プラズマテレビは生き残れるか:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)
ソニーなど大手メーカーの事業撤退、液晶の躍進とリアプロTVの台頭など、プラズマテレビを取り巻く環境が厳しい。果たして生き残れるのだろうか。マルチメディア評論家の麻倉怜士氏がプラズマテレビの過去、現在、そして未来を語った。
――50インチ以上の大画面で“第3の大画面”リアプロTVが台頭してきています。画面サイズだけでなく、近年は画質の向上も目覚しいですが、大画面を売りにしてきたプラズマは共存できるのでしょうか?
麻倉氏: たしかにリアプロTVの画質が急激に良くなっていますね。特にSXRDのリアプロTVは目を見張るものがあります。ですが、同じ50インチでもリアプロとプラズマは同じ土俵では比較できないのです。そのポイントは“スクリーン”。プラズマはデバイスがスクリーンとなる直視型ですが、リアプロTVはデバイスから出た光をスクリーンで透過させて見る投射型です。正確にはスクリーンを透過させているので透過型といった方がいいかもしれませんね。いずれにしてもスクリーンが直接発光していない映像は、明らかに映像の見え方や質感が違います。ただしそれが悪いというわけではなくて、自己発光のデバイスを直接見るよりもスクリーンを透過して見るほうが味が出るコンテンツもあります。
――プラズマに適したコンテンツは?
麻倉氏: 暗いところで観ることを前提にしたもので代表的なのは「映画」でしょう。またコンサートや演劇なども“明るい舞台を暗い客席で観る”という実際のシーンから考えるとプラズマ向きですね。そしてNHK BS hiのハイビジョンドキュメンタリーも、大画面のメリットを最大限に使う撮影・画作りをしているのでプラズマに適していると思います。逆に、これまでの画作りを踏襲している地上デジタル放送のハイビジョン番組などは、液晶テレビの方が向いているでしょうね。最近、IDCジャパンの調査で、多くの一般ユーザーは液晶よりプラズマの方が画質がよいと認識しているという結果がでているのは興味深いですね。
これからは、1つのディスプレイでなんでも観るのではなく、コンテンツによってディスプレイを分けてみるというスタイルになっていくのでしょう。従来のような情報型コンテンツは液晶テレビ、感動・情緒型コンテンツはプラズマ、と使い分けていけるようになるといいですね。主役はディスプレイではなく、コンテンツなのですから。ディスプレイが道具だとするならば、内容にもっともふさわしい道具を使いたいものです。
こう述べると、高価なプラズマ・テレビ、液晶テレビが何台も置けるものかと疑問を持つ向きがあるかもしれませんが、今後、急速に価格が下がるので、リアリティが出てきます。またすでにブラウン管テレビでは、一家に複数所有が当たり前ですね。今後の薄型テレビの複数所有はコンテンツをメルクマールとして分けるのが理想といえるでしょう。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに"映像の鬼"。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのK2PROJEST/S9500など、世界最高の銘機を愛用している。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという"3足のワラジ"生活の中、精力的に活動している。
著作
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)――ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)――プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)――ソニーのネットワーク戦略
「DVD――12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)――DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)――記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)――互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)――プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)――新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)――シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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