うれしい部下の成長
伊東がそうしてメモを取っている最中も、坂口や藤木から次々に電話がかかってくる。岸谷や配送センターのメンバーからの問い合わせ、そして文句などなど……。
伊東 「(こんな、いままでうまくいっていたのに。やっぱりこういうものなのか、システムのプロジェクトって)」
システムのプロジェクト……伊東の頭にふと、プロジェクトを始めたころの1コマがよぎった(あれは、そう……。ユーザーの皆さんの意見を聞きに行ったとき。あのときもこんな風にあれこれいわれたっけ……)。
プロジェクト初期の要件定義フェイズで、坂口と共にヒアリングに配送センターを訪れた伊東は、初めてユーザーからの洗礼を受けたのだ。それは彼の中に強烈な思い出として残っていた。
伊東 「(あの時は、どうしたっけ…。社に戻ったら……。そうだ、坂口さんが課題整理シートを用意してて……)」
各部署のヒアリング結果を基に、当時の2人は山のような要望を整理していたのだ。
伊東 「(内容をカテゴライズして、メリット/デメリットと優先順位、リスク……。確かそう整理したよな。あれ? これっていま、みんなからいわれてることも同じように整理できるかも……)」
伊東は大急ぎで自分のバッグから社外持ち出し用のPCを取り出した。保存しておいた課題整理シートのフォーマットを呼び出す。
伊東 「そうだ、これを使ってみよう!」
つい先ほどメモをした内容をシートに入力し始めたところで、ふと伊東の手が止まった。
伊東 「(これを後から1枚1枚チェックするのは、大変だな……。要件整理のときはよかったけど、もう本番も始まっているし。重要な課題から優先的に考えないといけないし……。そうだ、1枚1枚シートにするのではなくて、まずは表にしよう! 詳細はメモにとってあるし、まずはとにかく全体感をつかめるようにしないと)」
伊東は新たなシートを追加すると、課題整理シートの項目を列に置き始めた。そして考えたあげく、いくつかの項目を削除、追加した後にフィルタも設定した。
伊東 「いままでの分を反映したら、また戻って確認に行こう」
総務からIT企画推進室に移動した伊東は、坂口や仲間とともにプロジェクトを進め、シスアドの学習も始めた。それまでの業務とはまったく違う内容に、最初は戸惑うばかりであったが、いつの間にか彼自身も気付かぬうちにシスアドに成長していたようだ。いったん入力を終えた伊東は、再び先ほどのユーザーのところに戻る。
伊東 「あ、あの、すみませんでした。また気がついた点を教えてください。こちらでいったん整理して、本社にフィードバックして検討します」
夢中で意見を聞き、シートに反映していく。自分なりに感じたことをコメントとして記載した。
『これはわがままのような気がします』
『今日は人で対応できましたが、少なからず機能を追加しないと、この部分に人を張りつかせてしまい非効率では?』
20時半。今日の整理が終わった。伊東は満足げにファイルを坂口宛てに送信すると、携帯電話を取り出した。
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