新しいライフスタイルを生み出す、AV機器のワイヤレス化:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)
フルHDが当たり前となった薄型テレビは新たなデザインと利便性を模索しており、そのキーとなるのが「ワイヤレス」だ。麻倉氏はAV機器のワイヤレス化が、新しいライフスタイル、クリエーション、ニーズを生み出すと予見する。
ロケーションフリーの前身は「エアボード」ですが、この時代はSD映像しか送ることができず、エアボードも液晶画面と一体化したデバイスでした。ロケーションフリーの時代になってインターネットと融合し、最新機種ではハイビジョン映像をホームネットワークで伝送することも可能になりました。手元にあるテレビ/ディスプレイをワイヤレス化できるのが大きな特徴といえますね。
意外に便利なのが有料放送サービスとの組み合わせです。従来の方法では離れた場所にある2台のテレビで有料放送を見ようと思うと2つのチューナーが必要でしたが、ロケーションフリーを導入することで、2つのテレビから視聴が可能になります。また、アンテナ端子のない部屋でも、テレビを見ることを可能にしてくれるデバイスでもあります。
実はこの「アンテナ端子のない部屋でも見られるテレビ」は家電業界の夢でもあるのですね。テレビ電波の再送信は免許が必要ですが、無線LANを使うことで実質的な再送信を可能にしています。「テレビ番組の家庭内再送信」を実現し、しかもハイビジョン伝送対応です。圧縮に起因する操作レスポンスの鈍さ、映像にみられる圧縮のクセ"もありまずが、それでも、従来は考えられなかった利便性を提供してくれることは評価すべきでしょう。
「1つの部屋の中で使われるワイヤレス」と「部屋の壁を越えるワイヤレス」、この2つは利用されるワイヤレス化の技術こそ異なりますが、DLNAという規格も存在していますので、どこかで融合していくのではないかと思います。クリアすべき課題も山積していますが、"映像コンテンツを宅内のどこでも楽しむ"というニーズが高まれば、おのずと技術の開発は進むでしょう。
ディスプレイもソフトも、プレーヤーも進化します。ワイヤレス化は単なるケーブルレスではなく、新しいライフスタイル、クリエーション、ニーズまでも生み出す可能性を秘めていると言えます。最近ではNECが「Lui」を発表していますが、ホームネットワークを利用したフルハイビジョン映像伝送可能な機器の充実、使い勝手の向上を各社には求めたいですね。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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