法がとられることもある。

 すると、営業本部長の松本がにんまりとしながらも机上のマイクに口を寄せる。

松本 「うちの営業部隊は優秀ですからっ。関係する取引先への通知は完了しています。サンドラフトサポートとの連携についても、うちの天海が指揮をとる手はずになっています。当日は、営業企画本部内に顧客対応チームを設置してサポートに当たります」

 さすが天海さん。坂口は天海に視線を向ける。天海も視線を返してきた。

社長 「分かりました。ほかに質疑がなければ本件はこれで終了です。西田副社長、よろしいですね?」

西田 「もちろんです。関係各部には長期にわたる協力に感謝します。本番まで後わずかですが、気を引き締めてプロジェクトの成功に尽力しましょう」

社長 「では、散会しましょう」

 役員、陪席のメンバーが次々と会議室を後にする。あっけなく経営会議は終わった。坂口はふぅーっと溜息をつき、どさっと椅子に座りこんだ。

天海 「お疲れさま。本当はパーっといきましょう、といいたいところだけど、それは後にとっておきましょうか」

坂口 「ありがとうございます。正直、顧客対応の件は内心凍りつきました……」

天海 「あら、私も見くびられたものね。何年営業やってると思ってるのよ。これでも一応部長なのよ。マネジメントとしてあれくらいは当然よ」

坂口 「おみそれしました!」

 冗談はよしなさい、と軽く手をふって天海も会議室を後にした。

 名間瀬は会議室の片付けをしている。手伝わなければと思いつつ、坂口の体は動かなかった。プロジェクトがいよいよここまで来たという実感と、これまでの積み重なったさまざまな思いが、坂口の体に重しのように絡まっている気がした。

 後は本番を迎えるばかりだ。坂口はそういい聞かせ、椅子から立ち上がった。

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