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» 2006年04月20日 12時00分 公開

目指せ!シスアドの達人(11):告白されるも決断できず。そして、転勤で……(第11話) (1/3)

[大空ひろし,@IT]

前回までのあらすじ

前回、システムトラブルも乗り越えたプロジェクトチームはさらに結束を固くした。坂口はプロジェクトの成功を認められ、異例となる本社への栄転の可能性が出てきた。また、ずっと坂口を思い続けてきた谷田は、ついに告白する。果たしてその結果は?



勇気を振り絞った告白

東京では例年より大分早く桜が咲いた週末。清水の舞台から飛び下りるような気分で、坂口を映画に誘い出した谷田は「今日こそは坂口に告白しよう!!」と意気込むが、なかなか切り出せないでいる。

 暖かい日差しの午後、お花見や買い物に繰り出す人々でにぎわう成城学園前駅の改札口で坂口と谷田は待ち合わせした。そして、2人は都心とは反対方面の急行電車に乗った。多摩川を越えて向ヶ丘遊園駅を過ぎると、車窓から見える景色には緑が増えてくる。そして右手の丘の上に建設中の大規模マンションが視界に入ってくると、間もなく新百合ヶ丘駅に着いた。

 2人はウィンドウショッピングをした後、駅前ターミナルの一角にあるシネマコンプレックスで、ファンタジー大作映画のシリーズ第1作を見た。映画館を出た2人は、夕暮れどきの買い物客などがごった返す駅前を抜け、人影もまばらなとあるビルの裏手に出た。そして、そこにある入り口から、専用エレベーターで上層階へ上がった。エレベーターを降りると、そこはデザインを凝らし、モダンな雰囲気に包まれた、フレンチレストランの広々としたエントランスだった。

谷田 「すごい!! いい感じのお店ね」

坂口 「良さげでしょ? さぁ、こちらへ」

 坂口が自慢気にいった。そこは坂口が昨晩慌ててネットで検索した店だったが、さも自分の隠れ家といわんばかりに谷田をエスコートした。中に入ると、高い天井からつるされた無数のスポットライトがテーブルを薄明るく浮かび上がらせ、天井までガラス張りになったウィンドウからは、ライトアップされた中庭が見渡せる。

 そこで2人は、ディナーを取りながら談笑した。プロジェクトが成功裏に進んでいることや、豊若と江口のかつてのうわさ話に花が咲いた。谷田はとても幸せな時間を過ごしていたが、今日は自分の気持ちを坂口に伝えようと、告白のタイミングをうかがっていた。

 一方の坂口は、何かずっと心に後ろめたさを感じていた。谷田が自分を思ってくれているのは、最近になって何となく分かってきた。自分が谷田に後ろめたさを感じるのは、自分に自信が持てず「本当はからかっているのでは?」などと卑屈になっている自分を認識しているからだなどと考えながら、谷田が思ってくれている理由を確かめもせずに受け取るだけで、その気持ちをもてあそんできたのかもしれない、そんなふうに感じ始めていたからだ。

谷田 「ねえ、坂口さん、聞いてます?」

 谷田の言葉に、坂口はハッとわれに返った。

坂口 「ああ、ごめんごめん。で、なんだっけ?」

谷田 「坂口さんって、女性とこうして2人で過ごすのって苦手なんじゃないですか?」

 坂口は、なんだかどこかで聞いたことのあるせりふだなと思いながらいった。

坂口 「そんなことないよ!」

谷田 「何だか、上の空ってときがありますよ。もっと真剣に話を聞いてくださいね。私のお願い、1つだけでいいんで聞いてくれますか?」

坂口 「あぁ、いいよ」

谷田 「じゃあ今度、初級シスアドの試験勉強を個人指導してください!」

坂口 「ああ、そんなことか。お安い御用だよ」

谷田≫

「ほんと? 約束ですよ!!」

坂口 「あぁ、春試験、もうすぐだもんな。頑張ろう」

 谷田の笑顔を見ていると心が安らぐが、でも、果たして自分は谷田の心を癒やしてやることができるのか? 坂口には自信がなかった。

 一方の谷田は、何とか自分の思いを伝えようとしていたが、うまく打ち明けられずに、初級シスアド試験の個人指導をお願いすることだけで精いっぱいだった。「でも、今日こそは決める!」谷田はそう心に決めていた。

 そして、お互いに話したいことがあるのに口に出せないまま時が過ぎた。

坂口 「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

谷田 「う、うん……」

 席を立ってキャッシャーへ向かう坂口の後ろ姿を見ながら、谷田は「いまいうしかない!!」と意を決し、支払いを終えて下りのエレベーターのボタンを押そうとする坂口の手を押さえる。

坂口 「え? どうしたの?」

谷田 「まだ行かないで……。私……」

坂口 「……」

谷田 「私……。坂口さんが好きです!!」

坂口 「……!!……」

 坂口は、いつかの会議室で深田にいわれた言葉を思い出した。谷田さんの心を癒やしてあげられるのは、坂口さんだけかも……。谷田はつかんでいた坂口の手を離した。思い切って告白した谷田は顔を紅潮させ、何も答えない坂口を不安そうに見つめている。谷田は、時が止まってしまったかと思えるくらい長い時間が過ぎた気がした。坂口が口を開いた。

坂口 「俺は……」

 谷田は背の高い坂口を見上げて、次の言葉を待った。

坂口 「ありがとう。でも、俺は……。いまの自分にまだ自信が持てない。今回のプロジェクトの成功も豊若さんがいなければ絶対に無理だった……。俺が“君にふさわしい男だ”と思えるまで……。もう少し成長するまで……待ってくれないか?」

 谷田の顔が悲しみに沈んでいくのが坂口にはよく分かった。

谷田 「そんな答えじゃ納得できない!! 私のことが嫌いなんですか?」

坂口 「そうじゃないけど!! 自分勝手でわがままなこといっているって自分でも思う……。でも、もしいまYESと答えて付き合ったとしても、結局『俺は谷田さんと釣り合っていないんじゃないか?』という思いからつぶれてしまうと思うんだ。これは自分に自信を付けて乗り切るしかないと思う。もう少し時間が欲しい。必ず、谷田さんにふさわしいと思える自分になって、もう1度答えたいと思う。待ってくれるかな?」

 予想外の坂口の答えにショックを隠し切れない谷田は、消え入るような声で「はい……」とだけいいながら、エレベーターに1人で飛び乗った。坂口は追いかけたが、坂口がエレベーターに届く前に扉は閉まった。外に出た谷田は、この季節にしては暖かい風を感じながら、駅に向かった。

 駅前には、週末を楽しむ学生たちや幸せそうなカップルや家族連れがあふれ、谷田は人ごみをかき分けるように改札口を抜けた。上り方面の駅のホームに駆け下りると、急行電車が発車するところだった。息を切らしながら、電車に乗り込むと扉が閉まり、谷田は、うつむいたまま扉にもたれかかった。

 落ち着いてくると、自然と坂口のことが頭に浮かぶ。坂口と初めて出会った日のこと。歓迎会でシスアドの話を初めて聞いたこと。風邪をひいた坂口とお弁当を一緒に食べたこと。秋葉原で一緒にパソコンを選んだこと……。次々と思い出がよみがえってくる。

「どうすればいいんだろ、私……」

 かすかに震えながらつぶやく谷田の瞳から、大粒の涙が2つ3つと流れ落ちた……。

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