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コラム

「電子書籍」はどこまで来たか小寺信良(1/3 ページ)

普及しそうで普及しなかったものに「電子書籍」がある。だが、ソニー、松下が本格的に取り組み始めたことから状況は変わりつつある。本格的普及というには、まだ5年、10年かかるかもしれないが、電子書籍は確実に人々の中に浸透しつつある。

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 過去2回のコラムで、音楽業界、放送業界の話を書いてきた。今回は出版の話である。筆者は2年ほど前に、電子出版に興味を持ってコラムを書いたことがあるのだが、今改めて読み返してみると、未だに当てはまる部分も多いが、事態が進行した部分もいくつかある。今回は改めて、電子書籍の今と未来について考えてみたい。

 デジタル化されたテキストコンテンツには、利便性の面と権利処理の面から、さまざまなフォーマットが存在する。しかし特殊なフォーマットであっても、PCならば専用のリーダーなりをインストールすることで、問題なく読める。そういう意味ではPCの利便性は認めるところだが、「文学を読むのにいちいちPCかよ」という点で物理的な利便性は損なわれる。

 一方でプレーンテキストに目を移すと、最近はテキストを取り巻く環境も、微妙に変わってきている。

 以前はポータブルなテキストビューワーとしてPDAという存在があったのだが、ご存じのようにPDA市場は縮小し続けている。それに代わり、台頭を感じるのは、意外にも韓国製MP3プレーヤーやAVプレーヤーがテキスト表示機能を搭載し始めていることだ。筆者の知る限りでは、バーテックスリンク「iAUDIO X5」や、iRiverの「H300」 、NEXX「PMP-1200」などがある。探せばもっとあることだろう。

 これらは競合の中で付加された機能だが、実際に「青空文庫」などからテキストファイルを落としてきて読んでみると、意外に捨てたもんでもない。ハードウェアはどうせ持ち歩くということで邪魔にならないし、手持ちぶさたな時にちょっと取りだして、気楽に読める。

 常時持ち歩くと言えば携帯電話の存在は欠かせないが、今後はどうも音楽再生のほうへシフトしていくようである。メモリーカードスロットのあるものなら大抵テキストぐらいは読めるようだが、読書中に着信があると待ち受け画面に強制的に飛ばされてしまうという、電話ならではの不便さがある。またバッテリーの消費が気になり、常時バックライトが点灯した状態の「読書」は、敬遠される面があるかもしれない。

縦書きへのこだわり

 ポータブルデバイスでの読書で難点を挙げるならば、やはり漢字文化圏の特徴とも言える、「縦組み」をサポートしていない点は大きい。特に古典や時代小説などは、縦組みで読めばそれだけの味わいがある。

 この縦組み問題は古くから指摘されてきたこともあって、今は解決するソリューションがある。電子出版の草分け的存在の株式会社ボイジャーでは、自社のテキストビューワーソフト「T-Time」に、書き出し機能を搭載した。

 これはさまざまなデバイスで縦組み読書ができるように、テキスト表示画面の解像度を変えて縦組みにし、それをJPEGの連番ファイルとして書き出すというものである。対応しているデバイスには、Apple iPodやソニー PSPを筆頭に、各社携帯電話やデジカメ、フォトビューワーがある。JPEGビューワー機能を利用して、読書ができるというわけである。


T-TimeでPSP用に書き出し設定したところ

 JPEGはテキスト画面のような単純な画像の圧縮には向いていないため、文字の輪郭や行間に圧縮ノイズを感じる。だがそれでもテキストとは全く無関係なデバイスで、しかも縦組みで読書ができるというインパクトは、小さくない。

 当然ながら、著作権保護されているオンライン書店の電子書籍は書き出しができない。しかしボイジャー自身が運営するオンライン書店「理想書店」の作品なら可能だ。このあたりは各オンライン書店と出版社の間ではそれぞれ別個の契約がなされていることもあり、こっちでOKなんだからあっちでも同じだろ、というわけにはいかないのである。

袂を分かつビジネスモデル

 2年前の執筆時点では、電子書籍の専用端末というのはなかった。だが2004年2月に松下がΣBook(シグマブック)を、同年4月にはソニーがLIBLIe(リブリエ)を発売し、ここでも松下 VS ソニー対決の図式が展開されるかと業界内外で色めきだったものである。

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