ネット視聴にもう1度「テレビ」を持ち込むbranco:小寺信良の現象試考(3/3 ページ)
PCで見る映像配信サービスといえば、ほとんどが見たい内容を利用者がリクエストするVOD型だが、ソニーの「branco」はあえて“流しっぱなし”のスタイルだ。
新しい広告モデルを模索
――brancoというのは、一応、CMによる広告モデル収支と考えていいんでしょうか。
柿沼: CMは入っていますけど、単純に広告が入って収支が合えばいいというモデルでもないんです。実はユーザーの属性に応じてコマーシャルを変えていくというトライアルをやっています。
brancoの場合は、専用プレーヤーソフトで映像を見ている間に、裏でチャンネルが貼られていて、そこでCMを送っています。ユーザーのプロファイルに応じて、適切と思われるCMを蓄積するというような動きですね。そしてそのローカルに保存されたCMが、番組のCMチャンスに流れるわけです。
――ユーザーのプロファイルは、最初に登録するときの属性ですか。
柿沼: 基本的にはそこで普遍的な情報、例えば性別とか生年月日とかを取るだけで、あまり細かくは取っていません。というのも、登録段階で趣味志向を取っても、1年後には変わる可能性は高いですよね。それだったら別にアンケートシステムを作って、そこでこう答えた人にはこのCM、といったことはできるようにしてあります。今のところCMもトライアルで、素材をお借りしている段階ですけど、将来的にはそこの収入でコンテンツ調達費ぐらいはまかないたいと思っています。
――CMは自分に関係ないものは不快感がありますけど、自分に関係するものだと案外、邪魔に感じないものですよね。
柿沼: これまで我々もクライアントという立場でCMを流してきたわけですが、放送ではまさに送りっぱなしで、相手の属性がまったく分かりませんでした。同じ広告を打つにしても、マスをターゲットにする商品と、そうでないものは当然あるわけです。
ターゲッティングがきちんとできていれば、スポンサーとして広告が出しやすいものは沢山あるはずです。動画のCMを使ってこのようなターゲッティングというのはまだ動きがないわけですが、これを我々でやっていこうと。
このサービスがソニー本体ではなく、販売会社であるソニーマーケティングがやっているという意味も、そこにあるわけです。エンドユーザーと我々がいかにつながりを持って、ソニーのハードウェアの販促をどのようにやっていくのか、ということなんです。ですからもうからないやめるという話ではなく、長期的にサービスを見て行けると考えています。
現状、brancoというサービスはまだそれほど知られていない。むやみに周知してもIPv6サービスの加入者しか見られないため、広報の仕方もまた考えなければならない。しかし、無料サービスということで、フレッツ光のデモンストレーションに使われたりということはあるようだ。
ネットの映像配信ビジネスは、これまで「いかに放送的なものではないものにするか」という点に注力してきた。放送には一方通行という制限があり、そのインフラ的制限がなくなったときに、映像ビジネスはどう変わるか、ということを模索してきたわけである。
一方で映像の視聴方法ということに注目すれば、人々の生活サイクルが多様化したために、一元的な番組編成ではフィットしない人というのが出てきた。それは人の嗜好が変わったわけではなく、時間軸がずれてる人が多くなっただけなのである。brancoが1周回ってテレビと同じようになったというのは、時間軸で弾き出された人に対して別の選択肢を与えるという、1つのムーブメントと言えるかもしれない。
人がテレビに合わせる時代から、テレビが人に合わせる時代に変化していくというのは、もはや必然のように思える。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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