最愛のワイフや、最高の彼女に、ICタグピストルで撃たれたら……!?:プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」(3/3 ページ)
今、IT分野で最も注目されている技術と言えば、RFID(ICタグ)だろう。商品などに埋め込まれたICタグは世界を一変させる潜在的な力を持つとともに、IT世界のスピード中毒患者やよりディープなビジネスモデルを日夜探し求めているビジネスマンを“ウルトラスーパーハイ”にする、悪女のような魅力も持ちあわせている。
ただただ便利とスピードアップを目指して無限に拡大・蓄積された種々のテクノロジーのメッシュに、盲点は付き物だ。このように、広く社会システムとして採用され、社会という広いワールドで「便利の底上げ」だけを巧妙に実現して行くためには、多くのクリアしなければならない細かな問題も多い。残念なことだが、テクノロジー的に見れば多くの素晴らしい先進技術が、いつの間にか姿を消した幾多の理由はそんなところにもあるのだ。
ネットワークが縦横無尽に街をカバーし、ICタグがすべての物に封入され、それを認知するための受信機があらゆる所に配置され、電柱や信号機の数以上に増加すれば、大きく社会は変化するだろう。
商品の在庫管理や売り上げ管理を確実にタイムリーに行うことを目的に導入されたICタグは、企業内の合理化をいともたやすく達成し、系列関係ではない販売店の倉庫や、運送中のトラック、そして顧客の手に渡った“ICタグが入ったままの商品”は、今後、もし可能性があるなら、どう扱われるべきなのだろうか?
できれば何とか有効活用したと思うのが人間であり社会のはずだ。ただ、自社の効率化やサービス向上のために投資した企業内システムの残骸が、広い社会で他の産業や同業者によって「ただ乗り」利用されることは先行投資企業にとっては複雑な気持ちだろう。
しかし、自宅の電気冷蔵庫が庫内の賞味期限の迫った食品のリストを、扉の表面に取り付けたディスプレイに例外なく自動的に表示してくれたり、望めばその食品名を音声で読み上げてくれたり、出先にいるあなたの携帯電話にメールで知らせてくれたりするには、この「ただ乗り」の黙認や、一歩進めて積極的な「連携」が必要だろう。
昨今、頻発する多くの「食品問題」や「欠陥車問題」、過酷なスピードアップ生産や開発による弊害であろうと思われる「不良品の続出」などを考えた場合、企業の基本的な活動である生産から廃棄に至る商品の「トレース」(追跡)は、極めて重要なアクティビティとなるに違いない。
「ICタグ」はそれらを実現できる最短距離に居るまれに見る素晴らしいテクノロジーだ。受信機の守備範囲が点から線に、そして線から面になって街中をカバーする時代になれば、もはやトレースが目的の「探偵社」は廃業に追い込まれるかもしれない。
いずれは人生最後の仕事として、ご近所の「根岸・谷中あたりのボロアパートで、さえない私立探偵社でも開業して」と、密かに考えている筆者にとって、これはかなりショッキングな近未来絵図だ。
もしそんな「嫌〜な近未来」になれば、最愛のワイフや、最高の彼女から「ICタグ・ピストル」で、少し影のある背中を撃たれないよう、常日頃から背後には注意が必要だ。先端テクノロジーはいつも、チャーミングだが、ダウトフルでデンジャラスだ。
はぶ・ふぁん!
竹村譲(Joe Takemura)氏は、現国立高岡短期大学産業造形学科教授。日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品の戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の企画で話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。ライフワークは「ワークスタイル・イノベーション」。2004年3月、日本IBMを早期退職し現職。ブランド戦略やワークスタイル変革を研究中。
関連記事
- プロフェッサー竹村のIT的「スローライフのススメ」――「スピード」は「習慣性のある合法ドラッグ」なのだろうか?
IT業界では、速いことは良いことだ、の信念の元に十数年を過ごしてきた。しかし、それで誰が幸せになったのだろうか? 「永遠に走り続けるランニングマシン」の上に乗せられた「猿」の状態から勇気を持って抜け出すことが、今必要なのではないだろうか? - 野菜が自らの“素性”を消費者に語る――T-Engineフォーラムが実証実験
T-Engineフォーラムが、ユビキタスID技術を用いた食品トレーサビリティの店舗実証実験を開始した。野菜約3万個にRFIDを貼り付けるという大規模な取り組みで、生産/流通/小売のトータルなシステムによる実証実験は世界初。野菜自身が専用端末を介して「生まれ」や「育ち」を消費者に語りかける。 - スナイパーがRFIDタグを発射?
デンマーク企業のEmpireNorthが、標的に対し、それと悟られずにRFIDを埋め込む改造銃なるもののデモを行っている。同社のRFID発射体は、標的に事実上、痛みを全く感じさせず、「数分の1秒、蚊に刺されたような感触がある程度」だという - RFIDは“ビッグブラザー”を実現する?
バーコードに代わる商品管理用インフラとして注目が集まる「RFID」。CeBIT 2004で、ドイツの市民団体と技術ベンダーがRFID技術についての議論を交わした。 - ミューチップや格安“異星人”ICタグ――「5円チップ」が見えてきたRFID
微小無線ICチップで人やモノを識別できるRFIDは、IT社会の次世代個体認識システムとして注目されている。だが、あらゆるモノに搭載するためにはRFIDの大幅なコストダウンが必要。ビッグサイトで開催中の「自動認識総合展」では、RFIDの低コスト化に向けた最新動向が紹介されている。 - やはり問題はプライバシー、RFIDへの規制を求める声
カリフォルニア州上院で開かれたRFIDに関する公聴会で、プライバシー擁護派が懸念を表明。この技術を規制しなければ映画「マイノリティ・リポート」のような世界になってしまうかもしれないと訴えた。 - 皮下にも埋め込まれるRFID、クレジット決済に利用
「VeriPay」は、皮下にRFIDチップを埋め込んで、預金の引き出しやクレジットカード認証などに利用。紛失の恐れがないという利点もあるが、プライバシーの懸念も指摘されている。 - RFIDタグの追跡機能を無効化するスイッチ
プライバシー問題をめぐり議論を呼んでいるRFIDタグだが、消費者の判断で追跡機能を無効化できる仕組みが導入される。 - RFIDの普及を妨げる障害は何か
RFIDは企業の在庫管理の効率化を実現するコンセプトとして脚光を浴びているが、アナリストは、ソフトウェアインフラを見直さなければ、宣伝通りの効果を発揮しないと指摘している。 - RFIDに“世界標準”は必要ない?
- GMのCTOが予言「自動車産業は2008年までにRFIDを導入」
- RFIDタグ実用化に向け大阪・なんばパークスで実証実験
- カリフォルニア州でRFIDめぐるプライバシー保護法案
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.