「BDに負ける要素は見あたらない」――東芝・藤井常務に聞く:連載:次世代DVDへの飛躍(2/2 ページ)
応用範囲の広さが強調されるBlu-ray Disc(BD)に対し、“映画会社のためのコンテンツ販売メディア”という印象が強いHD DVD。多目的展開という点について東芝はどのように考えているのか。前回に続き、東芝の執行役上席常務でデジタルメディアネットワーク社長の藤井美英氏に話を聞いた。
最近、BDを支持するベンダーなどは、BDの大容量が生む多目的性について論じることが多い。映画などをパッケージ販売するだけでなく、光ディスクを中心にさまざまな使い方(HDカムコーダーや次世代ゲームなど)を提案し、よりリッチなコンテンツを提供していく。そのためには、BDの大容量と将来性が不可欠という。
――BD側の“多目的”戦略はどう思いますか?
「BDを多目的に使うと言われても、何ら新鮮味はありません。どれも、かつてDVDフォーラムで提案され、決めてきた用途ばかりです。8センチ光ディスクにHDカムコーダーで直接録画することが、それほど大切なことでしょうか? どんな“新しい”アプリケーションがあるのか、全く理解できません。映画などの映像コンテンツをパッケージ化する以外に、光ディスクでなければならない用途はないんですよ」。
「たとえばHDカムコーダーですが、2.5インチHDDが2010年までに300Gバイト以上になると予測されている今、本当に次世代光ディスクを使うことが正解なのでしょうか? 確かに5年前なら、BD側の見方は正しかった。しかし、HDDの急速な進化やUSB 2.0の普及などが市場のルールを変えてしまったんですよ」。
家電の世界では、さまざまな製品で同じメディアを使えるようにすることを“ネットワーク化する”と表現することが多い。BD陣営の話は、まさに大容量のBDを中心に置き、同じメディアを共有するデジタル家電の間をネットワーク化するという思想だ。
――HD DVDは、BDと異なる思想を持っているということでしょうか。
「私は現在の役職に就く前、半導体事業を統括していました。ソニーともCell開発で一緒に仕事をしており、(HD DVDに関して)“なんで容量も少ないのに、あんな馬鹿なことをして突っ張っているんだ”と思っていました。しかし、実際に事業を担当することになって冷静に見回してみると、はるかにHD DVDの方がリーズナブルで現実的な技術であることがわかってきたんです。確かにパッケージメディアに光ディスクは必要です。また、一部をアーカイブする用途もあるでしょう。しかしそれ以外の用途で光ディスクが必要になることは、もうないのではないでしょうか?」。
――再生専用機のインフラという点では、次世代プレイステーションの存在も無視できないのでは? 次世代プレイステーションすべてにBD再生機能を付けるのは、コスト的な負担が大きすぎるという見方もありますが、成功すればBDを採用したパッケージコンテンツの大きな再生インフラとしてカウントできるでしょう。
「半導体事業を共同でやっている立場からすると、次世代プレイステーションに成功してほしいという気持ちはあります。しかし、PS2の時とは状況が違います。当時、すでに北米ではDVD市場が立ち上がり、DVDソフトが流通していました。そうした中で、PS2とDVDが相乗効果を生み、かつてない大ヒットハードウェアを生み出しました。しかし、次世代プレイステーションが単独でBDの市場を生み出すシナリオは、僕は難しいと思います」。
勝てば巨万の富、負ける時には素直に撤退する
――家電ベンダーの多くがBDを支持している以上、HD DVD対応ハードウェアは東芝が牽引して行かなければなりません。
「今回、次世代の光ディスクを決めようとしている中で、ソニーと松下電器という、最大のライバルが2社、こちらにはいません。勝てば巨万の富で一人勝ち。そもそも、顧客は次世代光ディスクで高品質なコンテンツを安価に得たいだけです。プレーヤーに付いているブランドバッジを買っているわけではありません」。
――そこまでの自信、東芝だけでも勝てるという確信はどこから得られるのでしょうか?
「顧客ニーズが、最終的にメディアの価値を決めます。われわれにとっての顧客とは、コンテンツベンダーと消費者、その両方です。双方のニーズにきちんと応えられているかどうかが価値を決めるのです。賭けてもいいですが、今回のHD DVD対BDという論争に関しては、常識的に考えて絶対にHD DVDが勝ちます。BDに負ける要素は見あたりません」。
「たとえばディスク1枚の複製コストが50セント違うとしましょう。最終価格において50セントは小さな数字ですが、ディスク複製業者にとっての50セントは事業の収益性を左右するほど大きな差になります。本当にBD-ROMを安く複製できて、プレーヤーも低コスト化できるというのならば、それは容量の大きなBDの勝ちですよ。僕らの負け。(HD DVD事業を)すぐにやめても構いませんが、そうはならないと確信しています」。
――では、仮に市場がHD DVDへと大きく傾いた場合、現在、BDを支持している家電ベンダーとはどのように折り合いを付けていくつもりですか?
「もし、BD支持の大手家電ベンダーがHD DVDで新しく市場を作っていこうと気持ちを変えるのであれば、HD DVDのライセンス構造を見直し、パテントプールを作り直してもいいと考えています。われわれがやらなければならないのは、光ディスク事業をビジネスとして成立させ、そこから得られる利益をきちんと配分する仕組みを作ることです。きちんと特許収入が得られる組織を、われわれが作り上げていきましょうと呼びかけたいですね」。
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