エアチェックの本質:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)
DVD/HDDレコーダーの普及、デジタル放送の登場などでエアチェックのスタイルも変化してきた。一方で、コピーワンスが気軽なエアチェック環境を妨げている。麻倉怜士氏が“エアチェックの本質”を熱く語る。
――最後に、“エアチェックの本質”とは?
麻倉氏: 以前、DVD-RAMの本を出した時に、ディスクメディアの登場に対してお祝いの言葉として次のような文章を添えました。
音や映像を記録してのこすという行為は、人間の本能に根ざしているのではないか。それは自らがその時代に生きた証しをタイムカプセルに封じ込めることであり、自分の存在を後世にいつまでも遺す、実に人間的な所作といえるかもしれない。
後に、その媒体を再生してみると、あの時の自分が鮮明によみがえり、その時代の風が改めて懐かしく吹いているいることが感じられるだろう。それこそがパッケージメディアの最大の強みである。
放送というのは、WOWOWの映画のようにビデオパッケージとして購入できるものもありますが、本来は売るためのパッケージにならないようなコンテンツがメイン。代替可能なエアチェックもありますが、多くは代替不可能なコンテンツなのです。
今、私のマル秘コンテンツは、イギリスの夏の風物詩「プロムナード・コンサート」ラストナイト生ライブのハイビジョン放送をエアチェックしたもの。特に「威風堂々」の大合唱は、毎回感動して鳥肌が立つほどです。SD放送時代のコンサートも十分感動でき、DVDパッケージで購入もできますが、ハイビジョンで観るものは全然ベツモノ。まさに自分が興奮のルツボに立っていて、何回観ても感動して目頭が熱くなる体験ができるのです。この感動こそ、エアチェックならではの醍醐味なのです。BS日テレの「トラベリックス」も素晴らしい画質で世界の旅に誘ってくれます。とにかくハイビジョンをそのままの画質でエアチェックできるようになったのだから、本当に幸せです。
いくらHDDの容量が多く、便利になっても、パッケージメディアで持つ悦びは変わらないのです。ハイビジョン時代になり、それがさらに増してきたことをせひ声を大きくしていいたい。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのK2PROJEST/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
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