日産に聞いた“燃料電池車”の実力と課題(2/2 ページ)
燃料電池車は、燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させ、電気エネルギーを得る“究極のエコカー”。しかし、既に市販されているハイブリッドカーや電気自動車に比べると、まだ“未来のクルマ”というイメージが強い。自動車メーカーはどのようなロードマップを持っているのか。日産に詳しい話を聞いた。
まず、首都圏には経済産業省の「水素・燃料電池実証プロジェクト」(Japan Hydrogen and Fuel Cell Demonstration Project:JHFC)で設置した「水素ステーション」が10カ所ありますが、700気圧のタンクに水素を充填するためには“加圧”する必要があるため、現在の設備では対応できません。
設備は今年度のプロジェクトで対応する準備を進めていますが、一方で700気圧に加圧するためにはエネルギーが必要です。充填のためにエネルギーを消費することが(効率上)良いのか? という議論があります。実際、水素燃料の積載方法については、加圧水素容器以外にもさまざまな方法が検討されていますが、どれも現状では“決めて”に欠ける状況です。最も実用に近い手段として高圧水素容器の検討を進めているわけです。
また、70MPaのタンクには製造コストと重量という課題があります。タンクはアルミニウム製のライナーをカーボン素材でカバーする構造になっていますが、高圧のためアルミ層を厚くしなければならず、クルマの重量が増してしまいます(車両のスペックシートによると、35MPaと70MPaの車両に70キロの重量差がある)。そして高価なカーボン素材をふんだんに使用するためコストもかさみます。
――コスト面の問題が大きいようですが、市販できる車両が出てくるのはいつ頃になりますか?
日産では、2010年代の前半に“市販レベル”のFCVを販売したいと表明しています。市販レベルということは、少なくとも1000万円を切るレベル……500万円から1000万円として、従来のクルマより少し高い程度にまで下げたいと思っています。
――その頃には水素ステーションなどのインフラも整っているのでしょうか
インフラ整備は規制緩和と併せて進めなくてはなりません。既にガソリンスタンドがあるので(水素ステーションは)場所に困らないと言われていますが、現在の法制下では、たとえば住宅地のステーションでは水素の貯蔵量が極端に限られてしまったり、地下に貯蔵庫を造りたくても出来ないといった制限があります。規制緩和については、経済産業省など関連する各省庁/機関が連携して動いている状況です。
ほかにも運用面ではさまざまな課題があります。たとえば、FCVはナンバーを取得できますが、現在の法制度ではトラックに乗せた途端、“危険物”扱いになってしまうんです。FCVを積載したトラックは“燃料以外に可燃性の気体を積載したクルマ”ということになり、一部のトンネルなどを通ることができません。青函トンネルを使ってFCVを運ぼうとしたら、手前でFCVを降ろしてトンネルの区間だけ自走するんですよ。
――冗談みたいな状況ですね。では、将来的にFCVが市場に登場した後、どの程度のペースでリプレースが進むと考えていますか?
CO2削減という観点では、2015年を超えるあたりまではディーゼルやエンジン……ガソリンはバイオ燃料に代わっていくと思いますが、それらの進歩でかなりの削減が可能でしょう。ですから、すぐにエンジン車がなくなるわけではありません。たとえば2050年でもエンジン車は全世界で4割程度を占めていると予測されています。
(ガソリンのような)液体燃料には、ガス欠になってもバケツで運べる利便性がありますから、とくに発展途上国では重要です。一方、先進国のでは(FCV含む)電気で動くクルマが中心になるでしょう。全体的にみると、FCVや電気自動車があり、バイオ燃料のエンジン車があり、熱効率が良く排気ガスがキレイになったディーゼル車もあり……といった具合に地域ごとにすみ分けが進むと考えられます。
本当にカーボンフリーになるのは、2100年頃と予測されています。それまでには、太陽光や風力、水力、地熱といった、その地域で得やすいリムーバブルエネルギーを使い、水素を作るところまでいけるといいですね。2050年頃からそうした技術が進んでいくと考えられています。
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