ダビング10時代のエアチェック考:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
開始された「ダビング10」。問題点も残るが、これまで以上に柔軟な番組録画と運用が可能になった。40年来のエアチェックマニアでもある麻倉氏がダビング10時代のエアチェックについて語る。
エアチェックといえば、最近驚いたのがNHK BS2の画質が良くなっていることです。先日、映画「いつでも夢を」をエアチェックしたのです。古い映画なので(1963年)あまり画質に期待をしていなかったのですが、遠目に見るとハイビジョンを見まがうほどの素晴らしい画質でした。
NHK BS2は放送開始当時(2000年)、ブロックノイズが出るなど画質面では不満の残るものでしたが、半年程度で改善されたという経緯もありますので、最近もなんらかの改善が行われたのでしょう。NHK BS2には作家や評論家が自身のテーマで語る「私のこだわり人物伝」など興味深い番組が多く、非常に楽しめます。撮影自体はハイビジョン撮影をしているはずなので、ぜひともハイビジョン放送をして欲しいものですね。
民放のBSは相変わらずですが、視聴世帯が3000万世帯を超えたことで収益が安定したのが良い番組が増えています。BS FUJIの紀行番組「プラチナ・シート」は車での移動という要素を加えたことで、大画面で楽しめる臨場感付き紀行番組といったおもむきです。映像的にも、解像感を意図的に抑えてややチープな感じにしているにもかかわらず、フィルターワークを駆使して木々の緑を強調するなど、制作側のコダワリを感じます。これまでのリアリティ指向一本槍ではなく、つまり「見た目と同じ」ではないところが興味深いですね。
BSジャパンのドキュメンタリー「トゥールビヨン〜時の仕掛け人〜」も面白いです。数千万円する超高級時計をハイビジョンで、緻密かつ丹念に映す“だけ”なのですが、金属のディテールや秒針の動き方など、細部までが鮮明で、ハイビジョン放送でしか成立しない番組です。ただ、制作費が少ないのか、銀座の時計店でしかロケしてないのがなんとも……(笑)。
勢いづくBDレコーダー、秋冬モデルはさらに充実の予感
――ダビング10の開始は夏のレコーダー商戦の起爆剤とも期待されています。各メーカーの夏モデルをどうご覧になりますか。
麻倉氏: ここにきてBDレコーダーが勢いづいていることは確かです。金額ベースでは市場の半分を占めるまでになりましたし、年末には台数ベースでも半数を超えるでしょう。市場ニーズに応じた安価な製品も投入されることになるでしょうから、バリエーションも増えるはずです。
メーカーごとでは、ソニーとパナソニックは昨年冬モデルからの継続路線といえますが、面白いのがシャープです。テレビのAQUOSはあまりに大きなビジネスになってしまったため、過度なコダワリを入れにくくなっていますが、レコーダーは製作者側のコダワリが強く反映されています。
デジタルハイビジョン放送をHDDに記録するという製品を初めて世に送り出したのはシャープですし(DV-HRD20/DV-HRD2)、HDDからBDへ録画するという製品も他に先駆けて発表しています(BD-HD100)。保守的なイメージのあるシャープですが、レコーダーに関しては非常に先鋭的なのですね。しかし、本格的なBD離陸のタイミングで、録画できるBDプレーヤー(BD-HP1)やHDDレスで録画はBD-REのみ(BD-AV1/BD-AV10)といったユニークとしかいいようのない製品を出してきました。
ですが、今夏にはAVCRECのトランスコーディングに特徴のある製品を投入してきました。実はCEATEC JAPAN 2007のBlu-ray Disc Associationのイベントでシャープの小田氏(AVシステム事業本部 副本部長 兼 BD事業化推進センター所長の小田守氏)が「ハイビジョンはTSだからこそ価値がある」と力説していたのですが、長時間録画を求める市場の流れには逆らえないようで、新モデルにはAVCRECを実装してきました。ですが、ストリームを全解凍せず、一部だけ解凍するという方法で画質・音質の向上を狙っています。
小田氏は使命感を持って行動している人で、理念をどのように実現するかに力を入れています。BD部門のトップなのでデバイスレベルまで目を配っているのですが、今夏のモデルがシャープらしい先鋭さを持っているのは彼の力でしょう。秋モデル以降も期待できますね。
BDレコーダーは秋以降にも興味深い製品が多く登場しそうです。DVDは登場後3〜4年してから画質・音質に大きな向上が見られましたが、BDも同じような道をたどることになりそうです。現在、画質・音質面ではデノンのBDプレーヤーが飛び抜けていますが、その存在が各社へ刺激を与えており、秋ごろには、その刺激を受けた製品がソニーやパナソニック、パイオニアといったメーカーから登場することでしょう。先ほども述べたように低価格機も充実しそうなので、BDレコーダー/プレーヤーは秋以降も期待ができますね。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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