思い切って放送行政のちゃぶ台をひっくり返してみよう:小寺信良の現象試考(3/3 ページ)
ダビング10が延期となった。省庁を巻き込んでの大ゲンカにまで発展しそうな状況だが、そこまでもつれるならば、根本的なところからひっくり返してみてはどうだろう。
総務、経産省側の思惑としては、著作権とのバランスの中で規制緩和をやる腹づもりはあっただろう。B-CASのPCへの解禁など、文化庁抜きでやれるところは手を打ってきたわけだ。しかしここにきて、廃止前提で死に体同然の補償金がネックになって放送行政がガタガタになろうなどということは、考えていなかった事態だろう。
個人的には、前出のシミュレーションぐらいまでちゃぶ台をひっくり返して、さあどうします、それでもこのまま進めますか? と問いたいところだが、現実はそこまで逆走はできないだろう。しかしテレビ行政全体として、もっと放送コンテンツというものの利便性を高めなければ、このままテレビ産業は斜陽になるばかりだ。
現場は認めたがらないが、放送事業への広告出稿が減少し続けているのは、放送にはもうそんなに力はないと社会が判断しているからである。力とは影響力であり、より多くの人が能動的に見るという事実だ。広告主からしてみれば、リアルタイムで見られようが録画で見られようが、目にとまれば関係ない。録画だと飛ばされるというのであれば、CMカットを禁止するのではなく、録画されてるからこそ面白いというCMを企画すればいいだけである。
放送が持ち直すために必要なのは、厳しいDRMによる視聴者の囲い込み規制ではない。以前のように、経済・知的活動がマスメディアによって牽引される平面的な社会だったら、囲い込めば金魚は囲まれるだけだった。しかし今消費者は、ITによってそれ以外の多くの情報をダイレクトに探すことができるようになり、抜け道が上や下にあるということに気づいてしまった。社会構造が立体的になったのだ。
以前と同じようなことをもう一度言うが、放送が斜陽になったのは、デジタル放送のせいではない。これまで積極的にテレビ番組を視聴していた層が、コピーワンスのような利用制限のせいでうんざりしてしまったからだ。本来ならばハイビジョンによる高画質は、その日本人的な高画質・高スペック嗜好から、物理的なネットへの流出制限として動作するはずだった。そんな1番組7Gバイトぐらいあるファイルを、わざわざネットに上げたりするものか。
小さくエンコードしたファイルがネットへ上がるのが困るのならば、なぜ放送局内にそれを巡回・監視する部署を作らないのか。せいぜいYouTubeとニコニコ動画を巡回して削除依頼を出すだけで、十分効果があるだろう。そんなもの、ネット動画大好きなやつを4〜5人も雇えば済む話である。うんざりするほどの量の削除依頼を出せば、サイト運営側も最初からそういうコンテンツは載せないようにしたほうが効率的だと判断する。結果的に自浄していくのだ。
同様に消費者がデジタル放送への移行が進まないのは、アナログが停波することを知らないからではない。むしろデジタルになるといろんなことが不便でめんどくさいというところまで知ったから、あえて移行しないという層も、確実に存在する。そしてそのような人たちが、デジタルデバイスのアーリーアダプタなのである。
結果的に何がどうなれば成功なのかを、もう一度考えてみよう。答は本当はもう出ている。プライドがそれを受け入れられないだけのことなのではないか。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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