「B-CASカード」――その存在理由と問題点:デジモノ家電を読み解くキーワード
薄型テレビやレコーダーにつきものの「B-CASカード」。ただセットしているだけという人も少なくないはず。今回は、その役割と問題点について解説する。
B-CASカードの役割
B-CASカードは、デジタル放送の受信機(チューナー)にセットし、B-CAS方式で暗号化された映像(電波)を視聴可能な形にするために必要なカードだ。
デジタルチューナーと対になる形でテレビやレコーダーなどの製品に同梱されているが、契約形態としてはビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(以下、B-CAS社)という企業からの貸与品であり、使用開始時には同社と「B-CASカード使用許諾契約」を締結することになる。契約は製品を購入、開封した時点で成立し、以後無償での利用が可能だ。
B-CASカードのICチップには、そのカード固有の識別情報とともに「暗号鍵」データが収録されている。対象となる放送(BSデジタル/110度CSデジタル/地上デジタル放送)にはコピー制御信号(CCI)が加えられているため、その暗号鍵を使い暗号鍵を解読(=データの復号)した後、CCIが規定する範囲でデータ利用(代表的なものがコピーワンス)が可能になる。
これによってB-CASカードなしにはデジタル放送を視聴できず、かつCCIに定めがない複製などのデータ利用は許されない、という日本のデジタル放送における限定受信方式(B-CAS方式)が実現されているのだ。
B-CASカードにまつわる疑問
しかしこのB-CASカード、実に不思議な点が多い。当初6月2日のサービス開始が予定されていた「ダビング10」の延期とも無縁な話ではないため、その点を整理してみよう。
まずは、発行・運用にあたるB-CAS社が私企業であること。テレビ放送という国民生活のインフラに近い部分が、いち営利企業に独占されているのだ。国民の受信料で運営される準国営的放送事業者のNHK(18.4%)が出資比率1位だとしても、2位のWOWOW(17.7%)、3位のNTT東日本/東芝/松下/日立(各12.25%)を足すだけでも66.7%と、議決権の過半数をクリアしてしまう(出資比率は電波監理審議会(第860回)会長会見資料より)。ちなみに、B-CAS社株式の譲受を制限する法律・法令は存在しない。非上場会社であり、財務内容を公開する義務もない。
もう1つは、B-CASがクレジットカードサイズでしか供給されていないこと。B-CASカードの実体(認証および信号の複合化)は、内蔵のチップに凝縮されているが、外枠が大きいためカーナビやノートPCでの利用に支障をきたす。技術的には可能なはずだが、現在のところ「B-CASチップ」は登場していない。そのほかにも問題視されている点は多い。
B-CASカードの登場により、視聴スタイルも変化した。従来、視聴制限の必要な放送は世帯単位の契約が主だったが、契約がB-CASカードにひも付けられたため、カードを持ち運べば未契約世帯でも視聴が可能になった。また、チューナー1基に付き1枚のB-CASカードが必要となったため、家庭で複数枚のB-CASカードを所有する――複数契約を締結している状態――も珍しくなくなった。これはNHKを例に挙げると、現行の1世帯1契約という日本放送協会受信規約が反故にされかねず、視聴者に不公平感が生じることも考えられる。B-CASカードのあり方そのものが問われる事態が多く存在しているといえるだろう。
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