麻倉怜士のデジタル閻魔帳
HD DVD、3つの敗因(1/3 ページ)
HD DVDとBlu-ray Disc(BD)の次世代DVD戦争は、HD DVDを推進した東芝の撤退というかたちで幕を閉じた。東芝が撤退を表明したのは2月19日。1月5日(日本時間)に起こった、ワーナー・ホーム・ビデオのHDビデオBD一本化、いわゆるワーナー・ショックから1カ月ほどでの出来事だった。
ハイビジョンメディアの主流を争った両規格だが、明暗を分けたのは一体どういった要素なのだろうか。デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏が、最新トレンドをいち早く、しかも分かりやすく紹介してくれる月イチ連載『麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」』。今回は、ハイビジョン映像をこよなく愛し“ハイビジョン・ラバー”の名もある麻倉氏の目から見て、HD DVDの「敗因」は一体、何だったのかを分析してもらった。
敗因(1)――記録時間の短さ
麻倉氏: 2月19日とは2002年にBlu-ray Discグルーブが規格発表の記者会見を開いた日です(関連記事)。しかも曜日も同じ「火曜日」。この日、多くのなかで、1社だけいないメーカーがありました。東芝です。東芝はソニーの誘いを断り、HD DVDという独自の道を選択したのです。その6年後にそれとまったく同じ日に撤退を発表するとは、運命の皮肉というか、必然というか、何か因縁を感じますね。
さて、HD DVDの「敗因」を分析しましょう。
エアチェックメディアとして考えた際、HD DVDではBS-hiを1時間半録画できないのに対して、BDは2時間10分以上の録画が可能です。VHS/βの規格争いから得られた教訓でもありますが、エアチェックメディアは2時間録画できないと一般に受け入れられません。
VHS/βの規格争いの際、後発となったVHSは綿密な市場調査を行い、2時間の録画時間が必要という結論に至っていました。メディアの物理的なサイズが大きくなっても、多少画質が悪くなっても、です。VHS/βの争いは10年以上続きましたが、ご存じのように最終的にはVHSが勝利しました。その最大の勝因は記録時間でした。
2時間録画できないメディアは生き残れない――そのことは東芝も分かっていたはずです。だからHD Recといったトランスコーディングや2層メディアを強調したのでしょう。しかし、浸透するまでには至りませんでした。
いくつか存在した記録メディア戦争の際、いずれも録画時間が長い(記録容量の多い)メディアが勝利を収めてきました。ビデオカメラのVHS-Cと8ミリでは標準で1時間(VHS-Cは20分)の録画時間を持っていた8ミリが勝利しました。DVD規格戦争のMMCDとSDを例にしても、MMCDの3Gバイトに対してSDは5Gバイトの容量を持っており、最終的に勝利したのはSDでした。
ROMについては議論はありますが、私が2005年にワーナーへHD DVD採用の理由を尋ねたところ、彼らは「MPEG-4やVC-1といったコーデックも存在しており、30Gバイトあればほとんどの映画は入る」と返答していました。ですが、当時からディズニーは「クリエイターはあれもこれもと入れたくなるから、(BD2層の容量である)50Gバイトでも足りない」という意見でした。それを聞いて、ハイビジョン時代には容量はどれだけあってもよいものだと感じました。
過去の例からVHDとLDの例を引きましょう。両方とも映像の収録時間は2時間と変わりませんが、LDが勝利したのは帯域にデジタル音声を入れる余地があったからです。いずれも登場当時はアナログ音声しか入れられませんでしたが、LDはレーザーのデバイスによる低域ノイズの問題が解決されるとデジタル音声を入れることが可能になったのです。これは規格として現状に最適化しすぎると、後から生まれた発想や技術に対応できなくなることを示した例と言えます。次世代DVDも同じで、キャパシティ・マージンは重要だったのです。
ではなぜ、東芝は15G/30Gバイトの容量でいけると踏んだのでしょうか。いけると踏んだというよりも、行くしかなかったというのが実際でしょう。DVDの延長に新しいフォーマットを構えるのですから、どうしても長時間記録はスポイルされます。DVDというフォーマットに立つ側としては、既存の延長線上でやっていくしか選択肢がなかったといえます。
現在、BD-ROMの半数が50Gバイトディスクです。ソニー・ピクチャーズの「未知との遭遇」のようにDTS-HD Master AudioなどのHDオーディオを入れようとすると50Gバイトないと容量が足りないのです。ワーナーとしても方針転換のタイミングに差し掛かっていたのでしょう。
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