ITIL V3でいうサービスストラテジとは何か:ITIL V3から知るITサービス管理(3)(2/2 ページ)
今回から、ITIL V3における5つのライフサイクルとは何かについて触れた後、サービスストラテジの詳細を解説していく。
サービス戦略の基礎とは
ITIL V3ではサービス戦略の基礎(3.5 Service strategy fundamentals)として、アクセンチュアの調査分析に基づき、ハイパフォーマンスなサービス戦略に求められる3つの要素を定義しています(図1)。
市場での焦点とポジション(Market focus and position)
ITサービスプロバイダが顧客のニーズを十分に理解して最適なITサービスを提供するために、どの領域でどれくらいの規模のITサービスを展開するか決めることを意味します。
ITサービスの種類と規模は、顧客が期待するビジネスの成果と比例するため、これをよく踏まえたうえでサービスポートフォリオ(組み合わせ)を管理し、提供規模を最適化、有利なポジションを確立します。
独自能力(Distinctive capabilities)
顧客のニーズに応えるのに十分なリソース・能力を確保したうえで、他社(他組織)がまねできないようなサービスを開発することを意味します。サービスの置き換えが容易に行えないのであれば、競合するアウトソーサー(アウトソーシングサービス事業者)のITサービスに置き換えられるという事態は避けることができるでしょう。
例えば、社内のIT部門が主体となって仮想化やプロビジョニングといった高度なインフラサービスをスピーディかつ低コストで提供することができれば、ほかのITサービスプロバイダのアウトソーシングサービスに置き換えられることはないということです。
パフォーマンス構造(Performance anatomy)
サービスの品質に対する継続的な改善の仕組みを導入することを意味します。サービス改善の取り組みは組織全体で行うべきものであり、この仕組みがしっかりと機能しているならば、それだけで十分な競争力となります。
サービス改善には、サービスを戦略的資産としてとらえているか、パフォーマンス測定項目が十分に精査されているか、といった観点が含まれます。
サービス戦略の4P(The Four Ps of strategy)
ITIL V2ではピープル(People)、プロセス(Process)、プロダクト(Product)の3PがITサービスマネジメントの基本概念として提唱されていましたが、ITIL V3ではサービス戦略を導入するために4つのPを考えています。
観点(Perspective)
一貫した行動理念、ビジョン、方向性に基づいているITサービスプロバイダは、顧客にとって戦略的なパートナーになり得ます。先見性を持つことはサービス戦略そのものについて競争力を付加する重要なポイントです。適切でない観点が設定されてしまうと、それを後でばん回するのに多大な苦労を要します。
書籍では、スイス時計産業におけるクラフトマンシップ最重視のサービス戦略が原因で、世界市場で日本勢に席巻されてしまったエピソードが挙げられています。
具体的な観点
- 短期の計画であるか、それとも長期的なビジョンか
- 明確で重要なものか
- 具体アクションを促すものかなど
ポジション(Positions)
ITサービスプロバイダにとって、他組織に対する自組織の優位性とは、競争力そのものを指します。その競争力を維持するためには、限られたリソースをどの領域に集中するかという点が重要になり、それは同業他社と比較して何らかの強みを発揮するよう意識する必要があります。
ポジションには、複数顧客の特定ニーズ(種類)に基づくもの、特定顧客の複数の要望(ニーズ)に基づくもの、地域や規模(アクセス)に基づくものがあります(図3)。
具体的な観点
- 種類ベース:給与管理サービス、財務管理サービスなど
- ニーズベース:病院向けサービス、旅行会社向けサービスなど
- アクセスベース:中小企業向け財務管理サービス、英国会計基準準拠財務管理サービスなど
計画(Plans)
観点、そしてポジションを実現するためには、現状(As-Is)からあるべき状況(To-Be)へ変化するための実行計画が必要になります。計画には、「何を(What)」ではなく「どうやって(How)」について具体的に示すことが求められます。
具体的な観点
- インフラキャパシティの設計
- 主要拠点へのスタッフ集約
- 業界標準への適合など
パターン(Patterns)
プランを実践しポジションを確立したとして、その後パースペクティブに沿ってITサービスを提供し続けるには、サービス戦略の中でルーチンワークを明確に意識しなければなりません。これは、一貫した判断基準に沿った継続的な活動の定義を意味します。
具体的な観点
- 方法のパターン(How-to patterns)
-研究開発スタッフは必ず運用を経験する
-すべての顧客の問い合わせは必ず回答する
- 境界のパターン(Boundary patterns)
-新たなテクノロジは明確な標準に従わなければならない
-新規プロジェクトは標準的な方法論に従わなければならない
- 優先度のパターン(Priority patterns)
-展開スピードよりサービス安定性が優先されている
-サービス安定性より展開スピードが優先されている
- タイミングのパターン(Timing patterns)
-期末、半期末はサービスレベルを一時的に高める
-会議などで業務判断が遅滞する時期の変更は行わない
これら4つのPを同時並行で取り組み、均質な発展がなされるよう意識することが最適なサービス戦略であり、これを基本として各プロセスに着手します。
前述の目次を見て分かるとおり、書籍中にはプロセス単位で明確に内容が分かれていませんが、「5章 サービスの経済学」の中で3つの管理プロセス(財務管理・サービスポートフォリオ管理・需要管理)が定義されています。
これに加えて、そもそもサービスストラテジ自体をどのように定めるかというプロセス(サービスストラテジ策定)を合わせたものが、サービスストラテジの主要プロセスになります。
- サービスストラテジ策定(Service Strategy Generation)
- 財務管理(Financial Management)
- サービスポートフォリオ管理(Service Portfolio Management)
- 需要管理(Demand Management)
次回から、それぞれのプロセスを説明します。
著者紹介
▼中 寛之(なか ひろゆき)
アクセンチュア株式会社 SI&T テクノロジーコンサルティング マネジャー。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部経済学科修了後、アクセンチュア株式会社に入社。現在、あらゆる業種を対象にデータセンター移行・統合、ITサービスマネジメントを中心としたコンサルティングに従事する。アイティメディアでブログを掲載中。
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