坂口リターンズ!! 今度は使えるマニュアル編目指せ!シスアドの達人−番外編(1)(1/2 ページ)

この物語は初級シスアドである坂口啓二の奮闘(ふんとう)する姿を通して、システムアドミニストレータの役割などを紹介していった連載「目指せ!シスアドの達人」の番外編です。本編に入る前に第1部や登場人物関係図に目を通すと一層楽しめると思います。ぜひ、ご覧になってから本文をお楽しみください。

» 2006年09月07日 12時00分 公開
[石黒由紀(シスアド達人倶楽部),@IT]

第1部のあらすじ

 連載「目指せ!シスアドの達人」第1部では、主人公坂口が仙台支店から東京本社に転勤してきたところから始まり、営業支援システムを企画・開発するまでの成長過程をお届けしました。

 今回からは番外編として、第1部の最終回から少し時間をさかのぼり、第4話に登場した電子掲示板のマニュアルを坂口がいかに苦労して作成し、メンバーに使ってもらえるようになったのかを中心に話が進んでいきます。では、本編をお楽しみください。

マニュアル作りの苦労を乗り越え、マニュアルの達人になっていた坂口

 定時を告げるチャイムが鳴り、坂口は顔を上げて、窓の外を見た。

 夕方になっても、まだまだ日差しが衰える気配はない。外は、かなり蒸し暑いだろう。今日はこれから、古巣のサンドラフトサポート東京本社で開催される、初級シスアド勉強会へ向かう予定だ。親会社であるサンドラフトビールに異動してからも、定期的に懐かしいメンバーに会える勉強会は、坂口にとって楽しみの1つである。いつもなら、すぐに腰を上げるところなのだが、こんな暑い日は外に出るのがおっくうだ。ノロノロと片付けを済ませ、意を決して廊下に出たところへ、配送センターの木村が駆け寄ってきた。

木村 「坂口さん!」

坂口 「あ、木村さんお久しぶりです。ここで会うのは珍しいですね。例のアイデア検討の件ですか?」

木村 「ええ、そうです。面白いアイデアを出したヤツがいるんで、ちょっと盛り上がってるんです。今日はオフミーティングで、話を詰めようってことになったんですよ」

 かねてから、若手の考える業務プロセス改善アイデアをまとめて、実現のチャンスを作りたいと考えていた木村は、地道なアピールが実って、先ごろ専用の電子会議室を使う許可を得たのだ。距離が離れていてもディスカッションできる環境を手に入れたとあって、配送センター内だけでなく、あちこちにいる同期入社の社員に声を掛けて広く意見を集めようと、精力的に動いているらしい。

木村 「そういえば、坂口さんからもらった電子会議室の利用マニュアル、大好評ですよ。ウチの環境に合わせた操作方法が丁寧に説明してあるでしょう? 自宅や仕事でパソコンを使いこなしているメンバーに交じって、いまさら操作が分からないなんていえないから助かったって、こっそり話にきたヤツもいるんですよ」

 坂口のうれしそうな表情を見て、さらに木村は話を続けた。

木村 「それから、マナーの解説があるのがありがたかったですね。気心の知れた連中ばかり集まるから、書き込みが荒っぽくなるんじゃないか、と心配だったんです。実際、パソコンを使うのには自信があったけど、いつの間にかマナー違反をしていたことに気付いていままでの書き込みを反省した、って声も聞きましたし。おかげさまで、あまり話が脱線することもなく、順調に進んでますよ!」

坂口 「ありがとうございます。その2点は、木村さんたち向けに今回書き足したところなんですよ。役に立っているならうれしいです」

木村 「そういえば、もともとは、例の新営業支援システムプロジェクトで、メンバーに配ったものだったって話でしたね。あのパソコン嫌いで有名だった岸谷さんが、とうとうパソコンを使う気になったらしいって、一時期話題になったのを覚えてますよ。さすがは、坂口さんですね」

坂口 「いやぁ、あのマニュアルはですね。実はある人に助けてもらわなかったら、作れなかったものなんですよ……」

 木村と話をしながら、坂口は1年ほど前に、新営業支援システムプロジェクトの検討に電子会議室を使おうと奮闘していたころのことを思い出していた。

1年前を思い出してみると……

 その日、坂口は豊若に紹介された人物と待ち合わせをしていた。ランチタイムに話をしようということになり、職場から程近いビルへ赴いたのだ。

 複合商業施設として有名なビルだが、平日のランチタイムは、人もそれほど多くない。指定された店へ行くと、ビルの中心部、最上階の天井まで届く吹き抜けの周りに、ぐるっと設けられたテラス席へ案内された。明るいが落ち着いた雰囲気の店内は、まるでホテルのラウンジのようだ。席に着くと、ほかの階にも同じようなテラス席が設けられているのが目に入る。あまりこういった店に入ったことのない坂口は、自分が緊張してくるのを感じた。

 きっかけは3日ほど前のことだ。豊若に誘われて飲みに行った店で、「新営業支援システムの検討に電子会議室を使いたい」と相談したのだ。新営業支援システムプロジェクトのメンバーは多忙であり、勤務地も離れているため、どうしても検討の時間が限られてしまうのが、坂口の悩みの種だった。

 ちょっとした疑問や意見を、日常的に話し合える場を作りたいと考えた坂口は、電子会議室の利用に思い至った。そこまでは良かったのだが、前回の集まりでその話をしたところ、メンバーの反応があまり良くない。情報システム部の福山以外は、誰も電子会議室を使ったことがないというのだ。渋い顔をするメンバーの前で、なおも電子会議室のメリットを説明しようとする坂口を、配送センターの岸谷が遮った。

岸谷 「正直にいうと、俺は普段ほとんどパソコンを使っていない。文字入力すら苦手なのに、いくら便利だといわれても、いまから使い方を覚えるのは面倒なだけだ。とても使う気にはなれないよ」

 それを聞いて、藤木も小さい声で同意している。ほかのメンバーも、乗り気ではなさそうだ。いろいろ悩んだが、ほかの手段を思い付かない坂口は、電子会議室の操作方法を分かりやすく伝えることで、岸谷や藤木に使う気になってもらえないだろうか、と豊若に相談したのだった。豊若は少し考えた末、口を開いた。

豊若 「私が昔グループウェア導入をしていたときに、同じグループにいた後輩を紹介しよう。いまは、確か人材開発部にいるはずだが……。ちょうど、いまの君と同じような取り組みをしていたから、きっと参考になる話が聞けると思う。そいつも上級シスアドの資格を持っているから、いろいろと相談してみるといい。私から話をしておくよ」

 どんな人だろう、豊若さんと似てるのかな……。などとぼんやり考えていると、すぐ後ろで声がした。

松嶋 「坂口さんですか?」

  振り返ると、髪の長い女性が、穏やかにほほえんでいた。長身ですらっと背筋の伸びた姿に、清楚な淡い色のシャツがよく似合っている。一瞬、見とれてしまったため、返事が遅れた坂口に、女性は再び口を開いた。

松嶋 「豊若さんから、お話を伺いました。人材開発部の松嶋七海です。初めまして」

坂口 「あ、は、はい! え、え、えーっと、すみません、坂口です。よろしくお願いします!」

 慌てて立ち上がり、勢いよく頭を下げた坂口だったが、内心焦りまくっていた(女の人じゃないか……。豊若さんも人が悪いよ!! こんな美人だなんて聞いてないから、驚いたじゃないか……)。

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