ドルビーに聞くハイビジョンホームシアターの現状(前編)(2/2 ページ)
Blu-rayやHD DVDのソフトが増え、レコーダーやAVアンプでも新しい世代の製品が登場し始めた。HDソフトが採用する新しいサラウンドフォーマットと再生機器の状況について、ドルビーラボラトリーズ日本支社の松浦亮統括ディレクターに話を聞いた。
新しい「Dolby Digital Plus」(DD+)は、従来のDolby Digitalに対して上限を拡張し、さらに下限もサポート範囲を広げたものです。技術的には、下限がモノラル32kbps(Dolby Digitalはモノラル96kbps)、上限はHD DVDで最大3Mbps(Blu-rayでは最大1.664Mbps)という“上限がすごく高い”コーデックです。自動車に例えるなら、従来のDolby Digitalが自然吸気エンジン、DD+はターボエンジンといったところでしょうか。
また、音声符号化のアルゴリズムも変わっているため、低いビットレートでも音が良い点も大きなメリットです。副音声機能――Blu-rayの「Secondary Audio」、HD DVDでは「Sub Audio」ですが、DD+はその両方で“必須”のコーデックとして採用されています。
たとえば、映画ソフトで監督や出演者のコメントを特典として入れることがあります。DVDのコメンタリーと同じですが、ハイビジョンソフトでは“副音声ミキシング機能”を使って副音声を本編に重ねることができる。この場合、主音声は5.1chもしくは7.1chで入っていますが、ミックスする副音声までメインの音声と同じクオリティにする必要はないでしょう。それを効率的に行えるのがDD+です。
――では、主音声としてのDD+はいかがでしょう。Blu-ray、HD DVDともに7.1ch音声をサポートしていますが、現在の映画ソフトで7.1ch対応のものは存在しません
既に申し上げた通り、DD+では最大3Mbpsのビットレートをサポートし、完全ディスクリートな7.1ch音声を運ぶことができます。また、両フォーマットとも「7.1ch以上の拡張性」の余地を残しています。
同じ5.1chでもDVDと同じソフトで聞き比べると、音は断然いいですよ。たとえばユニバーサルのHD DVDで音楽ソフトなどを視聴するとよく分かります。従来のDVDは448KbpsのDolbyDigital、HD DVDはDD+の1.5Mbpsでしたが、ある程度オーディオを知っている人ならすぐに違いが判るでしょう。
Dolby TrueHDの意義
Dolby TrueHDは、“ロスレス音声”(可逆型音声符号化)を採用している点が最も大きな違いです。たとえばMP3のような“ロッシー音声”(非可逆圧縮)では、マスター素材をエンコード(圧縮工程)時に音を間引いてしまいますから、出来上がったソフトの音はマスターよりもクオリティが下がりますよね。
しかし、ロスレス音声は文字通りロスがありません。簡単に説明するのは難しいのですが、一言で言うとロッシー符号化が聴覚の仕組みを使ってデータ削減を行うのに対し、純粋に数学的モデルを使って音声データの冗長性を削減するのが、ロスレス符号化であるDolby TrueHDです。結果として、デコードした音は完全にマスターと同じクオリティになります。
また、たとえばリニアPCMを使用すると“無音”の場合でも一定の帯域を使いますが、TrueHDは違います。重複するデータを詰めていくと、元のデータに比較して、ディスク上では2分の1から3分の1まで小さくできます。減らした容量は、画質の向上や特典映像などに利用できるため、“画のクオリティにも貢献している”と言えます。
従来の非可逆圧縮では、アルゴリズムで音を捨てているため、最大ビットレートが大きいほど良い音(マスターに近い)と言えますが、可逆圧縮の場合は元の音に戻るため、逆にビットレートが低いほど画質に貢献できるといえるでしょう。従来のパラダイムは成立しなくなるわけです。
――では、TrueHDではどの程度データを小さくできるのですか?
われわれがエンコードした例を挙げますと、たとえば、48kHz/24bit/6chで6.91Mbpsのクラシック音楽が2.85Mbpsまで下がりました。キース・ジャレットのピアノ(96kHz/24bit/6ch)では、13.82Mbpsのマスターが3.54Mbpsにまでダイエットできました。音源によって差はありますが、いずれにしてもデータサイズはかなり小さくなります。
Blu-rayの場合、読み出しに54Mbpsの帯域がありますが、ディスク上に多重化できるのは最大48Mbpsです。マージンを考えると46Mbps程度でしょうか。映像に(最大値の)40Mbpsを与えた場合、残りは6Mbpsになりますが、これはかなり微妙な数字なんです。というのも、リニアPCMを使った場合、48kHz/24bit/5.1chで6.9Mbpsの帯域が必要になりますから。
ところが、TrueHDを利用すれば、6.9Mbpsを半分から3分の1程度にできる。残りの帯域を使って日本語音声を入れることも可能です。非常にリーズナブルな音声といえるでしょう。
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