検索
連載

小さな工夫で大きく変わるヘルプデスク業務社内を幸せにするEUC(3)(2/2 ページ)

「情報システム部門と利用者部門の双方にメリットをもたらすEUCの在り方」について解説してきた本連載だが、最終回である今回は「EUCを推進するための環境作り」という観点から、社内ヘルプデスク業務の効率化について考察したい。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

質問対応の初動時間短縮が双方の負担を軽減した

 当初、利用者部門には、Excelの質問票に問い合わせ内容を記入してメールに添付する手間を不満とする声が多かった。しかし、問い合わせ方法の標準化によって情報が正確に伝わるようになったことから、「この方式の方が速く回答を得られるうえ、期待した回答内容に近付いた」として一定の支持が得られるようになった。また、意外にも「画面を貼り付けられるのが面白い」と受け止められたことから、質問票の利用は徐々に浸透していった。

 実はこの施策は、「障害発生時の画面を貼り付ける」運用が要となっている。従来は、一度の問い合わせ対応だけでは何が起こっているのか分からず、何度も確認の連絡を要していた。しかし画面を直接見ることによって 「起動パス(プログラムを実行するためのファイルやフォルダの所在を示す文字列)が間違っている」 「OSが標準的なものではない」 「アプリケーションのバージョンが古い」 といった付帯的な情報を1度で把握できるようになり、確認の手間が大幅に減ったのである。

 この結果、C社では利用者部門の満足度が大幅に向上した。利用者部門と情報システム部門の感情的な対立を生みがちだった社内ヘルプデスク業務が、生産的なコミュニケーションの場――利用者部門が抱える業務の問題点や、ITへのニーズを共有できる場に変貌したのである。

やるべきことは仕組み作りだけ

 この事例で情報システム部門が行ったことは、「質問票のひな形作成」「データベース登録の仕組み作り」「FAQ利用促進のための呼び掛け」の3点である。

 ひな形作成は半日以下、データベース登録の仕組み作りは業務の合間に作業を行い、1週間ほどで終了した。FAQ利用促進については、情報システム部門内でサポート情報を共有するために作ったFAQデータベースを利用者部門にも開放し、関連の質問があるたびにその場所を利用者に伝えただけだ。たったこれだけの作業で、対応件数は3分の1以下、「情報システム部門で対応すべき内容かどうか」の調査時間は5分の1以下にまで減らせたのである。

 ちなみに質問に対する回答内容をデータベースに登録する仕組みについては、稟議書の提出など、利用するために各種社内手続きが必要となるDBサーバではなく、低価格かつ手軽に扱えるデータベースソフト、Microsoft Accessを利用した。このAccessにExcelシートへの入力内容を吸い上げ、一定のタイミングでデータを登録する仕組みとした。この程度の負担で回答を蓄積・共有することができたのである。

技術が進歩しても、問題は変わらない

 多くの企業では、情報システム部門が業務のインフラとして大規模な基幹システムを構築する。こうした大規模なシステムは、定型業務の処理を得意とする一方で、非定型業務を苦手とする場合が多い。そのため、利用者は小回りのきくEUC的なやり方を常に求めている。POSデータをExcelのピボットテーブルで加工するような使い方がなくならないのはそのためであり、こうした“利用者主体”の取り組みがEUC実践のベースとなるのである。

 今後は、いま注目されているSaaSクラウドコンピューティングがEUC を大きく進展させることだろう。しかし、EUCを行う環境がいくら技術的に発展しても、「問題が発生したときは社内ヘルプデスクに問い合わせる」流れは変わらないはずだ。ぜひ本記事を参考に、社内ヘルプデスク業務に忙殺されず、情報システム部門と利用者部門の双方が“楽をできる”仕組み作りを目指してほしい。


 さて、「情報システム部門と利用者部門の双方がメリットを享受できるEUCの在り方」について、3回にわたって解説してきたがいかがだっただろうか。EUCを否定的にとらえたり、関心を持たなかったりする向きも多いが、EUCに適切に取り組めば、情報システム部門の雑務を減らしたり、インフラ整備にも寄与したりと、さまざまなメリットを享受できる。多くの企業において、情報システム部門は常により高い付加価値の提供を期待されているが、EUCはその実現の一手段となりうるのである――本連載が、EUCを見直す1つの機会となれば幸いである。

筆者プロフィール

村中 直樹(むらなか なおき)

株式会社クレッシェンド 代表取締役

システムコンサルティング会社や金融機関を経て独立。現場主導のITにこだわり、Excelによるシステム開発に特化したベンチャー企業を設立。これまでに700以上のシステム構築にかかわる。経済産業省認定システムアナリスト、中小企業診断士。著書に『企業活動トラブルQ&A』(共著、第一法規)などがある。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る