稼働直前テストも無事終え、最後の関門である経営会議でのプレゼンに立つ坂口。若干の根回し不足があったものの、無事経営会議での合意を取り付けた。そして、いよいよ本番稼働当日を迎えるのだった。
月曜日の早朝6時半。サンドラフト本社のIT企画推進室には、朝日が差し込んでいた。坂口はコンビニエンスストアの袋をデスクに置くと、上着を脱ぎ、机上のPCの電源を入れた。Windowsが起動するいつもの画面を見ながら、買ってきた缶コーヒーのプルトップを開け、一口飲む。土曜日と日曜日に本番環境におけるテストリリースの最終確認が行われたが、確認は問題なく無事に終了していた。そして坂口は携帯電話を取り出すと、伊東に電話をかけた。
伊東 「お、おはようございまっしゅ!」
坂口 「おはよう。配送センターの立ち会い、しっかり頼むぞ!」
伊東 「は、はい。いま、向かっている最中です!」
システムの稼働初日となる今日、情報システム部はコントローラーの機能を果たすべく、システム部の協力も得た社内サポート体制を敷くことになっている。
各ユーザー部門に“立ち会いメンバー”を派遣し、問題が生じた場合には速やかに坂口の元に情報が集まってくることになっている。伊東は配送センターの立ち会い担当としてアサインされていたのだ。
坂口 「今日の段取りは頭に入っているな。それと、問題が発生したら速やかに報告してくれよ!」
伊東 「は、はい。では、行ってきまっしゅ!」
伊東の元気な声に、坂口は安心した表情で電話を切ると、PCに向きなおった。タイムチャートファイルを開き、あらためて確認を始めた。
本番システムの稼働スタートは7時30分、7時の段階で問題がなければ、そのまま本番を迎えることになっている。プレスリリースは9時。広報へは坂口から連絡することになっている。時計を見上げると、針は7時を指していた。
坂口 「後、30分か……」
八島 「おう、今日はよろしくな」
情報システム部の八島が手を上げて入ってきた。
坂口 「おはようございます。今日はよろしくお願いします!」
八島 「ああ。いよいよだなぁ」
坂口 「はい、そろそろ各部署の様子を見に行ってこようと思います。今日はもう、座れませんね」
八島 「1日くらい座らなくても、倒れはしないさ!」
そう笑って八島は戻っていった。本番直前の八島の復帰は坂口にとっても心強かった。坂口は携帯電話を手に立ち上がると、IT企画推進室のドアに向かった。
そして7時半。ついにシステムが動き出した。
社内はいつもと何ら変わりない様子であったが、坂口は社内の各部署に連絡をし、フロアからフロアへと足を運んだ。各部署の担当者との確認、報告の段取りを最終的に確認し、ひとまず自席に戻る。
そして、時計の針は9時10分前を指した。問題は発生していない。坂口は電話を取ると、広報室に内線をかけた。
坂口 「IT企画推進室の坂口です。システムは問題なく稼働しています。予定通り、プレスリリースの配信をお願いします」
もう引き返せないぞ……。受話器を置いた坂口は深呼吸すると、再び受話器を取り上げた。ポイントは本部ではなく、違うロケーションでシステムを使っているエンドユーザーの現場にある。そう考えていた坂口は、東京工場の角野工場長の内線をコールした。
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