東芝・藤井氏に聞く――次世代DVD統一交渉“決裂”の背景(前編):インタビュー(3/3 ページ)
前回は次世代光ディスク統一交渉の一方の当事者であるソニー、西谷清常務にインタビューしたが、東芝の交渉代表となっていた東芝上席常務の藤井美英氏に話を聞いた。「まだ完全に決裂したわけではない」というが、両者の溝は予想外に深いようだ。
「DVDでこれだけ頑張って、それでも利益をなかなか出せない状況があります。利益なき競争をし、消費者利益も置き去りにして、何をやっているんだと言われ、1月頃に考えが変わってきた。もう一つはBDにも多くの企業が参加して3年もの間、開発を続けているのだから、常識的に考えて良いところがたくさんあるだろうと思っていたこともあります」
「ところが実際に交渉をしてみると、何年後にはどのようなアプリケーションが登場し、そこではこれだけの容量が必須となるといった、大容量が必要になるための青写真さえありませんでした。しかもBD-ROMも安くできると言い、もうすぐ量産ラインが完成するから、その最終の検証データを提出するとソニー側は話していたのに、それが延期になったため提出できないという。今でさえ高い歩留まりを実現していないのに、BDの方がDVDよりも安く製造できるとプレス発表しています。工場でも自由にディスクを抜き取って検査することさえ許されませんでした」
「ソニーや松下電器から参加していた技術者は優秀な方が多く、なるほどと納得できる内容もありましたが、0.1ミリでも安価に製造可能だと、ハリウッドの映画スタジオを納得させる根拠には乏しいと判断しました」
基本は2層30Gバイト
――ハリウッドの映画スタジオは、基本的に家電業界の中で統一フォーマットを決めることを望んでいました。彼らも統一フォーマットができるならば、それを採用するでしょう。“0.1ミリでもハリウッドを納得させる材料”がなぜ必要なのでしょうか?
「私はデジタルメディアネットワーク社の社長に就任してから、ハリウッドに対してはずっと“0.6でも0.1でも構わない。どちらを選んでもらってもいいが、われわれは0.6ミリ構造でこういう特徴のある技術を作った。あなた方はどちらを選ぶのか?”と話していました。色々な噂がありますが、実際には彼ら自身に選んでもらい、その結果、HD DVDを使いたいという結論が出た。だからこそ、1月のCESでは映画スタジオの要人も集まり、HD DVDの大々的なプロモーションイベントを行えました」
「彼ら自身、現行のDVDで大きなビジネスをやっています。一番多く光ディスクを活用している映画業界に対して、自らがこちらが良いと言っている規格に対して理由もなく変更というのはあまりにも筋が通りません。0.6ミリが良いと言っている映画スタジオに、0.1ミリでも大丈夫というサインは必要ですよ」
――光ディスクの用途やターゲットユーザー、あるいは商品の違いも交渉の中で大きく食い違っていたポイントだったように見えます。たとえば東芝はカムコーダー事業を持っていません。
「交渉をはじめてから、彼らとわれわれでは事業内容の違いがあると痛感しました。例に挙がったカムコーダー事業を東芝は持っていませんが、ソニー・松下にとってみれば大きな事業なのでしょう。しかし、われわれも何も考えていないわけではありません」
「東芝には三つのストレージメディアがあります。フラッシュメモリ、ハードディスク、それに光ディスクです。これらを適材適所で使い分け、最適化することはわれわれの戦略です。何が何でも光ディスクだけで機器をネットワーク化する必要があるでしょうか? われわれが考える光ディスクの用途は、映像や音楽を保存しておくアルバムのようなものです。アルバムは分厚すぎても使いにくい。一定水準以上の容量があれば十分で、あまり大きすぎると使いにくい」
――とはいえ15Gバイトでは地上デジタル放送を2時間録画することさえできません。BDの50Gバイト、あるいは将来の100Gバイト、200Gバイトが必要か否かは別としても、さすがに低価格が期待できる1層ディスクが15Gバイトでは少なすぎませんか?
「記録型HD DVDの基本は、HD DVD-Rの2層30Gバイトですよ。30Gバイトならば地上デジタル放送で3時間ぐらいは録画できます。これでほとんどの用途をカバーできるでしょう。長時間のスポーツ放送などは消費型コンテンツの典型ですから、十分なサイズのハードディスクを搭載していればいい。これに対してソニー・松下は、長時間のスポーツ放送もストリームでディスクに記録するから大容量が光ディスクに必要だという。本当にそのような使い方をするでしょうか?」
後編では、統一交渉の経緯に話を戻し、一時期は統一に積極的だった東芝が方針転換した理由を探る。
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