「ダビング10」(1)――コピーワンスからの経緯:デジモノ家電を読み解くキーワード
デジタル放送の「コピーワンス」が今後緩和され、コピー9回+ムーブ1回まで可能な「ダビング10」に変わる予定だ。まずはどのような経緯でダビング10にたどり着いたかを紹介する。
デジモノを読み解くキーワード 「ダビング10」関連記事
現在のデジタル放送は、録画したものを複製できない「コピーワンス」が前提。それが今後緩和され、一定の条件下でコピー9回+ムーブ1回まで許される「ダビング10」に変わる予定だ。そのダビング10について説明する前に、どのような経緯でダビング10にたどり着いたかを紹介してみよう。
コピーワンスの是非を巡る攻防
コピーワンスのあり方についての認識は、映像機器の売上げを伸ばしたい家電メーカーと、著作権保護を強化したい放送局などのコンテンツホルダーとの間に、大きな隔たりがある。
家電メーカー側の見解を要約すると、録画時以外はコンテンツの移動(ムーブ)しか認められない現在のコピーワンスは消費者にとって厳しすぎ、デジタル放送普及の障害となっている……言い換えれば、コピーワンスのために映像機器の売上げが伸び悩んでいる、というのだ。彼らはコピーワンス「緩和派」で、制限を緩くすることが消費者の利益につながると主張した。
緩和派は、「1世代のみコピー可」から「出力保護付きでコピー制限なしのEPN」に変更すべしという、いわゆるJEITA案「地上デジタル放送のコンテンツ保護に関するJEITA提案内容」(リンク先PDF)を2005年末に提出した。
それに対し「維持派」であるコンテンツホルダー側の態度は冷ややかだった。JEITAが提案したEPNに対し、NHKをはじめ東京・大阪・名古屋の民放テレビ16社で構成するRMP協議会準備会は2006年3月に「コピーは1世代のみ、ただしムーブ失敗への配慮とメモリカードへのムーブを認める」(リンク先PDF)と、あくまでコピーワンス維持を主張している。
1回から9回へ、しかし……
行き詰まり状態に陥ったコピーワンスを巡る議論だが、総務相の諮問機関である情報通信審議会の提案により状況が一変。緩和派が主張するEPNは受け入れられないかわりに、コピー9回+ムーブ1回まで認められ、維持派はコピー回数増を受け入れることになるが、コンテンツ保護は担保される、という「折衷案」が登場した。
ここでは録画元(HDD)でコピー情報を管理することにより、コピーの回数/世代を管理する。回数の制限は、録画機内蔵のDVDとメモリーカード、およびiLinkなどのデジタル回線経由でのコピーに対して行われる。D端子やS端子などのアナログ出力は対象に含まれない。
緩和派は早々に受け入れを表明。名称も「ダビング10」に統一され、すでにパナソニックなどのメーカーがサポートを公表している。
しかしこのダビング10、1世代のコピーしか認められず、いわゆる孫コピーはできない。複製は可能だが、あくまでコピー元は最初に録画したHDDなのだ。次回は、ダビング10の制限事項について解説する予定だ。
関連記事
- 小寺信良:そうだ、「Culture First」だ
B-CASや補償金などで「文化を守る」と声高に叫ばれるが、日本流のコンテンツを作り、さまざまな手段で販売していくことこそが、本当の「Culture First」に結びつくのではないか。 - 「ダビング10」とは何だ――MIAUがシンポジウム
インターネット先進ユーザーの会(MIAU)がコピーワンスからの移行が目されている「ダビング10」についてシンポジウムを開催した。「賛成反対ありではなく、基本的な情報を共有したい」というスタンスのもと、出席者が意見交換を行った。 - 対談:小寺信良×椎名和夫(最終回):ダビング10の向こうに光は見えるのか
小寺信良氏と椎名和夫氏が津田大介氏を司会に激論を交わす対談も最終回。話題は議論の表舞台に姿を見せない放送局やB-CASまで広がっていく。果たして、ダビング10の向こうに光は見えるのか。 - 対談:小寺信良×椎名和夫(2):「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか
津田大介氏を司会に、小寺信良氏と椎名和夫氏がデジタル放送著作権管理のもつれた糸を解きほぐす対談も第2回。権利者・放送事業者・機器メーカー・消費者がともに利益と痛みを背負う「四方一両損」を目指したはずの議論はなぜ、ねじれたのか。 - 対談:小寺信良×椎名和夫(1):ダビング10」はコピーワンスの緩和か
「ダビング10」へ移行を進めるデジタル放送の著作権管理だが、一般消費者からすれば“気が付いたらそうなっていた”という印象が強い。権利者団体のひとつ芸団協の椎名和夫氏と、本誌コラムでお馴染みの小寺信良氏がコピーワンスの諸問題について激論を交わす。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.