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» 2007年11月30日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(13):予想以上に成長する後輩と、大御所との出会い (1/3)

[石黒由紀, 山中吉明,@IT]

第12回までのあらすじ

前回、上司の名間瀬が情報漏えい事件を起こしてしまい、社内は大混乱となる。その漏えい事件は、西田副社長と対立する佐藤専務が副社長失脚を狙って企んだ陰謀だった……。豊若の機転で、漏えい事件を何とか乗り切った坂口だが、自分の実力のなさを痛感する。また、松嶋の機転で久々に谷田と2人きりになったものの……。



伊東の意外な成長

 冷たい風を避けるように、急いで社屋の中に入ると、とたんに暖かい空気に包まれる。寒さに首をすくませていたため、肩に入っていた力を抜いて坂口は自席へと急いだ。

 このところ、いろいろなことがめまぐるしく起こるので、少々疲れ気味だ。今日は寝坊していつもの時間に電車に乗れず、1本遅らせての出社となった。この分では席に着くのはギリギリだろう。

 半ば走るようにしてフロアに入ると、自席の前に伊東が立っているのが目に入った。ずいぶん待っていたのだろうか。坂口を見るなり、伊東は顔をくしゃっとゆがませた。

坂口 「なんだ、どうした? お前、目の下にすごいくまができてるぞ」

伊東 「さ、坂口さん……ぼ、ぼきゅ、ぼきゅ……」

 要領を得ない説明ではあったが、何とか伊東から昨日の配送センターでのいきさつを聞いた坂口も、困ってしまった。

 伊東を鍛えようとしたやり方が、裏目に出てしまったようだ。岸谷さんに申し訳ないことをしてしまった。今後の対応をどうしようか、目まぐるしく頭を働かせていると、伊東が意を決したように口を開いた。

伊東 「坂口さん、お願いがあります! ぼ、ぼきゅを2週間、配送センターに行かせてください!」

坂口 「えええぇっ?」

伊東 「昨日、寝ないで考えたんです。ぼ、ぼきゅ……。ここに来る前は総務部だったし、サンドラフトの中でいろいろな人が仕事している現場を全然知らないんです……。いろいろな部署の人が動いて、初めて僕らの会社の商品がお客さまのところへ届くんですよね? でも、ぼきゅ、その人たちの仕事を1つも知らないんです。もちろん、資料上は見たことあるんですけど、実感としてとらえられなくって……。坂口さんは、営業にいたんですよね? ぼ、ぼきゅ、ぼきゅもそういう現場の仕事を知りたいんです! お願いしまっしゅ!!」

 そうか、と坂口は思った。ずっとスタッフ部門にいた伊東はラインの作業の経験がない。そこに受け身の作業となってしまう原因があったのかもしれない。このままでは、どれだけ頑張っても、いずれ限界が来るだろう。

 もし、俺が豊若さんで、伊東が俺だったら……。きっと、自分が何かをつかむことを信じて、現場に送り出してくれるに違いない。

坂口 「分かった、行ってこい。業務プロセス調査という形で出張扱いにしといてやるから、頑張ってこいよ!」

伊東 「は、はい!ありがとうございましゅ!」

坂口 「それからな、俺が尊敬する人から聞いた言葉を1つ教えてやる。大事なことは、:『いかに人とITを調和させるか?』≫ってことなんだ。お前は初級シスアドの勉強をしながら、少しずつ“IT”のことが分かってきたんだろう? 今度は“人”の方を理解できれば、鬼に金棒だ。期待してるからな。何かあったらすぐに連絡してこいよ!」

伊東 「はい!」

 自席に戻っていく伊東を見ながら、(先を越されたな)と坂口は思った。いわれて動くのではなく、積極的に動き出した伊東をなんとか成長させてやりたい。彼が思い切り頑張れるような環境を作ってやるのも自分の務めではないかと考えた坂口は、受話器を取った。かけた先は、配送センターの岸谷だ。

坂口 「岸谷さんですか? 坂口です。昨日は伊東が失礼なことをいったようで、すみませんでした」

岸谷 「坂口か。そうだな、あの小僧悪気はないんだろうが、現場のことを知らな過ぎだ。俺たちの事情を思んぱかるとか、そういうことができないとまずいだろうが。もっと鍛えてやれよ」

坂口 「えぇ。そこでお願いがあるんです。岸谷さんのところであいつを使ってやってもらえませんか? 実はあいつ、自分から配送センターで仕事を覚えたいって、いってきたんです」

 坂口は、自分としては伊東のやる気を尊重してやりたいこと、何かあったら自分がフォローすること、配送センターには迷惑を掛けるかもしれないが、今後もプロセス調査・整理は続くためその一環として受け入れてもらえればありがたい、ということをできる限り丁寧に説明した。

 次の日。伊東が配送センターに着くと、机の上に足を乗せたまま、岸谷が何やら大声で電話に向かって怒っている。

伊東 「(こ、怖い……。で、でも、ここでくじけたらダメだ!)」

 電話が終わるまで横で震えながら待っていた伊東だが、電話を切った後も仏頂面の岸谷を見ると足がすくむ。なんとか絞り出した声は、完全に裏返っていた。

伊東 「あ、あの、昨日はしゅ、す、すみませんでしたー!!」

 ジロリ、と伊東を見た岸谷は何もいわない。

伊東 「ご迷惑だとは思うんですけど、今日から2週間こちらに置いてください! ぼ、ぼきゅ、確かに勘違いしてました! 皆さんから聞いた課題もぼきゅの中では、紙の上に並べられたただの言葉でしかなかったんです。その言葉の背景に、人がいて作業があって、いろんな思いや工夫があるってことが分かってなかったんです! 知りたいんです! 覚えたいんです! ここに、ここに置いてください!」

 一気に話し終わった伊東は、深々と頭を下げた。岸谷がゆっくりと立ち上がる気配に、身がすくむ。

岸谷 「お前、本気か?」

 涙目の伊東は、岸谷の顔を見てやっとのことでうなずいた。その表情を見て、突然岸谷が笑い出した。

岸谷 「まぁ、そうおびえるなよ。坂口から連絡をもらってる。お前さんがその気なら、2週間みっちりしごいてやるよ。ウチの仕事をしっかり覚えて帰れ。その代わり、手加減はしないから覚悟しておけよ!」

伊東 「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 もう一度深々と頭を下げながら、伊東は(坂口さんすみません。ありがとうございます……。いつか、きっとあなたに追いつきます!)と心の中でつぶやいた。

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