ドルビーに聞くハイビジョンホームシアターの現状(後編)(3/3 ページ)
Blu-rayやHD DVDに向けてドルビーが提供する3つのオーディオツールボックス「Dolby Digital」「Dolby Digital Plus」「Dolby TrueHD」。後編では、実際にAVシステムで楽しむ場合の注意点や7.1chサラウンドの見通しなどについて、引き続きドルビーの松浦氏に話を聞いた。
既に述べた通り、スピーカーロケーションについては複数の可能性があります(前ページの図参照)。まず7.1ch対応ソフトが登場して、しばらく運用してみないと、どれに落ち着くのかわかりません。そういう意味では、まだ先の話といえます。
ただ、「Dolby Digital Plus」や「Dolby TrueHD」は、どのようなチャンネル配置の7.1コンテンツであっても5.1chシステムで問題なく再生できる仕組みを提供しています。
Dolby Digital Plusの典型的な7.1ch再生である「バックサラウンド型7.1ch」(背後にスピーカー“Lb/Rb”を追加するスタイル)を例にして、5.1システムでどう再生されるか説明しましょう。
まず、スタジオで7.1chソフトを制作する際、7.1chのファイナルミックスから、5.1ch環境でも適切な再生表現になるよう、LsとLbの情報を持つ「Ls'」、RsとRbの情報を持つ「Rs'」を作り、5.1ch(L/C/R/Ls'/Rs'/LFE)を構成します。この5.1ch音声をDolby Digital Plusの「主データ領域」(Independent Substream)に格納します。次に、元の7.1chファイナルミックスからL/R/Cを除く4chサラウンド(Ls/Rs/Lb/Rb)を「副データ領域」(Dependent Substream)に入れます。
このようにしておくと、7.1chのシステムで再生する際には、主データ領域にあるミックスされたサラウンド音声(Ls'/Rs')を、副データ領域のサラウンド4ch(Ls/Rs/Lb/Rb)に単純に置き換えるだけで、ファイナルミックスと同じ7.1ch音声を再生できます。
一方、5.1chシステムで再生する場合には、副データ領域を使用せず、主データ領域にある5.1chだけを再生すればいい。エンコード時にスタジオで適正にダウンミックスされた5.1ch音声を楽しめるのですから、どちらも制作者の意図を忠実に反映した音といえるでしょう。
――では、従来にない配置の7.1chだった場合はいかがでしょう。もちろん、ソフトにあわせてスピーカーの配置を変えるような上級ユーザーでしたら問題はないと思いますが、皆がそうできるわけではありません。
従来のスピーカー配置と大きく異なる場合――たとえばバーティカルハイトチャンネル(VHL/VHR:フロントL/Rの上にそれぞれスピーカーを配置する7.1ch)を使うソフトだったときは、先ほど申し上げたエンコード時に作成された5.1chが再生されます。ただし、この5.1chには、あらかじめVHL/VHRの情報が格納されているので、5.1で再生されてもミックス表現は変質しません。
われわれが強調したいのは、現在のAVアンプを買った後でさまざまな7.1chソフトが出てきたとしても、音や移動やサラウンド感が極端に変質したり、失われるということはないということです。そもそも、さまざまな形式の7.1chコンテンツが本当に出てくるのか、まだわかりません。
それには上流にあるデジタルシネマの劇場普及が進み、コンテンツ制作側にある種の“決まりごと”ができるというプロセスが必要になります。おそらく何年もかかることでしょう。ですから、今AVアンプの新製品を購入してハイビジョンパッケージを楽しむことに何も問題はありません。
関連記事
- ドルビーに聞くハイビジョンホームシアターの現状(前編)
Blu-rayやHD DVDのソフトが増え、レコーダーやAVアンプでも新しい世代の製品が登場し始めた。HDソフトが採用する新しいサラウンドフォーマットと再生機器の状況について、ドルビーラボラトリーズ日本支社の松浦亮統括ディレクターに話を聞いた。 - パイオニア、Dolby TrueHDなどに対応したミドルクラスAVアンプ
パイオニアはAVアンプ「VSA-AX1AH」「VSA-1017AV」を発売する。HDMI 1.3aに対応したほか上位機種はDolby TrueHDとDTS-HD Master Audioに対応。 - パイオニア、1080/24p出力可能なBDプレーヤー
パイオニアは1080/24p出力可能なBlu-ray Discプレーヤー「BDP-LX70」を6月下旬より販売開始する。 - オンキヨー、初のHDMI ver.1.3a搭載AVアンプ2機種
オンキヨーは、HDMI 1.3aを搭載した7.1ch AVセンター「TX-SA805」と「TX-SA605」を6月16日に発売する。HDMI CECもサポート。 - バンダイビジュアル、HD DVDとBlu-rayに「ドルビーTrueHD」採用
バンダイビジュアルは、7月以降に発売する次世代DVDパッケージ3作品6アイテムにおいて、サラウンド音声フォーマット「ドルビーTrueHD」を採用する。 - プレステ3は「True HD」サポート、ドルビー
ドルビー日本支社は9月22日、「プレイステーション3」が同社サラウンド技術「Dolby Digital 5.1」および「Dolby True HD」に対応すると発表した。 - Blu-rayタイトルは「Dolby Digital Plus」を活用できるか?
パッケージコンテンツの登場も近いBlu-ray Discだが、オーディオ仕様にちょっと不可解な点がある。それは「Dolby Digital Plus」の実装方法。現状では、BDタイトル上でDD+を活用する機会が“ほとんど”ないかもしれない。 - ドルビーが考える“次世代ホームシアター”
ドルビー日本支社が報道関係者向け説明会を開催し、次世代サラウンドフォーマット「Dolby Digital Plus」とMLP Losslessについて説明した。これら新フォーマットに対応するAVアンプは2006年から2007年初頭にかけて登場する見込みだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.