「硫黄島からの手紙」とヤマハ「DSP-Z11」のCINEMA-DSP HD3:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」VOL4(3/3 ページ)
同一の作品をAAC音声とロスレスHDオーディオで聴き比べると、その音質差にはげしく驚かされる。相応のサラウンド再生環境を整えてみれば、誰にでも分かる“違い”だ。そこで今回から、3回連続でHDオーディオに対応したAVアンプの旗艦モデルを取り上げよう。初回はヤマハ「DSP-Z11」だ。
しかし、通常のサラウンド・システムにプレゼンス用スピーカーを新たに4本を加えるなんて絶対ムリという方は当然多いのではないかと思う。しかし実際に実験してみると、プレゼンス用スピーカーはとりあえずなんでもよい、本機を使うならまずそれを取り付けることが重要だということが分かった。
メインのL/R用スピーカーから放射される音に比べてプレゼンス用スピーカーが受け持つ音のレベルは、その約10分の1。ローカットフィルターも通っているので、低音再生能力に劣る安価な小型スピーカーでぜんぜんかまわないのである。本機を使うならまずプレゼンス用スピーカーを加えて、「3DシネマDSP 」または「シネマDSP HD3 」の効果を味わってみるべきではないかと思う。
また、本機の自動音場補正機能「YPAO」には、各チャンネルの周波数特性を補正するパラメトリックイコライザーが内蔵されているので、プレゼンス用スピーカーの音色に違和感を感じたときは、これを積極的に活用するといいだろう。
本機を使ってみて、もう1つこれはいいと思ったのが、「ミュージックエンハンサー」機能。これは、16kHz以上の超高域成分を補間し、低音のピーク成分の1オクターブ下のサブハーモニックを生成するというもの。実際に使ってみると、音が痩せて歪みっぽく聴こえるケースの多いデジタル放送のAAC音声などによく効く。HDオーディオのハイファイ・サラウンドサウンドに耳が慣れると、AAC の音にもの足りなさを感じることが多いが、ミュージックエンハンサー機能をうまく使えば、その不満もかなり改善されると思った。
高画質な大画面に見合う高音質なサラウンドサウンドを得ることで、初めてほんとうに満足できるホームシアターが完成する。そんなことをつくづく実感させてくれるAVアンプであることは間違いない。
しかし、少し気になるのは、リアパネルの入出力端子をどんどん埋めていくと、音のヌケが悪くなること。音場も狭くなり、なんか冴えない音になってしまうのだ。シンプルな結線だと、CDを2チャンネルで聴いてもAVアンプとは思えないいい音を聴かせてくれるのだが。さまざまなソース機器の司令塔役をこなさなければならないAVアンプだからこそ、このへんはおおいに改善の余地がある。
サイズが大きくてラックに入らないとか、重すぎて(34キロ!)ラックの棚板の耐荷重を超えているという致命的なモンダイもなんとかすべきだろう。いちばん手っとり早いのは、機能別にセパレート構造にすることだと思う。「セパレートにすると、ぜんぜん売れないんですよ」とメーカーの人間はすぐ言うが、そんな過去のデータをいつまでも信じていていいものか。
だって、今やAVはHDオーディオ時代だよ。44.1kHz/16ビット/2チャンネルという化石のようなフォーマットがいまだ主流のピュアオーディオの世界には、100万円をはるかに超えるセパレートアンプが数えきれないほど存在しているというのに。
フォーマットのハイクォリティ化に追随できるほど、AVサラウンドはまだ趣味として成熟していないということなのだろうか。
執筆者プロフィール:山本浩司(やまもと こうじ)
1958年生まれ。AV専門誌「HiVi」「ホームシアター」(ともにステレオサウンド刊)の編集長を務め、昨年秋フリーとして独立。マンションの一室をリフォームしたシアタールームで映画を観たり音楽を聴いたりの毎日。つい最近20数年ぶりにレコードプレーヤーを新調、LPとBD ROM、HD DVDばかり買ってるそうだ。
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