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情シスはプロジェクトファシリテーターであれ!情シスをもっと強くしよう(2)(4/4 ページ)

基幹システムの構築から運用保守まで多岐に渡る作業に日々追われる身でありながら、ユーザー部門からは叩かれ、経営層からも認められていない情報システム部門は多い。その原因には経営上の狙いやユーザー部門の業務課題を解決できていないシステムの存在がある。今回はこの問題の解決策を考える。

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合意形成のための施策評価と優先順位付け

 A社の事例では「評価軸」「評価基準」「評価後の取捨選択基準」を以下のように定めました。

評価軸

 A社の事例では、評価軸をオンライン販売サイトの成約数の増加とサイトメンテナンスにかかる費用の削減という視点での「効果」、サイト構築など施策の実行にかかわる「コスト」に加え、施策の実行に伴い現場へ負担がどの程度かかるか、という視点で「受入」という評価軸を設けました。

 これはどんなに効果が上がって低コストで実現できる施策であったとしても、ユーザー部門がその施策に対応しきれなかった場合には効果が半減したり、ユーザー部門の負担が倍増した結果、施策実行コスト以外の新たなコストが発生したりする可能性があるためです。また、どんなに効果・コスト面で秀逸な施策であっても、ユーザー部門の合意が得られなければ、結局ユーザー部門とのギャップは埋まらないこととなります。

評価基準

 評価の段階で誰もがその評価に納得ができるようにするためには、評価基準の作成の仕方も重要です。定量化できるものは極力定量化し、定量化が難しいものについても評価に迷いが生じないよう、できるだけ具体的に評価基準を設定することが必要です。

 以下はA社事例での評価基準(一部抜粋)です。

図2 A社事例での評価基準の例

効果
・販売サイトの成約が確実に向上する(この施策なしに成約向上は望めない
・サイトの維持運営コストを30%以上削減可能
・販売サイト成約のための新たな施策を導き出すことが可能となる
・サイトの維持運営コストを10%以上削減可能
・販売サイトの成約向上に貢献しない
・販売サイトの成約向上にどの程度寄与するかが現時点で明確ではない
・サイトの維持運営コスト削減に貢献しない。貢献しても10%未満
コスト
・想定施策実行コストが1000万円より多い(A社の社長決済レベル)
・想定施策実行コストが1000万円以下(A社の担当役員決済レベル)
・想定施策実行コストが500万円以下(A社の部長決済レベル)
受け入れ
・現場の業務には影響がない
・現場業務のプロセスの変更、新規プロセスなどが伴うが、マニュアルなどの整備で対応可能
・プロセスの変更対象が部レベル(部内のプロセスを変更することで対応可能)
・現場業務のプロセスの変更、新規プロセスが伴い、業務担当者全員への説明会の開催とその後のフォローが必要
・プロセスの変更対象が全社レベル(全社のプロセスを変更する必要がある)
・現場の混乱が想定される

評価後の取捨選択基準

 A社の事例では「効果が見えない施策は徹底的に排除」「現場の負担は極力最低限にする」という基本方針の下で、取捨選択基準を以下としました。

  • 効果が「低」、コストが「中」以上のものは施策実行の対象としない
  • 効果が「低」、受入が「低」のものは施策実行の対象としない
  • 上記に当てはまらないものを第一次候補として検討する

 上記のような評価軸・評価基準・評価後の取捨選択基準により、A社のWebサイトリニューアルに関する施策を以下のように優先順位付けしました。

*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***

 

 上記のような検討を経て、成約不振の原因分析を実施した上で最も効率よくサイトリニューアルをするため、まず第1フェイズでサイトアナライザーを短期間で導入、その分析結果を踏まえ、第2フェイズでWebサイトのリニューアルを進めるという方式を採ることにしました。

 また、第1フェイズと並行して、情報システム以外で改善しなければならない広告・商品ラインアップ・商品価格などの検討は、それぞれ広報・営業を担当する部署が検討することとしました。

でっちを卒業しプロジェクトファシリテーターへ?A社プロジェクト結果

 サイト分析の結果、A社のサイトを訪れる顧客層が当初まったく想定していなかった熟年層であることが判明しました。この結果を受け、商品ラインアップ、広告、サイトデザインを熟年層向けに変更することで、「成約の向上」と「広告費を含む維持運営費の削減」という経営層の想いを実現する結果となりました。

 また、情報システム部の方々が、経営層やユーザー部門と接する機会が増えたことにより、「自分達の活動は自社の企業活動に変化をもたらしている」という実感のもとプロジェクトを遂行していることが情報システム部の雰囲気すら変える結果となりました。

 長い下積み期間を経て、情報システム部がでっちを卒業した瞬間でした。

著者紹介

▼著者名 植松 隆(うえまつ たかし)

ウルシステムズ 主席コンサルタント。外資系コンサルティングファームなどを経て現職。経営とITを結びつけるためのオペレーション戦略、IT戦略の策定・実行に携わる。また、大規模ITプロジェクトのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の立ち上げ・計画・実行など、ユーザー企業への組織的プロジェクトマネジメントの定着化を得意とする。


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