News:アンカーデスク 2003年7月7日 10:46 AM 更新

電子出版の普及は是か非か(1/2)

このサイトの読者なら、何か分からないことがあったら、ネットで調べる人がほとんどだろう。情報の電子化はすさまじく、それは結果として技術系出版社などに打撃を与えている。その割に電子出版が進まないのはどうしてだろうか?
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 例えばあなたは、技術的なことで何か分からないことがあった場合、どんな手段で調べるだろうか。おそらく大半の人は、サーチエンジンを使って用語を検索したり、あるいはいつもそういった情報が載っているサイトへ行って調べる、といったことを日常的に行なっているだろう。

 WWWの拡大および細分化、そしてサーチエンジンの高性能化が進むにつれて、こういった「調べもの」は格段に楽に、そしてスピーディーになった。こうまで楽になってしまうと、インターネットが普及する以前は、一体どうやって調べものをしていたのか思い出せないぐらいである。

 それでもなんとか記憶の糸をズルズルとたどっていくと、調べものはやっぱりまず本屋へ行って本を買っていたような気がする。狙い通りのことがズバリ書かれている本を見つけるのがまた一苦労で、自分の考えるジャンル分けと本屋が考えるジャンル分けが“びみょー”にズレていたりすると、絶対この辺にあってしかるべきなのにそれ関連の影も形もない。

 覚えているところではもう10年ほど前になるが、デジタルビデオカメラの新モデルに関する本を探したことがあった。カメラ関係の雑誌・ムックコーナーを探したのだが、全然見つからない。

 しょうがないのでそこら辺一帯の雑誌コーナーを端から順に見ていったところ、なんと鉄道マニアコーナーの一角にかたまって置いてあったのである。

 どうもその書店では「ビデオカメラなんて買うヤツはどいつもこいつも“鉄ちゃん”」という、通常の人間には理解不能だが、よく考えれば当たらずとも遠からずなマーケティングがなされていたようで、筆者はマジその本両手にこの場で暴れてやろうかと思ったものだ。

 書き出し早々話が脱線したが、そう、技術的な調べものはインターネットが楽なんである。だから本来は本屋のお得意さんだった人たちが、本屋へ行かなくなった。その結果として、技術書が売れないという状況は、技術系出版社ではかなり深刻になってきている。

もはや人ごとではない

 もう先月になるが、PC系出版社のインプレスが、新刊書籍「だからWinMXはやめられない」で、発売前にその一部をPDF形式で“電子立ち読み版”として無償配布するという試みを行った。加えて、一般書店売りに先駆けて、PDFによるオンライン販売を開始している。

 書籍の電子出版は以前から研究が進んでいるが、一番そういうことをやりそうなPC系出版社が意外に保守的で、反対に技術系には疎そうな読み物系出版社のほうが積極的という図式がある。

 興味深いのは、このニュースを一番最初に扱ったのが他ならぬソフトバンク系の当ZDNetであり(6月19日の記事)、インプレスが運営するImpress Watchではあれだけのニュースサイトがありながら、未だ1行たりともニュースとして扱われていないところだ。

 Watch内では社内のことなんでニュースとして扱いにくいという点もあるだろうが、書籍の出版がコンペチターのニュースサイトに取り上げられるのは、極めて異例と言えるだろう。それだけ電子出版の成功が、出版社の垣根を越えて重要視されていることが伺える。

 電子書籍に関しては、以前、筆者は「青空文庫」にずいぶん入れ込んだ時期があって、その利便性は分かっているつもりだ。さらに調べてみると、以前電子書籍といえばPDAグッズサイトが中心となって細々とした商売といったイメージだったものだが、電子出版物を専門に扱うサイトもずいぶん増えている。

 実際に筆者もこの「だからWinMXはやめられない」PDF版を購入してみた。PDFで総ページ数は130だが、見開きで1枚になっているので、本来ならば260ページ分である。通常250ページあまりの本を一人で書くには、少なくとも半年はかかる。この(紙の)本の定価は1580円で、まあ仕事対価的にはそんなものかなと思う。しかしその半年の労力の結晶が、電子書籍では950円で売られるというのは、書く側にとっては複雑な気持ちではあるが、確かに安い。

[小寺信良, ITmedia]

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